人の助けが必要な“弱いロボット”とは? 相手に弱さを見せることで生まれる関係づくり

人の助けが必要な“弱いロボット”とは?

私たちはすでに弱さを持っている

ーー弱いロボットの“弱さ”は、どのようにして表現しているのでしょうか?

岡田:なかなか難しいですよね。弱さをつくり込もうとすると、あざとくなってしまうんです。そもそも僕らは弱さを設計段階では考えていないんです。わざわざ設計しなくても、原理的に不完全なことって実はたくさんあるんですよ。たとえば相手に「こんにちは」と言ったとしても、相手が「こんにちは」と返してくれる保証はありません。返事をしてくれなかったら、こちらが言った「こんにちは」は意味を成さなくなります。その意味で、はじめから「弱さ」や「不完全さ」を抱え込んでいるようなんです。

 また、相手が無表情だったりすると、どんなタイミングで話したらいいのか、どんな言葉を選んだらいいかわかりません。ただ会話をしていくうちに、自分でタイミングや言葉の選択ができるようになっていきます。言葉を話すとき、私たちは相手の表情や仕草を手がかりにしているんです。

ーー私たちが持つ不完全さは、言葉以外にもあるのでしょうか。

岡田:もちろん、身体的にも私たちは不完全さをすでに持っています。先ほどの『ASIMO』の話にもありましたが、歩くという行為も、どうなるかわからないけど一歩目を踏み出す瞬間が必要です。このように私たちの行動のなかには、常に脆弱性が付きまとっています。それは私たちの身体が、ある種の不完全さを持っているからなんです。

 たとえば、自分の顔って自分では見えないですよね。ただ、相手の表情を手がかりに自分はいまどんな顔をしているのかを考えることができる。周りの手助けを上手に引き出して、自分がいまどんな表情で話してるかを把握しているんです。このように私たちは、自身の不完全さを相手に委ねることで補っているんです。

ーーなるほど。すでに私たちは、弱さや不完全さを抱えているんですね。

PoKeBo Cube

ーーちなみに、なぜ岡田さんたちの開発する弱いロボットは人型ではないのでしょうか? 人型の方が、弱いロボットがどんなことに困っているのかなどがわかりやすいと思うのですが。

岡田:理由は2つあります。ひとつは、人型にしてしまうと人間のような能力や機能を持っているのではないかと、期待してしまうからです。最初から何もできないだろうと判断していたら、予想以上の反応があったときに嬉しいと感じますよね。これを、「期待値のコントロール」と言います。

 もうひとつは、見た目が明確すぎると、相手に意味を押し付けてしまうことになるからです。私たちが開発しているロボットの見た目はとてもシンプルで、表情などがありません。話しているうちになんとなく、「ここが顔か」「じゃあここが背中かな?」と僕らが積極的に解釈に参加することができて、納得感も強くなるんです。

CULOT mini

岡田:高性能すぎたり、相手に期待を持ち過ぎたりしてしまうと、僕らが関わる余地がなくなってしまいます。そうなると相手と距離が生まれ、共感性が失われていく。できるだろうと思っていたことができなかったときに、「どうしてできないんだ」「もっとこうして欲しい」と、要求水準がエスカレートしてしまうんですよね。

ーーこれは……人間関係でも同じことが言えますよね。

岡田:そうですね。私たちは「なんでもひとりでできるようになるんだよ」と言われて育てられているし、自立した行動をするために頑張ってしまいます。ときには人に対して厳しくなってしまうこともある。でも、自分の弱さが相手の強みを引き出すこともあるんです。弱さを見せることで、関わりが生まれることもあるんですよ。

 最近では人工知能が発達し、ChatGPTがなんでも答えてくれますよね。でも、必要としているのは私たちだけで、向こうはあまりこちらの存在をあてにしていない。それは一方的な関係性なんです。こちらの力を必要としている方が、一緒になって何かを成し遂げる関係性が生まれると考えています。

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