国内外アーケードからインディー作品まで 音ゲーライターが選ぶ2023年の「音楽ゲーム楽曲」10選

PC音楽ゲーム

4. Overjoy ★ OVERDOSE!!
アーティスト:Luna Fozer (BilliumMoto, 黒皇帝, Sobrem)
公開フォーマット:BMS

【BOF:NT】Overjoy ★ OVERDOSE!!

 現代音ゲー文化は、常にクローンゲームと共にあった。将棋プログラム「やねうら王」でも知られる磯崎元洋が開発した『BM98』(1998年)。『DanceDanceRevolution』『Pump It Up』両作品のクローンに端を発し、米国では商業AC音ゲー『In the Groove』にまで派生した『Stepmania』。『押忍!闘え!応援団』を模したオーストラリア発作品『osu!』。PMSフォーマットを世に広めた『ふぃーりんぐぽみゅ』。2010年代後半以降も、『Just Shapes & Beats』『初音ミク -Project DIVA-』『Guitar Hero』各作品のクローン『Project Arrhythmia』『Project Heartbeat』『Clone Hero』、複数の既存ゲーム形態に対応したシミュレータ『Project OutFox』『Malody』と、その勢いは留まるところを知らない。

 それぞれに功罪は伴いつつも、クローンゲームが単に元タイトルの劣化複製に陥ることなく、新鋭ミュージシャンや映像作家の技量を培い、また優れたオリジナル曲を生み出すプラットフォームとして機能してきたのは確かである。なかでも前述の『BM98』用フォーマットとして生み出された「BMS(Be-Music Source file)」は、アーティストとゲーマーとレビュアーが曖昧な境界線上で相互作用する特異なコミュニティの中、初出から25年を経たいまもなお発展を続ける、ひとつの創作文化を築き上げるに至った。

 2004年から続く伝統ある競作イベントの最新回「THE BMS OF FIGHTERS : NT -Twinkle Dream Traveler-」で公開された「Overjoy ★ OVERDOSE!!」は、そのBMS文化を煮詰めに煮詰めた凝集体だ。架空の多文化BMS VTuberであるLuna Fozerのテーマ曲という体で、トリリンガル詞をスタイリッシュに歌い上げる洗練のダンスポップ。Nankumo「DRAGONLADY」、削除「AXION」、Silentroom「nulctrl」、ぽんきち「PPBQ」、siromaru + cranky「conflict」、fether (Remixed by Yamajet)「consider numbers 3」などBMS文化発の名曲オマージュを歌詞中へ高密度に折り込む遊びも心憎いほどに見事だ。

 披露したのは、BilliumMoto、黒皇帝、Sobremからなる米仏韓の国際合同チーム。Sobremは、2017年の『Dynamix』『O2Jam U』『RIDE ZERO』への楽曲提供を皮切りに15以上の音ゲー作品に関与歴があり、2023年も『DJMAX RESPECT V』の楽曲パックの看板曲「DIE IN」をTAKと組んで制作している。彼をはじめ長年にわたりBMSシーンに絡んできた第一線のミュージシャンたちが、その実力を如才なく発揮しつつ、25周年を迎えたBMS界隈へのリスペクトを表意した渾身の一作である。

5. Changeable Weather
アーティスト:Cres.
ゲームタイトル:Sounds of Succubus
メーカー: ラクライ

Sounds of Succubus STAGE1 nightmare mode clear

 音楽に同期して動作する弾幕を自機が回避する類の音楽ゲーム。その系譜は、少なくともBMSプレイヤー『おたま』(2000年)まで遡ることができる。同作は『ピカチュウげんきでちゅう』『ポケモンダッシュ』『ポケモンチャンネル』のBGM担当や『サクラ大戦』サウンドデザイン等で知られる小畑幹(wjaz)が開発したものだ。

 近代のインディーゲームにおいて弾幕×音楽ゲームというコンセプトがブレイクを果たしたのは『Just Shapes & Beats』(2018年)が契機であることに疑いはないだろう。以降、前出の『Project Arrhythmia』のほか、地形と演出に工夫を凝らした『Soundodger 2』、リズムと升目が自機をも制約する『Beat Ship』、『Pump It Up Infinity』の開発陣が制作しSTG要素を強く取り入れた『NOISZ』シリーズ、2024年リリース予定の奥行きスクロール型作品『HyperCore : Rhythm Bullet Hell』など、同コンセプトとその派生は音楽ゲームにおける一つのトレンドとなっている。

 DLsite限定販売の18禁美少女ゲーム『Sounds of Succubus』もまた、上述の文化的背景から生まれた『Just Shapes & Beats』オマージュ作品の一つだ。本稿で取り上げる「Changeable Weather」は、その冒頭ステージの楽曲であり、担当キャラであるソルリンデ&セレーネのキャラクターソングとしての顔も持つ一曲。現代音ゲーらしからぬ余白を有する音遣いながら、一曲に一体いくつのジャンルを詰め込むんだという怒涛の勢いが楽しい、遊び心をたっぷりと携えたトランスポップだ。

 作曲を担当したCres.は元BMS作家。残した作品は少ないが、BMSコンペ「BOF III - THE BMS OF FIGHTERS 2006 -」で公開した叙情トランス「End Time」で著名である。同作品は公開から13年以上が経過した2019~2020年にかけて、セガ『CHUNITHM』『maimai』『オンゲキ』に収録を果たした。Cres.は本作のほか、『Succubus Quest 短編 -老司書の短い夢-』『Succubus Rhapsodia』『サキュバスアカデミア』といった一連のサキュバス系ゲームでもBGM制作を担っている。

6. ChikuTaku
アーティスト:Watson Amelia
ゲームタイトル:ChikuTaku
メーカー:ホロライブEnglish(カバー株式会社)

ChikuTaku - Original Song ✨ チクタク - オリジナル曲

 音楽ゲームはもはや一つの文化であり、ほかの文化の中にも自然に織り込まれることになる。VTuberと音楽ゲームの関わりという切り口でいえば、VTuber関連曲の既存ゲーム収録はもはや日常茶飯事であり、VTuberをテーマにしたコナミアミューズメントの新作『ポラリスコード』も予告されている。一方でそれらとはやや毛色の異なる、VTuber×音楽ゲームの新しいありかたを見せたのが本楽曲だ。

 ホロライブEnglish所属のVTuberワトソン・アメリア。彼女の新作シングル『ChikuTaku』は、アキシブ系の香り漂う疾走感のあるトラックに乗せてキャッチーなメロを歌う、まっすぐなポスト渋谷系ポップスだ。アメリア本人も作詞に関与した、やや舌足らずな日本語を織り交ぜた歌唱も楽しい一曲。本楽曲は、そのMVが『リズム天国』ライクな音楽ゲームとして演出されているだけではなく、実際にブラウザ上でリズムゲームとしてのプレーが可能である、いわば“遊べるMV”としてもリリースされた。

ChikuTaku by Watson Amelia - hololive EN, CenTdemeern1
https://watsonamelia.itch.io/chikutaku

 楽曲制作を担当したのは英国バーミンガム在住のソングライター・音楽プロデューサーであるWUNDER RiKU(ヴンダー陸)。本名のJosh Wunderlich(Joshua Max wunderlich)名義ではDWB MUSIC所属アーティストとしてのソロ仕事や、ロックフュージョンバンドBig Band of Boomのフロントマン活動など多数の実績がある。本業のかたわら、2022年1月にはアメリアの非公式テーマソング「MYSTERY OF LOVE 恋の不思議」を自主制作していた。同年6月にはホロライブEnglish所属の九十九佐命にSnail’s Houseが書き下ろしたシングル「Astrogirl」の作詞担当など、ホロライブ公式作品にも関与。翌年リリースの本作で、晴れて公にアメリアへ楽曲を書き下ろすに至った。

 2023年11月にはKing & Princeの楽曲「1999」の作曲に関与するなど活動の幅を広げるWUNDER RiKU。確認の限りではほかにゲーム音楽の公式仕事を担当した事例は見当たらないが、ホロライブEnglishを扱った二次創作ゲーム『D10 Myths』向けに、オーストラリア出身のVTuber・小鳥遊キアラをイメージした楽曲「TORI NO WATARI 鳥の渡り」を制作している。

7. Deadly Bomber
アーティスト:Daisuke Kurosawa
ゲームタイトル:DJMAX RESPECT V
メーカー: NEOWIZ

Deadly Bomber by Daisuke Kurosawa

 “音ゲーのボス曲としてのプログレッシブ・ロック”という潮流が存在する。泉陸奥彦「DAY DREAM」、佐々木博史「The Least 100sec」、西脇辰弥と菅沼孝三の共作「Threshold Lebel」、小野秀幸「Over there」、千本松仁「Rock to Infinity」、あさき「天庭」、AIKO OI(大井藍子)「Limitless Possibility」、桜庭統「Hard distance」。手数の多さと複雑なリズムという素性により、時代と共に高度化するプレイヤーレベルへの要請にも適合しながら、プログレというジャンルは音楽ゲーム史のなかで威厳あるひとつの立ち位置を築いてきた。

 96こと黒沢ダイスケは、そのような音ゲー×プログレの潮流に寄与してきた一人だ。2003年にドリーム・シアター主催の楽曲コンテストで2位を受賞、プログレバンド・軌道共鳴で活動の後、コナミに参画した経歴を持つ。同社の『GuitarFreaks』『DrumMania』(現・GITADORA)に制作した衝撃作「一網打尽」以来11年のキャリアを積んだのち、音楽プロダクションINSPIRONに移籍。『太鼓の達人』『CHUNITHM』『SEVEN’s CODE』『Arcaea』『Cytus II』『EXTASY VISUAL SHOCK』など各社作品に寄与してきた。

 本稿で取り上げる「Deadly Bomber」は、韓国NEOWIZによる世界に名だたる音ゲーシリーズ『DJMAX』の最新作である『DJMAX RESPECT V』、その楽曲パックDLC「V EXTENSION IV」収録曲のひとつとして公開された楽曲だ。もちろん彼の得意とする、複雑を極めた進行のなか次々と超絶技巧が繰り出されるド直球プログレッシブ・ロックである。黒沢の運営するYouTubeチャンネルでは、自身による演奏動画も公開されており、こちらも必見だ。

Deadly Bomber - Daisuke Kurosawa (DJMAX)

 Steamに存在する全音ゲー中でも5指に入るレビュー数を有し、圧倒的な支持を受けながら高水準のオリジナル楽曲収録を実現し続ける『DJMAX RESPECT V』。世界各国からボーダレスにあらゆる音ゲー文化をインポートしつづける本作は、黒沢の招聘により音ゲープログレ文化開拓の当事者による極み付きの作品を収録し、その概念とスコープをますます拡大させてゆく怪物音ゲーだ。この12月にも続編パック「V EXTENSION V」がリリースされ、NieN、TAK、seibin、ND Lee、Ice、細江慎治、Pure 100%ら日韓台を中心とした豪華アーティスト陣による新曲群が収録されている。

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