にじさんじのエネルギーと文脈を肌で感じた二日間ーー5周年記念ライブ『SYMPHONIA』レポ
『SYMPHONIA』Day2は随所に「にじさんじの文脈」をちりばめたライブに
初日の熱量を受け取った『SYMPHONIA』Day2の公演は、より個々人のキャラクターやバックグラウンドに焦点を当てた選曲・パフォーマンスが印象深かった。
まずは1曲目。昨日と同じく「Hurrah!!」を歌っていたところ、終盤の三三七拍子を打つ部分で左右に分かれていた月ノ美兎/ジョー・力一/リゼ・ヘルエスタ/星川サラ/長尾景/渡会雲雀が、センターに立っていた壱百満天原サロメへ向かって「一・十・百・千!?」と順々に振っていくシーンがあった。
突然の振り方に「なんですの!?」と戸惑ったあと、2度目の振りには見事に「満点サロメ!」と合わせ、無事に1曲目を歌い終えた。あの戸惑いようからすると、今回初めて音楽ライブを迎えるサロメに対してのアドリブであり、緊張しいな彼女を和ませようという狙いもあったのだろう。
もうひとつ重要なのは、にじさんじにおけるライブはこのようなタイミングで「いちライバーの前口上を挟む」ことが自然におこなわれるほど、出演者個々人の特徴を何よりも大切にしていることが伝わったことだ。
渡会は自身のオリジナル曲「skylark」で伸びやかなボーカルをみせつけ、力一はこれまで歌配信などで何度か披露していた「Get Wild」をライブ演出を伴ってパフォーマンスした。星川/不破はホシミナイトの“アゲアゲ”なムードを活かすように「気分上々↑↑」を、そしてこの後のライブ中に言及されるほどに激しいダンスをみせたのは月ノ/星川/長尾の3人による「ダンスロボットダンス」も披露された。
アイドルイメージの強い月ノと星川に、ダンス上手として評価される長尾をくわえた3人が歌って踊る。序盤の時点で、それぞれの強み・個性・バックグラウンドを存分に生かした流れが生まれていた。
承認欲求がつよい配信者との生活を描いたシミュレーションゲーム『NEEDY GIRL OVERDOSE』の関連楽曲「INTERNET YAMERO」をサロメが歌えば、00年代後半から2010年代にかけてサブカルシーン~音楽シーンで根強い支持をうけていたやくしまるえつこの楽曲「少年よ我に帰れ」を、やくしまると同じく細い歌声やウィスパー気味な声を特徴としている月ノとリゼがデュエットで歌う。
2022年にデビューして爆発的に人気を得たサロメと『NEEDY GIRL OVERDOSE』の超絶最かわてんしちゃん。両者はともに短期間で多くの登録者を獲得するという点でサクセスに至るストーリーが非常に似通っている。それにくわえてサブカル/アニメ/ゲームに造詣が深い月ノとリゼがやくしまるえつこの曲を歌うということ、そのリンク性・シンクロ率は傍から見ていると非常に高く感じられる。これぞまさしく“選曲勝ち”といったところだろう。
これだけではない。ボカロ好きかつ恋愛相談をよく配信で話題にしている星川サラが「メルト」を歌えば、ギターリフのカッティングに揺れながらセンチメンタルなメロディを甘い歌声で披露した不破湊による「夜明けと蛍」が歌われた。
ソロでのダンスをバッチリきめつつ、初音ミク本人かと聞き違えるほどのハイトーンボイスを安定して披露した星川も素晴らしいが、両日で唯一であろうスローなナンバーをチョイスし、観客の心を奪った不破湊もおなじく素晴らしい。
そんな素晴らしいパフォーマンスを塗り替えそうになるほど筆者の心に残ったのは、長尾景によるパフォーマンスだ。「吉原ラメント」を歌っていた終盤、それまで持っていた2本の扇子が腰に帯刀していた刀へと代わり、青/紫の炎を漂わせる刀を使って剣舞を披露してみせたのだ。
しかもその舞も、ダンスをしているようで殺陣をしているような“オリジナルの演舞”に仕上がっており、以前から伺い知れていた自身のポテンシャルを証明したアクトだった。
その直後には渡会とともに「スターマイン」を熱唱。がなり声やシャウト気味な歌唱をする長尾と渡会のコンビは、会場のボルテージを一段階あげるようなパワフルさでもって、会場を大いに湧かせた。
極めつけは、終盤に披露された2曲だ。
まず月ノ美兎による「ラビットパニック」では、「みなさん! サイリウムを白にして頭の上にかかげてください!」と観客に指示をだし、次に歌ったパートで〈近頃、町でウサギが増殖してる そろそろね、皆が気づきだすわ〉という歌詞につなげてみせる。
過去に“全人類にじさんじ化計画”という言葉が配信内外で広がっていた時期があった。にじさんじのファン層がこれほどまでに広がっている現在を思えば、このような表現は過剰でも大言壮語でもなんでもないだろう。
このあとのMCで「『ラビットパニック』は軽い気持ちで始めたことが騒動になっていくという曲なんですが、それはにじさんじにも通じると思います」と語り、そんなリアリティある状況をこのように表現してみせるのだから、さすが月ノ美兎と言わずにはいられない。
そしてもう1曲、力一とサロメは「乙女のルートはひとつじゃない!」を披露した。当然2人で歌うものかとおもいきや、サプライズゲスト(?)として鹿鳴館キリコが出演し、3人での歌唱となった。
知らない方に向けて簡単に説明しておくと、「鹿鳴館キリコ」は力一がにじさんじオーディションのために動画を送った際に創作したキャラクターだ。これまでに配信上でも何度か登場しており、昔からのにじさんじファンや力一のファンにとってはお馴染みのキャラクターでもある。
そんな鹿鳴館キリコをリスペクトしているのが、他でもない壱百満天原サロメである。デビュー時に憧れ・目標の先輩として名前をあげており、2023年に入ってからは自身の一周年記念逆凸企画などで対面を果たしている。
小説投稿サイト「小説家になろう」をきっかけに近年流行している“悪役令嬢モノ”の人気作『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』のアニメ主題歌をチョイスするセンスもそうだが、まさか力一、サロメ、キリコ"の3人が共にライブで歌うとは。筆者を含め、このライブを見ていた全員の予想を上回る演出に、会場があっけにとられたのは言うまでもない。
ここまで記してきたことを鳥瞰してみてみれば、この日のライブは過去に類を見ないほどに「にじさんじファン向け」なライブであり、なおかつ随所に「にじさんじの文脈」をちりばめたライブであったと言えよう。
出演者のキャラクター・バックグラウンドといった部分が一通り頭に入っていれば、彼らが提示したさまざまなパフォーマンスの意味や意図を深く掴みきれるのだ。
本来、音楽ライブとはこういった解釈ゲームの側面ではなく、その日・その瞬間にみせたパフォーマンスのすばらしさで心を打つものであると筆者は考えている。だが、この日のライブばかりは、にじさんじという母体が孕んでいる魅力、その角度・深度を感じずにはいられなかった。
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