糸田屯が選ぶ、2023年のゲーム音楽配信リリース作品10選

2023年のゲーム音楽配信リリース作品10選

 2023年の締めくくりとして、今年配信されたゲームサウンドトラックから個人的なお気に入りを10タイトル選んだ。

【目次】

▼MONSTER UNIVERSE
▼Joon Shining
▼LOUD: My Road To Fame
▼Cassette Beasts
▼ProtoCorgi
▼Gravity Circuit
▼Sea of Stars
▼ENDLESS Dungeon
▼The Invincible
▼Snacko

『MONSTER UNIVERSE』

MONSTER UNIVERSE

 キャラクターとモンスターが一体となって戦う、コロプラ開発の3DアクションRPG『MONSTER UNIVERSE』(海外版・Steam配信版タイトルは『Volzerk : Monsters and Lands Unknown』)。

 主題歌「Trace My Fears(feat. chelly)」(作詞:ermhoi/演奏:室屋光一郎ストリングス、西川進)、挿入歌「碧のうた」(作詞:児玉雨子)と全BGMの作曲を菅野よう子が担当し、壮麗かつ爽やかなイメージが広がるオーケストラサウンドに、クワイアコーラスやエレクトロサウンドをスリリングに交えた冒険感満載の楽曲を提供。ジャンルレスなマエストロの手腕を堪能できる。菅野がゲーム・サウンドトラックを全面的に手がけたのは久々の出来事であり、ドリームキャスト用アクションRPG『Napple Tale Arsia in Daydream』(2000年)や、日本では正式サービスが見送られたMMORPG『Ragnarok Online 2: The Gate of The World』(2007年)以来である点にも注目したい。

『Joon Shining』

Joon Shining

 オーストラリアのOrchid of Redemptionの開発による、ファンタジックなゴルフスタイル・パズルゲーム。マルチバースを旅する若き魔術師ジュンは絶滅動物ドードーを救うため、さまざまな世界をクリアしていく。

 数々の現代音楽アンサンブルとのコラボレート歴を持つアンガス・バーナクル(Angus Barnacle)は音楽制作にあたって純正律での表現を入念に追求し、すべての楽曲/サウンドを三度、五度、七度の整数比で調整。オーケストラとコーラスに、貝殻笛や狩猟笛、骨製音具といった原始的な楽器の音色を採り入れたサウンドスケープを創りあげた。17世紀に地上から姿を消したドードーに向けた切なるまなざしと、19世紀の平均律の普及により音楽的な主流からはフェードアウトした純正律の響きが重なり合うことで、プレイヤーにそれぞれの存在を見つめ直すきっかけをもたらしている。

『LOUD: My Road To Fame』

LOUD: My Road To Fame

 ポーランドのHyperstrange開発による『LOUD: My Road To Fame』は、『Guitar Hero』のようなアーケードスタイルに、ティーンエイジャーの青春ストーリーを組み合わせたロック・リズムゲーム。楽曲はすべて本作オリジナルであり、90年代ポップパンクと00年代オルタナティヴロックのスタイルに則ったラウド&エッジーな良曲がそろっている。メインコンポーザーは、『ELDERBORN』『POSTAL: Brain Damaged』などの音楽を担当してきたIvory Tower Soundworksのカスペル・カイデルスキ(Kacper Kajzderski/プログレッシヴ・デスメタル・バンド OBSIDIAN MANTRAのメンバーでもある)とピョートル・スタチェラ(Piotr Stachera)、ロックバンド・MADMAのメンバー マリウス・ミエジェイェフスキ(Mariusz Mierzejewski)が務めた。メインテーマ「Breathless」の歌唱は、今年6月にデビューアルバムを発表したロサンゼルスの新鋭ポップロックデュオ・Honey Revengeのデヴィン・パパドール(Devin Papadol)が担当している。

『Cassette Beasts』

Cassette Beasts

 トム・コクソン(Tom Coxon)とジョエル・ベイリス(Joel Baylis)をコアメンバーとするイギリスの小規模開発チーム Bytten Studioの第2作『Cassette Beasts』は、カセットテープに記録したモンスターに変身し、ターン制バトルを展開するオープンワールドRPG。

 本作のサウンドトラックを手がけたベイリスいわく、当初は「80年代へのノスタルジー」を音楽面でも志向していたが、ここ10年間でやり尽くされたテーマでもあるため、80年代感をほのめかしつつも新味を感じさせるアプローチを模索。レトロなシンセサウンドとゆるやかなギターサウンド、ベイリスのパートナーであるシンガーソングライターのシェルビー・ハーヴェイ(Shelby Harvey)のヴォーカルをミックスさせ、シンセウェイヴとインディーポップの間隙を縫う絶妙なバランスの楽曲で、ゲームにユニークな色彩を添える。

『ProtoCorgi』

ProtoCorgi

 チリのKemono Games開発による『ProtoCorgi』は、ピクセルアートで描写されるレトロスタイルの横スクロールシューティングゲーム。プレイヤーはC3クラス(キュート・サイバネティック・コーギー)の子犬「Bullet」を操作し、ステージを攻略していく。

 80~90年代アニメや、『グラディウス』『ダライアス』『R-TYPE』のオマージュを散りばめた本作のサウンドトラックを手がけたフランシスコ・セルダ(Francisco Cerda)は、14歳のときに自作のシューティングゲームのためのサウンドトラック制作を契機に作曲活動を開始し、大学でクラシック音楽とピアノを専門的に学んだ後、サルサ、ジャズ・オーケストラ、プログレッシヴ・メタルなど数々のバンドに参加してきた人物。フューチャーコア(フューチャー・ベース+ハードコア)を前面に押し出しつつ、ストリングス&ホーンアレンジ、メロウフュージョン、メロディックスピードメタル、ガバテクノを投入。セルダが「自身の最高傑作」と称するのもうなづけるハイテンションな内容だ。ヒロキ・トーマス歌唱による日本語詞のオープニング「Opening(私は プロトコーギー)」とエンディングテーマ「Metal Hearto」も、往時のアニメソングのキャッチーな要素を意識した爽やかなポップソングに仕上がっている。

『Gravity Circuit』

Gravity Circuit

 北欧の小規模チーム Domesticated Ant Gamesが長期にわたる開発期間を経て放った『Gravity Circuit』は、『ロックマン』シリーズへのあふれんばかりのリスペクトを込めた、ビビッドなピクセルアートで表現される2Dアクションゲーム。主人公のロボット戦士カイは、近接格闘をメインにしてステージをパワフルに突き進んでゆく。

 本作のキャラクターデザイナーでもあるコンポーザーのドミニク・ニンマーク(Dominic Ninmark)は、メロディアスなシンセロック/デジタルフュージョンスタイルに長け、これまでに『Bot Vice』『Rival Megagun』『MIGHTY GOOSE』などで手腕を振るってきた。ゲーム音楽家を志すようになったキッカケのひとつが『ロックマン』シリーズであり、『ロックマンX』の雰囲気やスタイルを入念に研究し、トリビュートしたオリジナル曲をいくつも発表している。そうした創作活動のフィードバックや、10年近く前に制作した楽曲のリメイクも内包した『Gravity Circuit』は、ドミニクのゲーム音楽家キャリアのひとつのマイルストーンといえよう。ブラッシュアップを重ねて仕上げられた「キャラクターの立った楽曲」のつるべ打ちがもたらす爽快感を存分に味わっていただきたい。

『Sea of Stars』

Sea of Stars

Sea of Stars

Sea of Stars

 2D忍者アクションゲーム『The Messenger』で名を一躍知らしめたカナダのSabotage Studioの第2作『Sea of Stars』は、『クロノ・トリガー』などの往年の日本のRPG作品からの影響を感じさせるクラシックなスタイルに、現代的な要素を加味した温故知新のターン制RPG(ちなみに『The Messenger』と世界観を共有している)。

 本作のサウンドトラックは200曲超のボリュームを誇り、スーパーファミコン時代を彷彿とさせる音色と郷愁を誘うメロディを散りばめたシンフォニック&ポップな楽曲をてらいなく聴かせる。ゲストコンポーザーとして光田康典が十数曲を提供したことも話題となった。

 リードコンポーザーのエリック・W・ブラウン(Eric W. Brown)はチップチューンアーティスト名義のRainbowdragoneyesや、ヘヴィメタル系ドラマーとしても活動し、近年は多国籍メロディックデスメタルバンド WIZARDTHRONEに名を連ねる人物。また、一部楽曲では音楽仲間のヴィンセント・ジェイク・ジョーンズ(Vincent Jake Jones)が関わり、「Pirate Version」と題された一連のアコースティックアレンジではフォークメタルバンド The Dread Crew of Oddwoodのリース・ミラー(Reece Miller)がCeltic Metal Dude名義でコンサーティーナやバウロン、ティン・ホイッスルなどの楽器演奏を一手に担う。

『ENDLESS Dungeon』

ENDLESS Dungeon

 フランスのAmplitude Studiosの開発による『ENDLESS Dungeon』は、『ENDLESS』シリーズ最新作であり、『Dungeon of the ENDLESS』(2014年)の精神的続編といえるローグライク&タワーディフェンスゲーム。プレイヤーはモンスターがひしめく、打ち捨てられた宇宙ステーションからの脱出を目指す。

 「FlybyNo」ことアーノード・ロイ(Arnaud Roy)は、Amplitude Studiosのすべての開発作品の音楽を手がけるコンポーザー/音楽プロデューサー/ハープ奏者であり、他方ではジャンルレスなアンサンブル Collectif Terra Incognitaや、ハープをフィーチャーしたポストロックバンド Maobiのメンバーとしてユニークなアルバムを発表している。本作では「Space Western」を音楽的キーワードに挙げ、フォークロック、オルタナティヴロック、プログレッシヴロック、コズミックシンセの要素をブレンドした味わい深いサウンドトラックに仕上げられた。また、ドラマ『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』への音楽参加・出演でも知られるシンガーソングライター、レラ・リン(Lera Lynn)が作曲&プロデュースで4曲を担当している。

『The Invincible』

The Invincible

 ポーランドのStarward Industriesの開発デビュー作『The Invincible』は、同国を代表する作家スタニスワフ・レムの1964年発表のファースト・コンタクトSF小説『インヴィンシブル(砂漠の惑星)』を原作とするアドベンチャーゲーム。

 サウンドトラックを手がけたブルーノン・ルバス(Brunon Lubas)は、ゲーム業界ではこれまでに『Layers of Fear 2 恐怖のクルーズ』『ヴァンパイア:ザ・マスカレード 紐育に巣食う血盟』などに関わってきたコンポーザー/サウンドデザイナーであり、他方ではポストロック/ドリームポップバンド SPIRALや、アンビエント/IDMユニット NAWIEで活動を展開している。レトロフューチャーな雰囲気に焦点を当てた本作では、人類の功績・文化のイメージをアコースティック楽器で、謎めいた惑星レギスIIIのイメージを不気味で実験的なシンセサイザーミュージックで表現し、イマジネーションをかき立てる。

『Snacko』

Snacko

 チップチューン、デジタルフュージョン、チェンバーポップ、エピック/シンフォニックなど、レトロ/モダンを問わない幅広いスタイルで多様な楽曲オーダーに応えるマルチ音楽家デイル・ノース(Dale North)の多作ぶりは、今年も目を見張るものがある。2月に『Helvetii』、4月に『Dogfight: A Sausage Bomber Story』、10月に『WARGROOVE 2』、11月に『Astral Ascent』のサウンドトラックをリリースしたデイルがリードコンポーザーを務める最新作が、2023年12月7日にSteamでアーリー・アクセスを開始した、カナダのBluecurse Studiosの開発による『Snacko』だ。

 農業&猫をテーマにしたキュートなスローライフ・アドベンチャーゲームである本作に、デイルはポップ・オーケストラにアコースティック楽器やチップチューンをブレンドしたサウンドトラックを豊富に提供。コージーで多幸感あふれるイージーリスニング曲の数々に思わず笑みがこぼれる。音楽ゲームへの楽曲提供をはじめとして多岐にわたる活動を展開する俊英、かめりあ(Camellia)による公式EDMリミックス7曲も収録され、パーティー感にも事欠かない。

『スーパードンキーコング』への帰還、そして世界的な活躍へ デビッド・ワイズにとっての“ゲーム音楽”とは

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