苦難の末に初めての自作PCを組み上げた田中紫紋が考える「高解像時代のクリエイティブ」(第3話)

田中紫紋が語る「高解像時代のクリエイティブ」

 クリエイター・田中紫紋が、人生初の自作PC制作に挑む本連載。第1回目の記事ではハイスペックなデスクトップPCの必要性について語ってもらい、第2回目の記事では実際のPC組み立ての様子を紹介した。

 最終話となる本記事では、待望の自作PCを組み上げた感想や、新しいPCを使ってどんなことをしたいのかといった具体的な展望を伺っていく。過去の連載は以下からチェックしてもらいたい。

紆余曲折、早朝までかかった自作PC作り

──まずはPC完成おめでとうございます。我々取材陣は「完成したはずなのに動かない!?」といった状況まで見届けて、その後田中さんから無事に完成したとのメールを受けたところでしたが。

田中:あの日、みなさんに協力してもらいながら組み上げていったのですが、結局はほぼすべてのパーツをバラして原因究明にかかりました。正しく起動しない原因はどこにあるのか、メモリなのかGPUなのか。メモリが正しく刺さってないのかとか、そういったことが原因にもなりえるので。

──物理的な接続の甘さも充分、考えられますね。

田中:メモリの差し方もマニュアル通りにやり直してみて、特に変化がなかったからメモリはOK。次はGPUも差し直して、念のため自宅にあった違うGPUを差し直してみたのですが、こちらも特に変化なし。

──となると、メモリとGPUはエラーの原因ではないと推測されたと。

田中:ですです。この段階で時刻は26時になっていて、さすがに疲れてましたが楽しくて(笑)。そこからCPUとマザーボードを調べてたんですが、今回使っている第14世代のCPUがマザーボードの発売より新しかったんです。「もしかしてマザーボード側がCPUに対応してない?」と思って、サポートページを漁り始めました。

──すると見つけたのが、マザーボードを第14世代CPUに対応させるためのBIOSアップデートだ、と。

田中:そう。でも、最初は間違えて「ROG STRIX B760-G GAMING WIFI D4」向けのアップデートをダウンロードしてしまったんです。僕が使ってるマザーボードは「ROG STRIX B760-G GAMING WIFI」だったのですが、これもファイル名が似ていて最初は気づかなかったんですよ.......。

──英名で名前が似てると、そういうのありますよねぇ。

田中:もう自分の中ではBIOSが原因だって決め打ちしちゃってるので、正しいアップデートファイルを改めてDLしてるときはめちゃくちゃテンション上がってましたね。「もう絶対にコレでいけるはず、いけー!」 みたいな(笑)。

──でも、さらに試練が待ち受けてたそうで!?

田中:そう。というのも、BIOSをアップデートするためのUSBメモリはFAT32でフォーマットしてくださいって書かれてて。FAT32って最大容量32GBのすごく古いデバイスですよ!

──少なくとも、我が家にはありませんね.....(苦笑)。

田中:でも、奇跡的にあったんです、古いUSBメモリが(笑)。なのでFAT32でフォーマットして、正しいBIOSアップデートを入れて、マザーボードに接続。マザーボードのランプが正しく点滅してくれたときは、もう、たまらなく感動でした……!

──過去のミニ四駆やカードゲームすら保管している田中さんの物持ちの良さが、まさかここで伏線になってるとは!

田中さん:この段階で朝の4時ごろ。BIOSの起動を確認したのでOSをインストールして起動が確認できたので、適当だった配線やパーツを組み直して完成したのが、みなさんにお見せしているこのマシンになります。まさにリアルドキュメンタリーから生まれた愛機ですよ(笑)。


──トラブルシューティングの手順やマニュアルの熟読など、本当に素晴らしい対応力だったと思います。というか、初めての自作PCでここまで対応できるのって本当にすごいと思いますね。

田中:昔からPCのトラブルは自力で解決してきたタイプなので、大学生のころも色んなところから相談されてきました。それが僕にとっては楽しくて、ちょっとずつ理解度が上がっていくその工程が辛くもあり好きでもあるんですよね。

真の意味での「ストレスフリー・マシン」

──早速完成したマシンを使ってみたとのことですが、感想はどうでしょう?

田中:もう、ストレスがないの一言に尽きます。実際にPCを使っていても劇的に何かが変わってるというより、あらゆる場面での待ち時間が減っている感じです。歩くようにスムーズに操作できるというか……。

──歩くという当たり前の動作と同じくらい、PCもスムーズに動いてくれる?

田中:そうです。今まで使っていたPCで感じていた引っ掛かりのようなものが無くなっていて、「あ、これがまっすぐ歩けるってことか」みたいな。

──今まで使っていたPCは3〜4年ほど前のモデルでしたっけ?

田中:確かそうだったと思います。以前のPCも購入当初は快適だったはずなんですが、改めて新しいPCの快適さを肌で感じているところです。メモリだって当時としては大容量の64GBなんですが、僕は画像ソフトを使っている関係でキャッシュとしてどんどんメモリを使ってしまうんですよ。

今回のPCはメモリが128GB、SSDがM.2の6TB、GPUがVRAM16GBの4060Tiと、もう早くこれでバリバリ作業がしたくてたまらない構成になってますね。

──取り扱うデータの大きさや要求される納品データの解像度も、どんどん大きくなってますからね。

田中:特に実感したのはVRAMの大きさですね。以前のPCと新しいPCとで同じデータを画像ソフトでレンダリングしてみると、以前のPCが3.62秒だったところ、新しいPCは1.5秒とほぼ半分になってました。僕の制作は30分の長尺映像よりも5秒の複雑なCGを作ることが多いため、レンダリングも一撃の負荷が大きい部類になります。これは心強いですね。

(編集部補足)実はその後、田中さんの実作業では『RTX 4060Ti』でも物足りないことが発覚。するとASUSは取材後に『RTX 4070Ti』の提供を申し出てくれた。パーツを部分的に換装し、自分好みのスペックに変えることができるのも自作PCのメリットといえる。今回は、完成後にさらに上のGPUが必要となったクリエイターのニーズを満たしたケースとなったのだ。

規格外の解像度にも対応できる、理想のマシンが完成

──今回完成したこのPC、早速お仕事に使われますか?


田中:もちろんです。これからの僕のメインPCにする予定ですね。

──ということは、田中さんが制作されるアノ方たちの作品や映像は我々が携わったこの白いASUSのPCから生まれていく、ということになるわけですね。感慨深いものがあります!

田中:2024年以降の映像はこのPCから生み出されてると思いますよ(笑)。実際、以前のPCだと限界を感じていた節も多々あって、本当に最近は要求されるマシンパワーがどんどん大きくなっているんです、映像の場合は特に。例えばライブで使われるLEDの映像は、年々高解像になっていますから。先日も4Kが6枚必要な仕事があって。

──4Kの映像が2×3列ってことですか?

田中:そうですね。ここまでのサイズになると小さく作ったものを引き伸ばすしかないんですよ。でも、PCのパワーがあれば高解像のまま制作できます。それこそ過去を見ればHDからフルHD、フルHDから4Kと高解像度化の歴史は繰り返しているので、これからは最低でも4Kベースの時代なんだなって。

──なんなら8Kも見えてる時代ですからね。

田中:まさに先日、以前のPCで8,000ピクセル四方のデータを画像ソフトで作ってたときに、エラーが出て絶望してたところなんですよ(笑)。エラーが出たってことはこれ以上大きなサイズでは作れない、フィルターもかけられない。これはVRAMの不足もありましたが、新しいPCならエラーを出さずに制作ができる。これは本当にありがたいですね。

──高解像度のデータを扱うなら、やっぱりディスプレイにもこだわりがありますか?

田中:そうですね、僕は黒の発色を気にしていて、グレーの階調が上手く表現できているディスプレイが好きです。せっかくハイスペックなPCを使うならディスプレイもハイスペックな方が良いと思いますし。

──今回はASUSでパーツを揃えていただいたので、ASUSのクリエイター向けブランドである「ProArt」シリーズのディスプレイ、ちょうどテスト用に用意した『ProArt PA279CRV』はちょうど良さそうですね。


田中:実は個人的にもASUSは好きなメーカーなんですよ。なので、PCもディスプレイもASUSで揃えられるのが理想です。その方がデスク上での収まりも良さそうですからね。

──専有スペースの確保、重要です。今回のPCはコンパクトなmicroATXのケースですし、ディスプレイとお揃いでセッティングしてもカッコいいと思います。

田中:なんならこのコンパクトさなので、もう一台作っちゃおうかなって思ってるところなんですよ。ちょうど今は左右にPCを置いてある状況なんですけど、これが結構良い感じで。もしくは壁にかけてしまうのもアリですね。


田中:あと、仕事の関係で海外にPCを持っていく可能性が高まりつつあるんですよ。実はライブ関係のクリエイターでも現場にデスクトップを持ち込む人はわりといますが、僕も視野に入ってきましたね……(笑)。

自分の創造性と真っ向から向き合えるのが自作PC

 自作PCのメリットは、自分にとっての望みのスペックを叶えられる点にある(予算に応じてだが)。しかし、そのためには「自分にとってどんなスペックが必要なのか、どんなスペックなら自分の理想を叶えられるのか」を知っておく必要がある。田中さんの場合、メモリやVRAM容量といった強化したい部分が明確になっており、なおかつ現状の制作ですでにマシンパワーの不足を感じていたため、自作PCは最良ともいえる選択だっただろう。

 なにより、田中さんがPCの制作そのものを楽しんでいたのが印象的だった。一時はトラブルもあったが、「原因はどこにあるのだろうか」と研究しながら対応し、その過程がノウハウとして蓄積される。そうして手塩にかけて完成したPCは、スペックを抜きにしても一層の愛着があるだろうことは田中さんの表情からもうかがえる。ある種、自作PCは大人のホビーともいえるかもしれない 調べ、悩み、早朝までかかって作り上げた、自分にとって理想のスペックのPC。世界に一台の相棒で、田中さんはこれからも世界を驚かせる映像を作っていくのだろう。世界で唯一無二の自作PCとの共演が、今から楽しみだ。

■参考情報

https://rog.asus.com/jp/
https://www.asus.com/jp/proart/

【特集】クリエイターとPCの良い関係 「田中紫紋、初めての自作PC作り」

『報道ステーション』のオープニング映像を手掛け、いまでは世界的に有名なアーティスト 『BABYMETAL』のアートデザイン…

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