SMAP解散が放送作家引退のスイッチに 白武ときお×鈴木おさむが見るテレビの過去と今

仕事が仕事を呼ぶ 忙しいからこそ違うことをやる

白武:おさむさんより年下の40代前半くらいの放送作家さんが、チーフ作家になることが増えてきているように思います。後輩の作家に思うことってありますか?

鈴木:忙しいからこそ、テレビとは違うこともやってほしいと思いますね。局の人は放送作家を褒めてくれるかもしれないけど、局内での見え方としては絶対に自分の手柄が欲しいから。それは社員だからもちろん当然のことです。

 放送作家としてテレビでやっていくと割り切るならいいけど、みんな才能があるんだから、いろいろやってみたらいいのにと思いますよ。

白武:テレビ番組の作家だと、個人の名前で出す作品がつまらないと言われることはあまりないと思います。だから、どうせ出すならちゃんとしたものを出したいが、それにしても忙しくて集中できない。「いつか書きたい」と思ってても、本当に書く人と書かない人の間には大きな川が流れていますよね。

鈴木:そう思います。僕の場合は舞台やドラマ、小説もマンガもやっていて、それはもちろん自分のためでもあるけど、後輩たちのためでもあると思っているんです。放送作家は優秀なんだから、もっといろんなことができるんだと言いたい。

白武:実際、おさむさんが表に出ることで、放送作家という仕事の説明にもなっているし、いろんなことをやっていいんだなと思えて、かなり勇気をもらっています。本当に感謝してます。

鈴木:たとえば、佐久間(宣行)さんよりも先にテレビを作る人が誰かYouTubeで売れててもおかしくなかったし、テレビ以外の場所で当てている人がいるのだとしたら、それはもっと発信していってほしいなと思います。

 僕は放送作家や脚本家は辞めるけれど、今後もラジオとかに出てくれと言われたら出ますし、SNSでもちゃんと発信していこうと思っていますよ。昔から、毎日種まきをするとか、幅を広げるとか、新しいことをやるときには頼れる人にちゃんと頼るとか、僕はそういうところがあるので。

白武:僕もお笑いが好きでその領域のことをやりつつ、小説を書いたり、児童書を作っていたり、マンガの原作を書き始めたりしています。

鈴木:それは絶対に良いことだと思いますよ。成功したらもちろんいいし、成功しなくても厳しさを感じられるから。違うフィールドには、違う成功の方程式がある。そういう違いをたくさん感じてほしいです。あとは、なにかにつながっていく可能性もある。

 たとえば僕がスターバックスさんと作った絵本『君だってサンタクロースかもしれない』。YOASOBIの「ハルカ」という曲の元になる小説『月王子』を僕が書いて、そこから派生した絵本『ハルカと月の王子さま』を作ったんですが、それをスターバックスの人が見てくれたことで実現しました。

白武:勝手に自分で持ち込んでプレゼンしたのかと思ってました。そんな仕事の繋がりとは…。仕事が仕事を呼んでますね。

鈴木:そういうことがあるから、やりたいことはとにかく言ったほうがいい。本当に誰かがどこかで見てくれているものなんですよ。スタッフでも、事務所の人でも、タレントさんでも、思っているよりも協力してくれる。あんまりスマートに生きようとしないほうがいいんじゃないかなと思いますよ。9人に文句を言われても1人は救ってくれたりするから。

SMAP解散がスイッチになった

白武:おさむさんは2024年3月31日をもって放送作家を引退されるそうですが、辞めようと思ったタイミングは過去にはなかったんですか?

鈴木:ありましたよ。SMAPが解散したときです。2016年1月18日に会見があってから、12月26日の『SMAP×SMAP』(関西テレビ・フジテレビ共同制作)最終回の放送まで、本当にしんどかったので。それでもまだ『SmaSTATION!!』(テレビ朝日)や『おじゃMAP!!』(フジテレビ)とかもあったから、なんとか続けられていました。あのとき慎吾の番組も終わっていたら、辞めてしまっていたかもしれないです。

 あのときは傷ついたし、しんどかったし、いろんなことを思いました。それは僕だけじゃないし、もちろんメンバーが一番そうだとは思います。『SMAP×SMAP』はスタッフだけの打ち上げもやりましたけど、みんな、なんとも言えない思いがすごくありました。

白武:SMAP解散については『文藝春秋』2023年1月号に、小説『小説『20160118』』として書かれていましたよね。あれには驚きました。

鈴木:もともと付き合いがあった文藝春秋の新谷(学)さんから「SMAP解散のことを小説にしてほしい」と言われたんですよね。さすがにいい加減にしてくれと言ったんだけど、それが載るのが『文藝春秋』100周年号だと言われて、「作家」として自分は書かなくていいのかという気持ちがあったんです。それに、新谷さんから「記すこと、残すことも大事ですよ」と言われて。

白武:なるほど、そういった背景があったんですね……。発売時に読んで驚きました。これどうなっちゃうんだろうって。凄い喧嘩をはじめるのか、辞める覚悟があるんだろうなと、勝手にもの凄い重みを感じながら拝見しました。

鈴木:僕はSMAPのファンの人たちへの思いもあって、作家として記すべきだと思ったんです。でもいざ書き始めたら、中居さんが休養したり、King&Princeのメンバーの脱退があったりして、本当に書きながら苦しかった。

 でも、もしこれで書き終えて何かあっても本望だと思ったんです。それはもう、放送作家としての寿命だと。あれを書き終えたことが、放送作家を「辞める」ことを考えるひとつのスイッチだったかもしれません。

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