建築家・水谷元のカメラを通して気軽に建築を楽しむ

『iPhone 15 Pro MAX』で名建築・アクロス福岡を撮影してみた

 通勤や通学、買い物や娯楽、日常的に何気なく利用する建物や街。意識して訪れてみれば、設計者や施工者による様々な考えや工夫に気付いたり、建築当事者も気付いていないような新しい魅力を発見するかもしれない。

 カメラという道具はこれらを手軽に捉えるのにピッタリで、身近な建物を『建築』として見方を変えるツールである。建築設計に携わりながら、新旧様々な建築に普段から足を運ぶという建築家・水谷元氏が、自身の撮影のコツを交えながら、撮影した写真を通して建築や街を紹介していく。あなたもカメラを片手に建築の魅力に触れてみよう。

 第1回は、今では高性能となったスマートフォンのカメラを利用した建築の楽しみ方を紹介したいと思う。コンパクトデジタルカメラから一眼レフ、現在でも人気のあるフィルムカメラまで、価格も性能も様々なカメラが存在するが、スマホの手軽さは被写体にいつ何時出会ってもすぐに撮影できるという利点がある。筆者の場合だと普段から仕事でもMacを利用しているので、同期に優れたiPhoneを利用している。今回は最新機種である『iPhone 15 Pro MAX』を片手に、福岡県福岡市中央区天神に位置する『アクロス福岡』に足を運んだ。

今回の建築は世界的建築家が手掛けた大型緑化建築

 アクロス福岡はアメリカを拠点に活躍するアルゼンチン建築家のエミリオ・アンバース(Emilio Ambasz)が基本設計に参加し、基本設計・実施設計を日本設計+竹中工務店が担当した建築だ。

 エミリオ・アンバースは、1980年代から1990年代に活躍したランドスケープ(自然や公園などの緑や地形)と融合した建築を得意とした建築家である。1995年に竣工したアクロス福岡は、大規模に緑化された、当時としては画期的な建築である。世界的に有名な建築で、現在でも世界中から多くの人が訪れる。  

   
 福岡市の中心市街地のひとつ、天神の玄関口である西鉄福岡駅から歩いて5分ほどの場所にある中央公園に面した敷地にアクロス福岡は建っている。街路を抜けると、斜面の断面を切り取ったような建築が現れる。斜面の上にはガラスのカーテンウォール(その名の通りガラスの壁)のキューブが見える。こちらがアクロス福岡の西面になる。

 

 近づくと日射を調整するための水平ルーバーが壁に並んでいる。スチール製の水平ルーバーが工業的な印象を与える構図で撮影することもできる。解像度の高い高性能なカメラではないので、建築の細部までしっかりと捉えるような写真ではなく、構図を工夫するのも私なりの遊びである。


 アクロス福岡の南側に位置する天神中央公園側から見ると、緑化された斜面の様子がわかる。この斜面は建築の屋根にあたり、正式名称は『ステップガーデン』。公園の芝や樹木と緑化された建築が連続した風景から、福岡市民から『アクロス山』と呼ばれ、親しまれている。この日は暖冬の12月で紅葉が美しい。

撮り方次第で建築の多彩な表情を発見する

 

 近づいてみると『アクロス山』の中にガラスのカーテンウォールのキューブが建っているのがわかる。

 さらに近づくと斜面には川が流れ、滝がある。滝が水盤を打つ音が心地よい。なお公園に面した1階部分には博多・福岡の老舗喫茶店の『シャポー』が出店しているので、ぜひ訪れてほしい。

 東側に隣接している川の対岸からは先ほどの西面とは異なり、『アクロス山』の断面全体を望むことができる。
 北側に回ると公園に面した南面とは異なり、オフィス街の街並みに合わせた表情となっている。建築を一周すると、公園と連続する南面とオフィス街に面した北面、建築のシンプルな構成を明快に捉えることのできる西面と東面で建築が構成されていることがわかる。
 
 北面のオフィス街正面のエントランスは2層分の吹き抜けになっており、その正面にはパブリック・アートが展示されている。3層から上はガラスのカーテンウォール、吹き抜けのある2層部分はブラスト加工されたステンレスで覆われた柱梁で構成された、南面とは異なるオフィス街の街並みに対してニュートラル(中立的)な表情になっている。
  
 パブリック・アートはSTAR GATE/Kiyoyuki Kikutake/1995。”Kikutake”ということは、建築家の建築家・菊竹清則(江戸東京博物館、九州国立博物館など)と関係があるのだろうか。敷地内の公開空地(市民が自由に出入りできる敷地内の空間)に設置されたパブリック・アートも街歩きの楽しみのひとつでもある。

まさに山!建築は足で巡るとより楽しい

 南側と北側に設置されたエントランスから建築内部に入ると、大規模な吹き抜け空間のエントランス・ホールに出る。『アクロス山』の呼称に相応しく、各階は断層が隆起したような表情を見せる。外部から確認できたカーテンウォールのキューブから、地底に差し込む洞窟の明かりのように差し込む光に照らされて美しい。屋上の人工地盤と屋根を支えるダイナミックなトラスの骨組みも見応えがある。

 また、このアクロス福岡は南側の公園から『アクロス山』にアクセスでき、階段で屋上階まで登ることができる。私も何度か登ったが、登山のようにすれ違う人たちが「もう少しですよ」と優しく声をかけてくれる。

 

 『アクロス山』を散策してみると、様々な植物が生き生きと生息し、木々の実をつばむ野鳥も観察できる。建築緑化計画は田瀬理夫氏、施工は内山緑地建設、現在でもメンテナンスを両氏が担当しているという。コンセプトは福岡らしい「花鳥風月の山」で、枯れた枝葉は建築から持ち出すことなく、『アクロス山』の中で堆肥として循環しているそうだ。

 屋上から360度福岡市の街を望むことができる。福岡市は国際空港が市街地に面しており、建築物の高さが制限されているので、市街地を囲む山々の様子まで望むことができる。

 今回撮影に利用したiPhoneでは、デフォルトのカメラアプリと写真アプリで撮影・加工している。人間の脳は優秀で、建物を「あおり」で見ても水平・垂直を認識する。しかし、人は2次元にした途端に違和感を感じてしまう。

[[建築物撮影のコツ]

 ダイナミックに撮影したい場合はわざとパースを効かせる事もあるが、特に建築を撮影する場合は水平・垂直を意識して撮影することが大事なように思う。iPhoneの写真アプリはパース調整まで行える。また、光に関しても「影で潰れてしまう」「光が強すぎて白飛びしてしまう」ということがある。建築のディテールをしっかり残したい場合は、ワンタッチの自動補正が優秀で便利である。

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