「バーチャルな在り方」のポップカルチャー化が進む 有識者が振り返る“2023年のバーチャル”
大きなバズを記録した個人勢VTuberたち
ーーちょうど赤見かるびさんのお名前も出たので、個人勢についても是非振り返っていきたいと思います。
浅田:そうですね。先ほど名前のあがった赤見かるびさんはまさにその代表例かと思いますが、今年はなにかと個人勢が注目を集めている印象がありましたね。
たまごまご:その通りだと思います。じつは今、登録者1万人超えのVTuberってめちゃくちゃいるんですよね。個人勢で頑張ってる人が本当に多くて。1万人を超えて頑張っている配信者や動画勢もいれば、登録者数にこだわらずにコツコツとオリジナル曲を上げ続けている人もいる。クリエイターたちがいっぱい熱を燃やしている、というのは今年の印象としてすごく大きいです。
くさの:動画勢で言うと、最近ではショート動画がめちゃめちゃ増えましたね。配信の「切り抜き動画」としてショート動画を活用する人も多い印象です。ただ、今たまごまごさんがおっしゃられたように「配信勢」とか「動画勢」とか、わざわざ分ける意味がないくらいには多様化しているというか、どっちもできて当たり前みたいな雰囲気もありますよね。
浅田:「個人VTuber」という言葉が少し古くなりつつあるのかなという気がしますね。その熱気を含めて「インディーズ」と呼んだりしてもいいのかも。
たまごまご:インディーズ、いいですね。
浅田:個人勢という表記をされている方の中にも、実際には裏で支えるスタッフがいるケースもありますし、その意味でもインディーズはしっくりくるのかなと。
ーー少し前まではYouTuber全盛期でしたが、VTuberもかなり勢いがあって、そうしたトレンドのシフトが「個人勢VTuber」の勢いにも表れているんでしょうか?
浅田:YouTubeは専門的な人がウケ始めてるのかなと思っていて。僕、最近SUSURU TV.みたいな、ひたすらラーメンに詳しい人とか、元ミシュラン星付きレストランのシェフの動画とか、そういう“特化したYouTuber”ばかり見てるんです。
くさの:奇遇ですね、自分も超見てるんですよ。「リュウジのバズレシピ」(笑)。
浅田:まさにリュウジさんが典型だと思うんですけど。何でもいいから面白いことをやるよりは、一定の専門性を持って活動する人の方が長続きするのかなと思ってはいますね。
これは個人VTuberの話とも繋がるんですけど、今年を象徴する個人勢のひとりに宇推くりあさんがいると思っていて。超尖った専門性を持ったVTuberでもここまで跳ねる契機って生まれるものなんだなと驚いたんです。
ーー「ロケット工学アイドルVtuber」という肩書きもさることながら、イプシロンSの燃焼試験当日に秋田県現地で生配信をしていたことで一気に有名になりましたね。そこからあれよあれよというまに内閣府が主催する「宇宙開発利用大賞」のPRキャラクターにも就任されて、まさにシンデレラストーリーのような展開でした。
たまごまご:バズってからの流れが美しかったですね。
くさの:内閣府ですからね。
浅田:今度JAXAとコラボするらしいですよ。
たまごまご:すごいな。嬉しくなっちゃうな。
くさの:自分としては今年の個人VTuberのニューヒロインは赤見かるびさんだと思うんですけど、彼女も言うなればゲーム配信に特化しているストリーマータイプの方ですよね。彼女がいるだけで本当に雰囲気が良くなるんですよね。
たまごまご:そうなんですよね。本人が面白いというのもあり、VTuberとストリーマーをつなげて盛り上げる潤滑油のような存在でしたね。
浅田:そう考えると、昨今のVTuberは単体の面白さだけじゃなくて、集団コミュニティの中に置いたときにどう動けるかというのが重要なんだと痛感しますね。
くさの:宇推さんの場合も、VTuberのファンと宇宙工学の世界という、繋がりそうで繋がらないコミュニティ同士の融合点になったという意味で、ほとんど同じことをやられてるのかなと思います。
浅田:そういうブレイクが、大きい事務所に所属しなくても起きるようになりつつあるのは2023年を振り返ってみると象徴的だったと思います。
たまごまご:専門学問とVTuberというのは、2018年から頑張ってる方が多いのですが、なかなかジャンルとして難しい部分もあって。専門性を持っているのは絶対に武器だと思うので、どこかで芽吹いてほしいなと思っていたんですよね。そうしたらVEEが出た。北白川かかぽさんなどはまさに専門学問でずっとやってこられた方で、学術系VTuberの1人です。
くさの:ホロライブなどでも「hololive DEV_IS」のReGLOSSから儒烏風亭らでんさんがデビューしていますよね。彼女も芸術系の専門知識を持ったタレントです。
浅田:あとは、この前のVTA(バーチャル・タレント・アカデミー)のオーディションのひとつに、専門性を持ってる人限定の「スーパーエリートライバーオーディション」がありましたね。
【🏫②VTAスーパーエリートライバーオーディション 募集開始!】
バーチャル・タレント・アカデミー(VTA)で、「スーパーエリートライバー」オーディションの募集を開始!
医師、弁護士、美容師からビジネスマンまで幅広く募集!
詳細は応募フォームをご覧ください。ご応募お待ちしております!… pic.twitter.com/Jkc9ga8vKS— バーチャル・タレント・アカデミー (@VTA_ANYCOLOR) November 17, 2023
ーーバーチャルタレントにも専門性の高さ、つまり独自性の高さが求められつつあるんですね。ほかに個人勢で気になった方はいますか?
たまごまご:やっぱり、しぐれういさんはすごかったです。
くさの:特異点ですよね。「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」があまりにもヒットしすぎました。
たまごまご:週1配信で登録者数150万人越えって、前代未聞ですよ。イラストレーターとしての活動を軸にやっていて、VTuber活動は趣味だと割り切るスタイルを貫いているのもかっこいいですね。
くさの:そのペースもすごくて、100万人達成のニュースが夏ごろの話ですからね。
たまごまご:今の「ロリ神」の再生数、7330万ですって(12月25日現在)。
くさの:「ロリ神」って、楽曲のサウンドはもちろん、あのアニメーション映像や、ヒップホップを絡めたMAD映像が海外ですごく受けたのもすごかったですよね。
浅田:ミーム化の影響がすごいですよね。あのアニメーションが海外の実写のPRに使われてるっていう。
くさの:日本のアニメタイアップの楽曲もそうですけど、アニメーションがついてるとミーム化しやすいんですよね。アニソンタイアップを持っているバンドさんやソロアーティストさん、あるいは自分のソロ楽曲にアニメーション映像を使ってるアーティストさんって、やっぱり海外ですごく受けやすい傾向がある。
彼女たちの楽曲が受けやすいのはVTuberのファンが海外にもいるという大前提があるのに加えて、アニメーション映像だからというのも強くあると思うんです。たとえば、ホロライブの宝鐘マリンさんや星街すいせいさんなどはわかりやすいですし、他のタレントでもそうです。
たまごまご:宝鐘マリンさんが歌うオリジナルソングのアニメMV、どれもこれもクオリティがすごく高いですよね。
浅田:今年は本当に宝鐘マリンさんとしぐれういさんの間で1000万再生の奪い合いでしたね。
たまごまご:企業に入ってない個人勢とかでもいろんな力を駆使してアニメーションの動画を作っていたり3Dムービーを作ったり、気合の入り方が桁違いになってきましたね。
浅田:オリジナル曲とは言うものの、実際にはMVも含めたマルチメディアコンテンツになりつつあるなとは思いますし、そういう時代なんだなというのを感じますね。
くさの:せっかくなのでバーチャルシーンの音楽についてお話をすると、にじさんじ・ホロライブを筆頭にさまざまな動きがありつつ、KAMITSUBAKI STUDIOも一定のペースでオリジナル楽曲をリリースし続けていましたね。
浅田:KAMITSUBAKI STUDIOはずっと音楽にベットしてますからね。
くさの:それにプラスして、花譜さんとか理芽さん以外の新たなプロジェクトも同時に動かしてるんですよね。
たまごまご:明透さんや存流さんですね。そういう意味で、KAMITSUBAKI STUDIOはずっと新陳代謝をしている感じがします。僕が注目しているのはRIOT MUSICで、「長瀬有花さんを見てくれ!」という気持ちでいっぱいです。
くさの:RIOT MUSICは長瀬さんの活躍に目が行きがちですが、今はソロシンガーだけで14人くらいいらっしゃるんですね。Blitz Wing、Meteopolis、汽元象に化ケドル。長瀬有花さんがすごいと言っているとなりで、じつはかなり大所帯なレーベルになってます。RIOT MUSICでアルバムを制作したりライブがあったりと、ことしはさまざまな動きがあったので、来年以降大ブレークする可能性もありそうですね。
浅田:Blitz Wingのライブ動画を先日見させてもらったんですけど、観客がすごく入っているんですよね。RIOT MUSICのファン層が読めないんですけど、どう思われますか?
たまごまご:いわゆるVTuberファン層ではないと思います。
くさの:そうですね。こういった動きもふくめて、今年は至るところで新陳代謝が図られている感じがすごくしたんですよ。しぐれういさんもそうですけど、明らかに今までとは毛色の違うリスナーさんやファンがつき始めてる。
たまごまご:やっぱりVTuberを知る人が増えたんですかね。どこをきっかけに知ったのかは気になります。にじさんじやホロライブをきっかけにという人が多いんでしょうけど、いきなりRIOT MUSICにはまりましたって言われたら「アンテナ高いですね!」って頭下げちゃいますよ。
浅田:YouTubeの広告動画に流れてくる歌ってみた動画とかですかね。
くさの:あとはいまYoutubeで生配信をみようとすると、ほぼ毎日のようにVTuberが歌配信をやっているんですよ。継続は力なりとはよく言ったものですけど、本当にすごい。
浅田:歌唱スキルも一種の専門性となると、積み重ねがどこかで花開くこともあるんでしょうね。
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