TeddyLoidが語る“ドメスティック目線”のオーディオレビュー 当代きってのトラックメイカーはフレンチエレクトロに回帰するか?
18歳のときにMIYAVIのメインDJ/サウンドプロデューサーとして13カ国を巡り、キャリアをスタートさせたTeddyLoid。すでにDJ/プロデューサーとして15年以上のキャリアを重ねている彼は、ビッグルーム系のベースミュージックを主軸に、さまざまなジャンルのダンストラックをリリースしてきた。自身のルーツであるフレンチエレクトロのアーティストたちがそうしてきたように、彼もまた垣根を超えた活動で注目を集めている。
ロックバンドのMY FIRST STORYや[Alexandros]へのリミックス提供、近年ではホロライブやにじさんじのバーチャルタレントにも楽曲のプロデュースをおこなっている。盟友であるGigaとの共作ではAdoの「踊」や「唱」などのスーパーヴァイラルヒットを生み出した。その名声は今や国内だけにとどまらず、アメリカをはじめ世界中のフェスやパーティからラブコールがやまない。
そんな日本から世界を股にかけて活動する同氏に、群馬県高崎市を拠点とするオーツェイド社が開発したインイヤーモニター(IEM)ブランド〈Maestraudio(マエストローディオ)〉の最新有線イヤホン『MAPro1000』(エムエープロ・セン)と、ドイツ発の音響機器メーカー〈ULTRASONE(ウルトラゾーン)〉が手がけた『Signature PURE』(シグネチャー・ピュア)という2つのイヤホン/ヘッドホンについてインタビューを行った。オーディオレビューのほか、本稿では独自の路線で国内ダンスミュージックを開拓してきた才人の足跡にあらためてフォーカスし、今後のビジョンについても話を聞いた。
「やっと自分たちがダンスミュージックをメインストリームに持っていくことができた」
ーー近年のTeddyLoidさんの楽曲を聴いていると、トレードマークであるビッグルーム系のサウンドだけでなく、抑えの効いたニュアンスもみられるように思います。これはご自身のフィーリングが変化したのか、あるいはシーンの影響によるものでしょうか?
TeddyLoid:コロナ禍の影響が大きいですね。ほとんど全員が外に出られなくなったことで、僕もいわゆる“踊れる”曲だけじゃなくベッドルーム的なニュアンスも求めたくなった。そのマインドの変化が僕をよりメインストリームに向かわせてくれた気がします。みんなが一斉に同じ条件下になったことで、感覚を共有できたというか。
ーー国内のダンスミュージックはバーチャルアーティストとの親和性を見せ、ロックダウン期間中に独自の進化を遂げたようにも見えます。
TeddyLoid:それは僕も実感してます。最近の自分のヒット曲であるAdoの「踊」や「唱」は、ひとつの大きなステータスになっていて、僕にとってゲームチェンジのきっかけになりました。ある日スタジオから出たときに、すれ違った小学生2人組が「『踊』歌える?」とか言って歌って踊っていて驚きました。そういう音楽をやっと自分は作ることができた。日本でのダンスミュージックの完成を見た気がしましたね。子どもから大人までみんなで踊って歌える。ダンスミュージックって元々はインストだったと思うんですけど、それが日本では歌と融合して、新しいものになっているように感じます。なので、自分の音楽も激しいビッグルーム一辺倒ではなく、ベッドルームやあるいは場所を限定せずにさまざまなデバイスで聴けるように設計しているつもりです。そういう意味では、やっと新しい方程式みたいなものを作れたような気がしますね。
ーーTeddyLoidさんをしても“やっと”という認識なんですね。
TeddyLoid:やっとです。18歳からいろいろなプロジェクトに関わってきましたけど、自分のダンスミュージックが幼稚園生から大人まで浸透したと感じるのはこの3年くらいですよ。例えばケンモチヒデフミさんや、TAKU INOUEさんは食事にもご一緒させてもらう仲なんですけど、話してると同じ認識を持ってらっしゃるように感じます。偉大な先輩プロデューサーがたくさんいた中で、やっと自分たちがダンスミュージックをメインストリームに持っていくことができたと。
ーーたしかに、ポケモンのエンディングテーマにもなった「Let me battle」は最たる例ですよね。長くダンスミュージックに触れてきた身として、「ポケモン」というフォーマットでイーブンキックのダンストラックが聴ける世代が羨ましいです(笑)。
TeddyLoid:お話をいただいた段階で絶対にドロップは入れようと思ってました。毎週金曜日の夕方18時半にダンスミュージックが流れるなんて最高じゃないですか。そこに辿り着けたことに対しては自負がありますね。
ーーそのようにダンスミュージックとは異なる分野から求められるというのは、TeddyLoidさんの特徴でもあるとも感じます。[Alexandros]の「閃光」をリミックスされてますが、現時点で彼らとしては初のリミックストラックなんですよね?
TeddyLoid:僕がお話を受けた段階ではそうみたいです。ありがたいことですよね。[Alexandros]さん側からオファーをいただいたんですけど、原曲がアニメ『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の主題歌だったこともあって、僕がアニメジャンルの音楽をたくさん手掛けていたことも決め手のひとつだったかもしれません。最近はMY FIRST STORYさんの「I’m a mess」もリミックスさせていただいて、それも同じ文脈で考えられるかもしれないですね。僕もロック畑のアーティストからお声掛けいただけるのは嬉しいんです。個人的にはThe Bloody Beetrootsが好きなので、ロックバンドのシンガーも叫ばせたいし、踊らせたいんですよね。
ーーロックバンドとのクロスオーバーという点では2000年代との類似点も指摘できるのかなと。
TeddyLoid:仰る通りですね。僕が最も影響を受けたレーベル『Ed Banger』のアーティストに目を向けても、彼らはさまざまなジャンルの壁を飛び越えてましたから。だから僕、もう1回フレンチエレクトロの流れが来ると思うんですよね。そもそも、僕はロックとダンスミュージックって、近いところにあると考えているので。
ーーTeddyLoidさんの楽曲って、ある意味でオーセンティックなダンスミュージックから外れているところがあるんですよね。テクノやハウスのようにリフレインせず、そのシーケンスにしか出てこない音がある。
TeddyLoid:それに関しては僕の楽器的なルーツであるエレクトーンが関係してますね。この楽器では、レジストレーションメニューと言って1から順に番号で音の種類やリズムを振り分けられるんです。僕は2歳からエレクトーンに触れてるんですが、楽曲の組み立て方としては「箱・箱・箱」みたいに考えてます。このシーンではこの音とこのリズム、また別のシーンではこの音とこのリズム……といった感じですね。ループミュージックの考え方ももちろん自分の根底にあるんですけど、楽曲ににじみ出てくるのはレジストレーション的なアイデアなのかもしれないです。
ーーお話を伺っていて、アイデアがあり過ぎるあまりかえって困るみたいな状況もあるのではと思い至りました。それだけ色んなニュアンスやジャンルを表現できると、受け手側が受け止めきれない場面もあるといいますか。
TeddyLoid:以前までは本当に多かったですね。理解してもらえないと感じることもあったんですけど、今はありがたいことにリスナーの数も増えてきて、自分がやりたいことをやって受け入れてもらえる場面が出てきてます。今年の2月にCHOMPO(アメリカのプロデューサー・Tokyo Machineのレーベル)と共同でリリースした「GIMME DAT」はベースハウスですが、いろいろな国の人に聴いてもらえてるみたいで。
ーー素晴らしいダンストラックでした。ここまでのお話を踏まえると、この「GIMME DAT」では“ダンス”に回帰している印象があります。ドロップは最高のベースハウスで、それ以外の部分はフレンチハウスのニュアンスが濃いように思います。
TeddyLoid:実は明確に意図があります。まだ公表できませんが、いまあるプロジェクトを準備している最中でして……。仰るように、自分のルーツに回帰するような内容にはなりますね。そのために「GIMME DAT」でベースハウスやフィルターハウスを挟んでおこうかと(笑)。言えるときが来るまで、ぜひ楽しみにしていてください!
日本を拠点に世界で活躍するTeddyLoidが驚いた、群馬のブランドによる“最新イヤホン”
ーーさて、ここからはイヤホン/ヘッドホンについてお聞きしたいです。まずは群馬県高崎市に本拠を構えるオーツェイド社のブランド〈Maestraudio(マエストローディオ)〉の最新有線イヤホン、『MAPro1000』(エムエープロ・セン)およびバランス接続用ケーブル『MAPro1000 Cable 4.4』について。使用感などはいかがでしょうか?
TeddyLoid:メイド・イン・ジャパンで、この価格帯でこのクオリティのイヤホンが出てきたことに驚きましたね。僕も日本を拠点に世界に向けて頑張っているので、この製品が日本から出てきたことが本当に嬉しい。まず驚いたのは軽さです。イヤホンは軽さとフィッティングが一番重要。その大前提を体現したような製品ですよ。コンシューマー向けのイヤホンだと、『MAPro1000』がこれまでで一番耳にフィットします。長時間着けられるし、痛くない。多分合わない人はいないんじゃないかな。
肝心なサウンドステージも素晴らしいです。1万円台とは到底思えない。各楽器のバランスが素晴らしいんですよね。低域から高域までフラットに出ているのに、少しだけリスニング向けに味付けされている気がします。そのチューニング具合というか、気の利かせ方がメイド・イン・ジャパンですよね。
ーーフラットにも聴こえるということは、やはりモニターっぽさも残されているのでしょうか?
TeddyLoid:より厳密に言うと、モニターの形をしたリスニングって感じですかね。ここにちゃんとドラムが置いてあって、ベースやシンセがあって……といった具合に風景が目に見えるんですよね。自分の曲もこのイヤホンで作りたいですもん。
ーー音楽を楽しめつつ実用的でもあると。
TeddyLoid:めちゃくちゃ実用的。ケーブルも良かったですし、なによりこちらの凄さはノイズがないこと。このイヤホンはいわゆる“シュア掛け”と呼ばれるタイプの製品ですが、この手のモデルはケーブルにワイヤーが入ってるタイプも多いんです。好みの問題ですが、僕はコンシューマー用のイヤホンにはワイヤーよりもしなやかさを求めたいんですね。だからこの形状でこの質感がベストだと個人的には思います。バランスケーブルが5,000円台で手に入るのも素晴らしいですよ。ケーブルひとつでもうワンランク上がりますからね。
ーー具体的にはどういった部分に変化があるのでしょう?
TeddyLoid:全体的に解像度が底上げされますね。音がエナジードリンクを飲んだ感じになるというか(笑)。
あと、『MAPro1000 Cable 4.4』は音楽だけじゃなく映画やゲームにもあうと思います。アクションやFPSなどは最高の臨場感で体験できます。僕は海外遠征の際は『Steam Deck』でゲームをプレイすることが多いのですが、まさにその環境とマッチする。ゲームは有線のほうが遅延もしないですし。
ーー私もこのイヤホンとケーブルで『モンスターハンター:ワールド』をプレイしてみましたが、すごい迫力でした。
TeddyLoid:そうなんですよ。それと、このふたつを組み合わせたときに感じるのが“立ち上がりの速さ”。このイヤホンが得意としているのは最新のポップスやダンスミュージックを含めた近代的な音楽だと思うんですが、それをこのバランスケーブルで経由するとさらに立ち上がりが速くなる。だから本当にすごい臨場感で聴こえるんです。4.4mmプラグのケーブルはイヤホンと別売り(イヤホンに付属するのは3.5mm3極 L字プラグ)ですが、揃える価値はあると感じます。
数年前の音楽業界ではリスナーのイヤホンが軽視されていたんですが、その頃から僕はずっとそんなことはあり得ないと思っていたんです。音楽は良い音で聴きたいに決まってるし、このイヤホンはそれを1万円台の価格帯で叶えてくれる。僕の曲を聴くならこれで聴いてほしいとすら思います。この製品なら、僕がDTMで作っているすべての音を聴き取れますから。