デスゲーム形式の『ALTÆR CARNIVAL』は必然だった 『Project:;COLD』藤澤仁に聞く“リアルを巻き込むARG”の現在地

 現在進行形で起きている事件をネットで目撃し真相を暴く、不可逆性SNSミステリー『Project:;COLD』。その「2.0」としてデスゲーム『ALTÆR CARNIVAL』が開催された。

 総監督は「ドラゴンクエスト」シリーズなどを手掛けたゲームクリエイターで、株式会社ストーリーノートの代表取締役である藤澤仁氏。今回は藤澤氏にくわえ、同社のリード・シナリオライターの今泉麻奈美氏に、『Project:;COLD』やリアルを巻き込むARGの現在地について聞いた。(編集部)

「形容しがたい」面白さが生まれた『Project:;COLD』

――前回お話を伺ったのは「case.613」の解決編に入る前で、展開がガラッと変わるまさにその寸前でした。「現実的なミステリーの物語がどう進んでいくんだろう」と見ていたところ、解決編から物語のジャンルが変わるくらいの大どんでん返しがあって、そこから融解班(「Project:;COLD」のプレイヤーの総称)も巻き込んだ解決に向かっていき……。融解班の動向や仕掛けも含めて、物語として形容しがたい面白さ、味わいを感じる話だったと感じました。

藤澤:ありがとうございます。「形容しがたい」という言葉がまさに的を射ていると思います。まだ世の中にないものを投じてみたら、何か予想もしない化学変化が起こるんじゃないか。そんな期待を込めて、自分たちでもなにを作ってるのかよくわからないまま進んでいたコンテンツでしたね。ただ、そんな風に自分たちの好奇心を突き詰めてやっていたら、本当に想像もしていなかった反響があって驚きました。

『Project:;COLD』総監督を直撃ーー反響を呼ぶ“SNSミステリー”はどのように作られ、どこへ向かうのか

現在進行形で起きている事件をネットで目撃し真相を暴く、不可逆性SNSミステリー『Project:;COLD』。  参加者たち(…

――藤澤さんの物語に対してのスタンスは、『Project:;COLD case.613』に向き合う前、向き合っていった最中、そしていま新たに作っていくなかで変わっているのかなとも感じました。

藤澤:そうですね。少しずつ変わってきていると思います。僕が最初に『Project:;COLD』をやろうと思ったきっかけは、「インターネットで物語を展開するってどういうことなんだろう」という閃きでした。テレビやNetflixの連続ドラマをインターネットでやっても新規性は感じられないけど、インターネットの双方向性を使えば新しい物語の表現ができるんじゃないか。そんな思考実験を元に企画書を書いていったら、結果的にそれはARG(代替現実ゲーム)と呼ばれる既存ジャンルだった、というのが最初の『case.613』でした。あれから『case.633』を挟んで、今回満を持して2.0という段階になったんですが、僕たちも世の中もARGに対する理解がずいぶん進んだなと感じています。「未知の領域に一石を投じよう」というスタンスからはずいぶん変わって、今回は「前回できなかったことをちゃんとやろう」というのが目指したところでしたね。

――ここ数年で、マーダーミステリーをはじめとしたTRPGの流行もあり、ARG的なものに対する向き合い方や、インターネット上で展開されていく物語に対するユーザーの解像度がぐっと上がった感じがあります。個人的には『Project:;COLD』がその先鞭をつけたと思いますが、『case.613』と2.0の間に入った『case.633』は、どのような位置づけのプロジェクトだったのでしょうか?

藤澤:もともと続編の計画があって、そのプロローグ版を作っていたんです。それが諸般の事情で実施できなくなってしまい、結果的に途中まで進んでいたプロローグ版だけを1.8としてリリースした――というかたちです。そういう事情もあっていろいろ不自由な環境のなかで作っていたので、最初の『case.613』とも今回の2.0ともまったく違う、ある種文学的な香りがするARGができたので、あれはあれで面白かったなと評価しています。

――2.0では『case.613』や『case.633』とはまったく違うものができていると感じました。どのような意図があったのでしょうか。

藤澤:これまで『都まんじゅう』というアイコン的な存在がいて、「この子たちが何をするのか」というのが出発点でした。ただ、僕らは『Project:;COLD』でキャラクターを中心とした世界観を描きたかったわけではないんです。インターネットを通じた新しい物語表現を探ることが狙いだったので、2.0はもう一度そこに立ち返って、「自分たちのやりたいことをやってみよう」と仕切り直しました。これは大きく分けて2つあります。

 その一つは、やはり「case.613」は筋書きのある物語だったと思うんです。なので、今回は本当の意味で筋書きのない物語、つまり作っている僕らでさえどうなるかわからない物語を作ってみたいというのが大きな柱としてありました。

 もう一つは『Project:;COLD』のような長編ARGは、何日もかけて進んでいく性質上、途中から参加しづらいという性質にあると思っています。なので、途中参加しやすい、間口の広いARGを作りたかったんです。そう考えたとき、デスゲームは展開をダイジェストで説明しやすいので、「それがいいんじゃないか」という話になったんです。今回『ALTÆR CARNIVAL』がこういうかたちになったのは、僕らにとっては必然的だったと思います。

――別媒体で「case.613」の振り返りをされた際は、「謎解きの要素を物語にどれだけ自然に浸透させるか」といった部分も今後の課題としてお話されていましたが、『ALTÆR CARNIVAL』にはその反省って活かされてます……?

藤澤:今回の『ALTÆR CARNIVAL』はクイズ番組やTVショー的な展開をしているので、謎の親和性はさほど必要ではない場面が多いんですよ。ただそこから先、本当の意味でのARGが始まったところからは、前回とは規模感が違ういろいろな面白いこと、親和性のある部分を見ていただけるんじゃないかと思っています。

 その謎の部分については、僕らは前作を作っているときの実力では、今回のようなものを作ることはできなかったと思うんです。それが『case.613』を見て、「自分もARGを作りたい」という才能のある有志がストーリーノートに大勢集まってくれたんです。今回はそういう人たちと一緒に新しいアイデアを作っていったので、ずいぶん印象の違う“新しいARG”が生まれてきていると思います。

今泉:『case.613』と一番違うところとして、今回は謎の量が本当に膨大なんです。その量のほとんどを社内で作れるようになったというのは大きいことだなと思います。

藤澤:眞形さん(眞形隆之:同シリーズを支えるミステリーデザイナー)には今回もアドバイザーとして入ってもらいましたが、社内でいろいろな謎を作れる人間が増えたので、内部的な変化は大きかったなと思います。これは頼もしかったですね。

 先日、『ALTÆR CARNIVAL』のなかで「HIGH conscious lab.」で起こった100問の謎を解く、というミッションがあったんですが、僕はあれを見て、「謎のクオリティが新次元に入ってるな」と痛感しました。以前の僕らだったら、あれは絶対に作れなかった。

 それでも、朝まで解けないはずの謎が、3時間で解かれてしまったんですけどね。僕はいつも作る側の人間として、あまりにもすぐ解かれるとつらかったんですが(笑)、今回はそこを新スタッフに預けていたので、「ほら、つらいでしょ」と肩を叩きながら笑ってました。

――俺たちの気持ちを分かってくれたか、と(笑)。

藤澤:そうですね(笑)。まあこの話は一例に過ぎないですが、3年間という時間は結構長く、僕らの作り方も変わったし、周辺の環境も変わった。当然同じタイトルではあるんですけど、最初の手探りだった時代と比べると、今は何もかも変わったなと感じますね。

――『ALTÆR CARNIVAL』までの変化もそうですし、座組が表に出たことによって、開き直ってできることも増えた印象です。

藤澤:本当にそうですね。前回は一切「予告」ができなくて、こっそり始めるしかなかったので……。今回は、「こういうことをやります」と何か月も前から告知できたし、そこも大きく変わりましたね。

「推し活×謎解き×デスゲーム」というコンセプト

――告知をしながら大胆に開催することによって、新しい層も入ってきたのかなと思います。前回は口コミ的に集まっており、そこからの継続参加者が多いのはもちろん、まったく別のARGや謎解きのコンテンツを行っているストリーマーさん経由などで参加した人も多く感じます。

藤澤:そういう感覚はあるかもしれないですね。

――さらに、今回は「推し活×謎解き×デスゲーム」というコンセプトも魅力的でした。「推しが処刑される」ってすごいワードだなと。

藤澤:しかも、週を重ねるごとにだんだんと推しへの感情も深まっていき……。やっている僕らも、「これはつらいな」と思います。

――花崎薫さんが初回配信で“ママ呼び”をされたり、リアルタイムでのコミュニケーションがあったからこそ、これまでとは違う反響や望外の喜びを感じた部分はありましたか?

藤澤:ママ呼びであったり、「守護る」という言葉が生まれたり、墨田季楽々は「親分」って呼ばれていたり……。そういうことを僕らはリアルタイムの時点では把握できなくて、後から振り返りを見て、「こんなことあったんだ」と初めて知るんですよね。これが僕らが本当に作りたかった、「自分たちでも予測できない物語を体験する」ってことなんだなっていうのを、まさに実感しているところです。

今泉:予想外という意味だと、配信につくコメントの温かさには驚きました。当初は、守護者への態度が大きめの墨田や、ゲームに真面目に取り組まない花崎のコメント欄は、ちょっと荒れた感じになってしまうかなとも思っていたので。

藤澤:たしかに。みんな少女たちに優しくて運営に厳しい(笑)。

――団体戦のように戦っていくというのも、これまでやってこなかった表現形態だと思います。先ほど「デスゲームしかなかった」というお話もありましたが、団体戦的なものをやるためでもあったのでしょうか?

藤澤:これもARGの難しいところですが、参加者が多すぎると、当事者感みたいなものがどんどん薄まってしまうんですよね。参加人数1万人に対して解けた人は1人みたいになると、「自分は何かの役に立てたのか」と、参加・貢献の実感が乏しくなってしまう。なので、まず参加者に、自分も貢献したと思える場面を増やしたかった。そのためにチームを分けて、問題数も増やして、「解けなかったけど結構いい線いってたな」とか、「誰かのヒントにはなっていたはず」とか、自分も物語の一部になっているという手応えを感じてほしかった。この考え自体は、間違ってなかったんじゃないかと思っています。

――自分が貢献できたかどうか、という視点では、一番目に処刑されたのが一番船頭の多い風張美聡だったというのは面白い話だと思います。

藤澤:そうでしたね。いわゆるデスゲーム的なコンテンツで最初にメイン級が死ぬのは“あるある”な展開ではあるので、「筋書きがあるんでは?」と言われたりもしました。でも、何度でも言いますが、この展開は僕らも知らなかったです。

今泉:配信前は、なんだかんだ順当に守護者が多い少女が生き残るのかなと思っていたんです。なので、風張の脱落が決まったときは、スタッフ一同本当に驚きました。

――『case.613』は最初だったからこそどうなるか分からない面白さがあったかと思いますが、今回はフォーマット自体がバレていました。そこから新しいものを作っていくのは、作り手としても難しいところがあったかと思いますが、いかがでしたか?

藤澤:「いつイオリが出てくるんだ」と言われていたりしますからね。でも、『case.633』もあったし、「『Project:;COLD』ってこういうもの」という理解をみなさんに持ってもらえている状態なので、そこは無理に隠さなくてもいいだろうとは思っていました。むしろ、「さあいよいよ主役が来るぞ」という演出的な形で機能してくれれば、これも一つのコンテンツのかたちかなと思います。

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