ボカロP・子牛×南ノ南が語る“ネタ曲”の歴史と重要性 仕掛け人が目指すのは「文化の継承」
二人が影響を受けた楽曲や、『ネタ曲投稿祭』がドワンゴ主催になった経緯
──ボカロ文化やニコニコ動画のシーンを語る上では、欠かせないネタ曲ですが、振り返ってみるとどんな曲が思い浮かびますか?
子牛:たくさんありますが、たとえば家の裏でマンボウが死んでるPさん、hanzoさんの曲、他にも木村わいPさんの「高音厨音域テスト」など、歌い手さんたちがこぞって挑戦するタイプの曲もありましたね。
それから「般若心経」を初音ミクに歌わせたおにゅうPさんの「般若心経ポップ」も有名で、鬱PさんやクワガタPさん、halyosyさんなど、普段はネタ曲を作っていないボカロPさん達も般若心経をさまざまなジャンルにアレンジしていたりといったムーブメントもありましたね。
でも、みんなが楽しんでいるものを曲に盛り込みつつ、直接的に笑わせることを目的とした曲を作ったのは、僕の主観では南ノ南さんが初めてだったと思います。アプローチが新しくて「こんなの見たことない!」という驚きが強かったです。
──過去をさかのぼってみると、『ボカコレ2022春』のTOP100では、南ノ南さんの「可不ちゃんのカレーうどん狂騒曲」が7位にランクインしていました。この時、南ノ南さんの存在が大きく注目されたことも印象深いですね。
南ノ南:ありがとうございます。子牛さんが主催していた頃の『ネタ曲投稿祭』で、参加者・リスナーがカレーうどんのミームに興味を持ち始めていた時に、「可不ちゃんのカレーうどん狂騒曲」を作ったんです。それが7位に入ったことで、‟可不ちゃんの食べ物といえばカレーうどん”というイメージが定着しました。こんな楽曲を作れたことは、得がたい経験でした。
──個人的に影響を受けたネタ曲についても教えてください。
子牛:家の裏でマンボウが死んでるPさんの「家の裏でマンボウが死んでる」「クワガタにチョップしたらタイムスリップした」ですね。あの曲を聴いてからというもの、「なんでこんな曲を作れるんだ?」ってずっと考えていました。そこから大きな影響を受けてはいますが、やっぱり独創的な世界観なので、自分なりにできること、できないことを見極めながら、今のスタイルに落ち着いている感じです。
南ノ南:僕はhanzoさんの「合鍵ガンマンと合鍵忍者」にすごく影響を受けました。hanzoさんの曲は、ノリが良くてトンチキな歌詞が特徴で、最終的には何を言っているのかわからないけどスカッと終わるんです。僕の曲はそこまでトンチキじゃないんですが、ちょっとトンチキみがある曲を意識してはいますね。多分、作詞担当のシュラ種種種さんからすれば、道理は通っているんでしょうけど、外から見るとよくわからない感じが好きなんです。
子牛:当時のトンチキな楽曲には絶対勝てない気がしますね。やろうと思ってもできなかったですから。あの人たちは天才だなと思ってずっと曲を聴いていて(笑)。まだあそこまで狂えないもんね。
南ノ南:どうすれば、あんな曲ができあがるんだろうね(笑)。
──『ボカコレ2023夏』では新しい試みとして、ドワンゴ主催による『ネタ曲投稿祭』のカテゴリランキングが創設されて、2位には南ノ南さんの「元 寇 で す ☆」がランクインしました。これはどんな経緯で始まったんでしょうか。 『ネタ曲投稿祭』を立ち上げた子牛さんから、その背景について教えていただけますか?
子牛:まず、ニコニコ動画のユーザー投稿祭は結構な歴史があるんですけど、3回目あたりでいったんムーブメントが落ち着くことが多いんです。僕は、『ネタ曲投稿祭』を立ち上げて、3回目までやったんですけど、想像以上の盛り上がりを感じて。いちジャンルとして「ネタ曲」の地位確立できたし、目標も達成できたと思ったので、そこで一度区切りをつけることにしました。
その後、ボカコレ運営さんから「ボカコレの中でネタ曲のみのランキングを実施してみたい」と相談を受けたんです。私自身もボカコレに毎回参加する中で、ボカコレ内のランキングをネタ曲と非ネタ曲ですみ分けることができれば、より多くのユーザーさんにとって納得感のある楽しいイベントになるのではないかと思っていました。そこで、主催していた『ネタ曲投稿祭』の名前をお貸ししたり、企画面の監修をしたりといった協力をして、ボカコレの中にネタ曲ランキングを作ることになったんです。
──子牛さんがご自身で『ネタ曲投稿祭』を開催されていたとき、運営する上で特に重視していたことはなんですか?
子牛:ほとんどのボカロPさんは、作品を投稿しても数百再生で止まることが多いんです。そういう状況の中で、それでも彼らが活動を続けているモチベーションってなんなんだろうと考えたときに、それは“楽しさ”にあると思っていて。
それで、ボカロPたちがどう楽しむか、特にネタ曲が好きな人たちが良い作品を出し続けられるような環境をどう作るかということを考え始めたんです。「ニコニコ生放送」を活用して参加作品を全曲フル尺で紹介する生放送を実施したり、第2回の『ネタ曲投稿祭2021秋』ではクラウドファンディングでスポンサーを募って賞品を用意したりもしました。
第3回にあたる『ネタ曲投稿祭2023』では、ニコニコ動画のギフト機能を活用してユーザーが自由に贈ることができる特別賞という仕組みを用意し、再生数に関わらず特別賞を受賞できるといったチャンスがあったのも、魅力的に思ってもらえたんじゃないかなと思います。
南ノ南:僕の体験をお話すると、『ネタ曲投稿祭』に参加したことがきっかけで、新しい知り合いができました。そこから徐々に『ネタ曲投稿祭』の運営にも協力するようになり、第3回では正式に運営メンバーに加わって。第2回の時は、「可不ちゃんの親知らず、いってぇわ」で賞品を獲得することができたり、巡回生放送で流れ自分の曲にコメントがつき盛り上がるのを見て、本当にうれしかったです。
子牛:実を言うと、第1回の『ネタ曲投稿祭』ではニコニコ動画の再生数でランキングを決めたんです。でも、そのシステムだと自分の「月面探査機!かぐや姫」が1位になっちゃって(笑)。それじゃ面白くないと思って、Xで好きな曲にハッシュタグをつけて投票するシステムに変えたんですよ。これがうまくいって、第2回、第3回も同じ方法でランキングを決めることにしました。
──ボカコレに、ネタ曲のランキングが設けられたことで、どう変わるのが理想的でしょうか。
子牛:ボカコレは、いろんなボカロPさんがまるで人生をかけたかのような作品を出し合って、ランキング上位を目指す激しいバトルの場になっていると感じています。けれど、そんな緊張感のある中に「ネタ曲ランキング」があれば、もう少しリラックスして面白い作品を楽しんだり、新しい発見をしたりすることができるかもしれない。
ボカロPさんにとっても、普段作らないネタ曲を作って参加してみようという遊びや新しいチャレンジの場になるかもしれない。そういう「癒やし」として機能することで、ボカコレ全体がもっと楽しいイベントになるのが理想的かな。今はただただ、明るい未来を想像しながら取り組んでいます。
南ノ南:ボカコレ内の『ネタ曲投稿祭』は、参加者同士でわいわいしていた雰囲気があったもともとの『ネタ曲投稿祭』とはやっぱりちょっと性質が違うとも感じています。今後は元の『ネタ曲投稿祭』を開催していた頃の雰囲気をもっとボカコレにも持ち込めればいいなと個人的には思っています。
子牛:それと、やはりネタ曲ランキングができたことで、ネタ曲とネタではないボカロ曲のすみ分けをうながせたことは本当に良かったんじゃないかなと思っています。ただ、「ネタ曲は興味がないから見ない」というユーザーさんが増えてしまうと、ネタ曲を作る人たちがネタ曲ランキングに集まる意味がなくなってしまう。
そうならないためにも、ぜひネタ曲ランキングも見に来てほしいんです。ネタ曲を作る人たちが協力してくれているおかげで、ボカコレというイベントの見た目も綺麗でわかりやすくなったと思うので。