ボカロP・子牛×南ノ南が語る“ネタ曲”の歴史と重要性 仕掛け人が目指すのは「文化の継承」
2月22日~25日にかけて開催される『The VOCALOID Collection ~2024 Winter~』(通称:ボカコレ2024冬)。合成音声ソフトウェアを使用した楽曲でランキングを競う「TOP100」や新人ボカロPがしのぎを削る「ルーキー」ランキング、楽曲のリミックスをテーマにした「REMIX」ランキングなどの部門が設けられ、数多のクリエイターたちが楽曲を投稿する。「VOCALOID」ファンが注目する、インターネット最大級のボカロ楽曲投稿祭だ。
そんなボカコレに、昨年夏から新たなランキング部門として『ネタ曲投稿祭』が加わったのをご存じだろうか。近年、ボカロシーンに新鮮な活気を吹き込んでいる「ネタ曲」というジャンル。ネタ曲の源流はさかのぼれば、ボカロ黎明期にある。そんなネタ曲シーンを盛り上げようとしているひとりが、2021年2月から2023年2月まで計3回、有志開催された『ネタ曲投稿祭』の主催者である、ボカロP・子牛だ。
そして、昨今のネタ曲シーンにおいて欠かせないひとりを挙げるならば、『ボカコレ2022秋』のTOP100ランキングで2位に輝いた「星界ちゃんと可不ちゃんのおつかい合騒曲」ですさまじい印象を残し、『ボカコレ2023夏』において、「元 寇 で す ☆」で『ネタ曲投稿祭』ランキング2位を獲得したボカロP・南ノ南だろう。
そんな二人に、『ネタ曲投稿祭』がボカコレのいち部門として公式ランキング化された背景や、ネタ曲の価値について深く掘り下げたインタビューを行ったところ、その過程で「(ネタ曲は)続ける‟人”がいないと弱くなってしまうジャンル」と子牛はこぼした。ネタ曲制作者側の想いとは? 取材後は、二人の存在がより大きく目に映っていた。
ネタ曲の魅力は、“シーンならでは”の楽曲とまだ見ぬ天才たちに出会えること
──まずは、お二人の出会いのエピソードから伺いたいです。そもそもお二人はもともとプライベートでも仲が良いそうですね。
子牛:南ノ南さんが僕の「秋の未確認生物」という曲の歌ってみた動画を投稿してくれたことがきっかけで、僕は南ノ南さんを知ったんです。その後、彼が投稿した「うたたね巡恋歌」を聴いて「この人、曲もすごくいいな」と感じて。それが始まりですね。当時は岩手に住んでいたんですけど、東京に行った時に初めて会ったボカロPが南ノ南さんで。その時に東京観光を一緒にしてもらって、そこからいろいろ話したり、一緒に旅行する仲になりました。
南ノ南:僕と子牛さんはボカロPとして活動を始めた年代が同じなんです。僕が子牛さんを初めて知ったのは、まさにその「秋の未確認生物」を聴いた時で、「すごくいい曲を作る人がいるな」と。その当時、僕の曲の再生数はまだ100再生くらいで、少しでも再生されれば喜んでいるぐらいの頃でした。その後、子牛さんが仲良くしていたボカロPの茶々尾ひろさんがツイキャスをやられているときに、たまたま僕も参加することがあって。そこに子牛さんも入ってきて、そこで話してから徐々に仲良くなっていきました。
──お互いの音楽について、どのような部分が魅力的だと思いますか?
子牛:南ノ南さんは、「可不ちゃんのカレーうどん狂騒曲」「星界ちゃんと可不ちゃんのおつかい合騒曲」といった曲で、一気に人気に火がついたんです。ミームを取り入れたり、誰もが楽しめる面白いネタを作って、新しいネタ曲のジャンルを切り拓いたボカロPだと思っています。特に、笑いに特化した曲をPVも含めたトータルで制作するところが、南ノ南さんの大きな魅力だと思っています。見る人にとっては、新しいものに見えたんじゃないかって。
南ノ南:子牛さんの曲は、メロと歌詞の組み合わせが独特で、子牛さんにしか出せない魅力があります。特に「海のサーチライト」や「秋の未確認生物」は、ダジャレを使っていてもくどくならず、かっこいいバンドサウンドと合わせられていて、見せるのが上手だなと思います。ちなみに、僕は勝手にそのことを“すかしたダジャレ”と呼んでいます(笑)。
それから、初音ミクや音街ウナのような優しい調声を施したボーカルを使うのも、子牛さんの特徴ですね。音街ウナの場合、元気な声質のスパイシーと柔らかい声質のシュガーというライブラリがあるのですが、子牛さんはシュガーの柔らかい声を上手に使いこなしていて、曲に一体感が出ているのが素晴らしいです。
──ネタ曲を作る際、特に意識しているポイントとは?
子牛:「ネタ曲は、歌詞が全てだ」と僕は思っているので、歌詞にめちゃくちゃこだわるのはもちろん、その歌詞を100%聴かせるためのメロディ作りにも力を入れています。面白いことを言ったり、やったりしても、それが伝わらなきゃ意味がない。だから、歌詞が心地よく聴こえるメロディポイントとか、キメフレーズの場所、タイミングを、メロディと一緒にじっくり考えるようにしています。
南ノ南:僕は最初に‟やりたいテーマをどれだけ出せるか”が、すごく大事だと思っていて。たとえば、「可不ちゃんのカレーうどん狂騒曲」を制作したときは、可不ちゃんのカレーうどんを食べるミームが流行るきっかけを作った、しゃいとさんの「可不がカレーうどん食べるだけ」、ひらうみさんの「勤労ループ ~新入社員のずんだもん~」(いずれも子牛主催の第2回『ネタ曲投稿祭2021秋』の参加曲)。
この2曲から大きな影響を受けて、可不ちゃんのカレーうどんを食べる曲とずんだもんの曲の要素を持った曲を作りたくなったんです。そこから自分のやりたいネタとかパロディ要素を考えて、曲を作り始めました。
──ボカロシーンにおけるネタ曲の特別な魅力とはなんでしょう?
子牛:ネタ曲の魅力は、やっぱり他では聴けないような曲があることだと思います。あと、天才がたくさん集まっているところも魅力の一つですね。あまり知られていないんですけど、ネタ曲のシーンにはすごい人たちがたくさんいらっしゃるんです。
たとえば、最近『無色透名祭』(ボカロP・ちいたな主催の匿名投稿イベント)で「ホン・デ・ジュ」という曲が話題になったバーミーズの芝さんは、『ネタ曲投稿祭2023』(子牛主催回)でも『With you』という曲で1位になっていたりする。
それだけでなく、まだそこまで知名度があるわけではないですが、曲だけでなく動画も含めてすさまじいグルーヴ感を発揮しているひらうみさんやミニマムカーターさん、あとはすごく投稿頻度の多いセリフさんなど、まだ日の目を見ていないけど才能にあふれる人たちがたくさんいる世界だと思っています。