任天堂、業績浮沈のカギ握る“IPの再利用” 2025年3月期に予測する利益減を補えるか

任天堂、業績浮沈のカギ握る“IPの再利用”

 任天堂は5月7日、2024年3月期の連結決算を公開した。

 発表によると、売上高が4.4%増の16,718億円、営業利益が4.9%増の5,289億円、経常利益が13.2%増の6,804億円と、主要な項目がすべてプラスで推移。純利益は過去最高を更新した2023年3月期をさらに上回り、13.4%増の4,906億円となった(増減はすべて前期比)。

 Nintendo Switchの台頭などから、ここ数年はこれまで以上に注目が集まりやすくなっている任天堂の決算報告。その概要、ともに公開された2025年3月期の業績予測などから、“逆転の突破口となり得る要素”の成功条件を考える。

ハードウェア販売が失速するなか、なぜ任天堂は好業績に?

 根幹であるゲーム事業では、市場から期待されていたNintendo Switch後継機のローンチ時期が水面下で延期されたとのリークがあった任天堂。同機は今年3月でリリースから丸7年を迎え、ここ数年は市場に浸透しきったこと、話題性のある新規タイトルの発売が減っていることに起因すると見られる失速が浮き彫りとなりつつある。実際に2024年3月期では、Nintendo Switch(通常モデル)の販売台数が前期比マイナス37.1%の386万台となった。有機ELモデルは前期比プラス1.1%(932万台)と健闘しているが、ハードウェア全体では、前期比マイナス12.6%と顕著な減少を見せている。このような背景もあり、2024年3月期の連結決算と同時に公開された今期(2025年3月期)の予測では、連結純利益が前期比39%減の3,000億円になる見通しであることも明らかとなった。

 こうした下降線のなかにある1年であったにもかかわらず、なぜ任天堂は2024年3月期の決算を好調に推移させることができたのか。そこには一部のキラーコンテンツのヒットが影響している。

 同社は2023年5月に人気タイトル『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下、『ゼルダの伝説 BotW』)の続編となる新作『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ キングダム』をリリースしている。今回発表された決算資料によると、同タイトルは2024年3月末時点で2,061万本を売り上げているという。前作の累計本数の約3分の2を1年足らずで販売したことがソフトウェア領域での実績を大きく押し上げた。

ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム 1st トレーラー

 他方、ゲーム事業以外の分野では、2023年4月に公開された映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が躍進。報告によると、関連売上がモバイル・IP関連収入の伸長に寄与し、売上高で前期比81.6%増の927億円をマークしたという。全世界における同作の興行収入は13.6億ドル(現在のレートで2,100億円超)を記録している。これはアニメ映画作品の興行収入ランキングで『アナと雪の女王2』が持つ14億5,368万ドルに肉薄する、歴代2位の数字となっている。

 このように、任天堂が誇る2つの看板シリーズからジャンルをまたいだヒット作品が生まれたことで、ハードウェア販売の失速に起因するマイナス分が補填された。また、海外市場において円安の為替相場から好影響を受けたこと(615億円の為替差益は、前期比プラス218億円。売上高・16,718億円のうち、海外は13,092億円。比率にして78.3%に上る)、ゲーム事業に関連するデジタル売上が伸びたこと(ダウンロードソフトや追加コンテンツの販売。前期比9.4%増の4,433億円)も過去最高の純利益を上げる一助となった。

2025年3月期は純利益が大幅減の予測も、期待される「ニンテンドーミュージアムの成功」

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』ティザー予告

 一方で、2025年3月期に目を向けると、先に述べたようなキラーコンテンツのヒットによる助けは得にくい事情も見えてくる。Nintendo Switchにとってはキャリアの終わりに近い1年となるだけに、特にファーストパーティーのビッグタイトルは発売されづらい状況にあると考えていいだろう。映画のヒットもまた想定を超えた追い風だったと考えられるため、同じような展開を期待するのは難しい。であるからこそ任天堂は、純利益39%減という厳しい見立てを示したのではないか。

 反面、ポジティブな要素もないわけではない。任天堂は今回公開した2024年3月期・決算説明資料のなかで、同社が発売してきた商品とその資料などを展示する博物館「ニンテンドーミュージアム」を今秋に開業すると明らかにしている。同施設は2021年に存在が明かされていたが、当初目指していた2023年度内の完成を延期。ともない、オープンの時期が後ろ倒しとなっていた。「1889年創業の任天堂が135年の歴史のなかで生み出してきた価値ある資産を展示・公開する」という意味では映画の製作と同様に、「IPの再利用」に分類される取り組みである。現状の注目に見合った結果を得られれば、入場料やグッズ販売収入など、新たな売上を計算できる。2025年3月期の決算においては、上振れる可能性を持つポジティブな要素であると言えるだろう。

 「IPの再利用」を目指し設立された博物館の例では、ソニー・ミュージックエンタテインメント傘下のソニー・クリエイティブプロダクツが運営する「スヌーピーミュージアム」(2016年に東京・六本木で開業。現在は同町田市へと移設)や、KADOKAWAが運営する「ところざわサクラタウン」(2020年開業)、バンダイが運営する「おもちゃのまち バンダイミュージアム」(「バンダイミュージアム」「ワールド・トイ・ミュージアム」を母体に、2007年に栃木県下都賀郡壬生町へ移転・開業)、日本テレビホールディングス傘下のACMが運営する「アンパンマンこどもミュージアム」(全国5か所。第1号の横浜は2007年開業)などがある。直近の数字では、スヌーピーミュージアムが当初の予測を上回る動員を記録(好評であったことから予定していた2年半の運営期間の満了後、移転オープンが決定)したほか、アンパンマンこどもミュージアムが2023年4月期に黒字へと転じている。一方、ところざわサクラタウンの運営元であるKADOKAWAは同施設に関して、2024年3月期の決算資料のなかで、一部事業の撤退やコストの適正化を行ったことを明らかにしている。

スヌーピーミュージアム プロモーションムービー

 ニンテンドーミュージアムの運営がプラス/マイナスのどちらに転じるかは蓋を開けてみないとわからないところがあるが、創業から135年という任天堂の歴史に鑑みれば、失敗の可能性は考えにくい。先例からその分岐点を考えるのならば、「コストに見合った収入を得られるか」「来場者の期待に見合った体験価値を提供できるか」の2点にかかってくると言えるのではないか。先にも述べたとおり、ニンテンドーミュージアムの浮沈が2025年3月期の決算に与える影響は小さくない。一挙手一投足が話題となりやすい任天堂であるだけに、同施設の開業後の動向には注目しておきたいところだ。

 決算資料の公開と同日には、次世代機の発表タイミングに初めて言及した任天堂。当初は2025年3月期の見通しが予想を下回ったことが株価の下落につながったが、その後は新ハードに対する期待感が優勢となり、上昇傾向が続いている。こうした市場のトレンドもまた、ニンテンドーミュージアムのスタートダッシュには大きく関わってくるのかもしれない。

 ニンテンドーミュージアムは注目度に違わぬ成果を上げ、任天堂の2025年3月度の業績に好影響を与えられるか。続報を待ちたい。

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