歌広場淳×どぐら“古参格ゲーマー”対談 時代が求める「理想のプロゲーマー像」とは?
「 悪しき文化は、新たな概念でおもしろおかしく上書きすればいい」(歌広場)
歌広場淳:現代では、「真に格ゲーを愛する者のみがプレイすべき」みたいな、いわゆる“村の番人”的な気質の人ってだいぶ少なくなったと思いますけど、これ含めて悪しき文化はおもしろく昇華させちゃうべきだと思います。消そうとしても難しいから。
僕、このあいだTwitch配信を始めたこともあって、いろいろな配信者さんの配信をできるだけ見るようにしているんです。そこで、ストーム久保さんがおもしろいことを話してくださっていて。
どぐら:あの、ストーム久保が?
歌広場淳:「あの」ってなんですか(笑)。久保さんは「“クソバイスおじさん”って概念が生まれているよね」と。みなさんご存知の、“クソなアドバイス”をしたがる人のことですね
「たしかにいま、格闘ゲームに初挑戦するVTuberさんがたくさんいて、僕らも当然、一家言持っているわけだから、アドバイスしたくなるのはある程度しかたないよね。それでもって、さまざまなアドバイスがすべて“クソバイス”というネガティブな言葉で括られている現状も良くない。だから、言いかたを変えようよ」って。
どぐら:“クソバイスおじさん”を、もっとマイルドな言い回しに変えてあげないかと。
歌広場淳:はい。それで、「“マンモスおじさん”はどうか」と。
どぐら:えっと……。詳しく説明してもらっていいですか(笑)。
歌広場淳:久保さんいわく「マンモスを狩る方法って思いつく限りいろいろあるよね」と。だから、いまとなっては自分でマンモスを狩らなくなった長老であっても、狩りかただけはいっぱい知っているってことなんだそうです。
どぐら:まあ、知識があるから口出しだけはしてくるよねと。
歌広場淳:よって“クソバイスおじさん”転じて、“マンモスおじさん”なわけです。こう言ったら少しはかわいげがあるじゃないかと。
だから、意味合い自体は変わらないんだけど、新たな用語で上書きするというか。そういう試みは、すごくおもしろいことだなと思ったんです。こうやってみんなで、新しい概念をガンガン作っていってしまえばいいんじゃないですかね。
どぐら:“物は言いよう”じゃないですけど、古い因習を打ち破るために見栄えよく置き換えてあげるような能力が、これからの時代には求められるんじゃないかってことですね。
歌広場淳:やっぱり、見せかたって大事だなって。かく言う僕は、格闘ゲームをやっているとしょっちゅうキレちゃうタイプの人間なので。どぐらさんのように、明るく元気に、楽しそうにプレイしている人を見ると、僕も見習わなきゃだめだなって思うんですよね。
どぐら:いや、でも歌さんならわかってくれると思うんですけど、言ってしまえば僕も昔からずっとゲームをやってきた、性根のところではひねくれた人間なんで。時には配信中に個人的な文句もポロッと言ってしまうし。
歌広場淳:わかる。わかりますよ。だからこそ、そういう部分をできるだけ視聴者には見せないようにと、自分を律しながら日々配信しているんだなってことも、どぐらさんの配信から感じていて。
そもそも、FPSなどであればプロゲーマーとストリーマーって役割が明確に分かれているじゃないですか。プロゲーマーは競技シーンのために日々練習して、ストリーマーはたくさんの人に見てもらうためにエンタメ的な側面も考えながらプレイすると。
けれど格闘ゲームでは、現状、プロゲーマーがストリーマーを兼業しているような状態なんですよね。日々練習に打ち込みつつ、配信を通して格闘ゲームの魅力を広めていくと。プロゲーマーがストリーマーを兼ねているって、ハッキリ言って最強だなと思うんですよね。
どぐら:まあ「それができるのであれば」ですけど(苦笑)。
歌広場淳:もちろん、これまではみなさんが必要に駆られてそうせざるを得ない部分もあったかと思います。ストリーマーとしても立ち回りつつ選手としてのパフォーマンスも保つなんて、尋常なことではないと想像しますし。
でも、たとえばCAGの練習配信などは、これってまさにファンのみんなが求めていることにほかならないじゃないですか。プロ野球選手とか、プロサッカー選手とかと同じですよね。メディアが入れる公開練習があって、それを見たいと思うファンも大勢いるという構造と。
どぐら:ああ、たしかに。練習配信に関しては、プロスポーツのそれと似たようなことかもしれない。「俺たちだけやるのは不公平でしょ!」とかではなくて、純粋に「もっと他のチームでもやったらいいのに」って思いましたね。いいことがいっぱいあるから。
ほかのチームに見られて研究されるリスクはあると言えばありますけど、結局ネット対戦を介して練習をしたらゲーム内のリプレイには絶対に残っちゃいますし、隠そうとしても隠しきれない。そう考えたら、配信するメリットのほうが大きいなと思ったんですよね。
歌広場淳:練習配信はCAGにならって、いっそリーグ側が公式配信のような形で全チームにやってもらうように働きかけてもいい気がしました。
SFLのチームに地域性を持たせたのも、ほかのプロスポーツからヒントを得てのことだったのだと思いますし、そうやっていいとこ取りする余地はまだまだ多くありますよね。きっとこの先、eスポーツもどんどん野球のセ・パ両リーグやサッカーのJリーグのように発展していくでしょうし。
そうなったら、もっと選手たちが快適にプレイするためにはということで、練習環境やお金回りの話にもなっていき、だとしたら助成金が必要だよねってことになれば、地方創生や公共の福祉にもつなげていく必要が出てくるだろうし。そうなっていくべきだと思うんです。
どぐら:ゲームを通じて社会や地域に貢献できるってなったら、本当にすごいことだと思います。
歌広場淳:毎年、徳島でやっている『マチアソビ』のようなことが、eスポーツイベントでもできたら最高だなと。
『SFL』で各チームが開いていたパブリックビューイングも、最初はどこも「みんな来てくれるのかな」と恐る恐るやっていたと思うんですが、フタを開けてみたらものすごい盛況ぶりだったって聞きましたよ。今年の盛り上がりを見て、「次は絶対に行くぞ!」ってなった人も多いと思います。
どぐら:パブリックビューイングの盛り上がりは、正直ヤバかったですね。CAGは定員120人くらいの会場で開催したんですけど、キャパシティをはるかに超えるほどの人が来てくれていたみたいで。
僕らはパブリックビューイング会場から試合に出場した回があって、試合後にはファンのみなさんと交流する機会も設けさせてもらったんですが……。試合終了が21時30分ごろで、最後の方を見送ったのが23時でしたからね。あらためて、たくさんの方が来てくださったんだなと。
歌広場淳:僕は魚群のパブリックビューイングにお邪魔したことがあったんですけど、会場が、わりと新しめの複合商業施設の中にある、eスポーツ特化型ブースのような場所だったんです。
フードコートと隣接しているから、そこで好きな食べ物を買ってきて、試合観戦しながらお腹も満たせるみたいな。「これってもう、実質スポーツバーだよね」って思いましたし、近い将来、eスポーツ専門のスポーツバーが各地に乱立するような未来も訪れるんじゃないでしょうか。
「『スト6』未プレイ勢に向けたメッセージ」の必要性
歌広場淳:最後にぜひ、どぐらさんといまのうちから話し合っておきたいと思っている話題が「まだ『スト6』をプレイしたことがない人に向けたメッセージ」です。これって、どぐらさんのようなプロゲーマーの方が、今後インタビューなどを受けるたびに確定でされる質問だろうなと。
言ってしまえばありきたりな、質問する側もとくに深い意図があって聞いているわけではないものだと思うんですけど……。こういった質問がきたときこそ、ちゃんと目を引くようなことをおもしろおかしく言えるようなスキルが、僕らのように「格ゲーを広めていきたい!」と思っている人間には必要だよなと常々思っていて。
どぐら:うわ、たしかに。この質問、今後100万回は答えることになりそうですね。そこで「はいはい、またいつものアレね?」じゃなくて、ちゃんと気の利いたことを言えるようにならないと。
歌広場淳:そう。常日頃から考えておくべきだと思うんですよ。というのも、この類の質問を受けたときに、決まって僕の脳裏をよぎる、文學界新人賞の選考委員を務めていた作家・金原ひとみさんのコメントがあってですね。
ほかの選考委員の方々が「小説とは〇〇で、〇〇だ。そんな作品をお待ちしています」みたいな厳格な感じのコメントを寄せているなか、金原さんは「何でもいいよ! 小説書けたら送ってみて!」のひと言だけだった、ということがあったそうで。
どぐら:うおー、簡潔! 新人さんを勇気付けるひと言としては最高ですね。
歌広場淳:もちろん他の方のコメントとの対比もあって、目に留まりやすかったこともあると思うのですが、こういう言語化能力やおもしろワードセンスのあるプロゲーマーが、いまの格闘ゲーム業界には求められているんじゃないでしょうか。
どぐら:僕、それで言うと1個いいのがありますよ。「おちこんだりもしたけれど、私はげんきに格ゲーを……」。
歌広場淳:いや、『魔女の宅急便』の丸パクリじゃないですか!(笑)。
どぐら:(笑)。逆に、歌さんが歌ガールさんたちに「格ゲーやろうぜ!」って伝えるときには、どんな言葉になります?
歌広場淳:え? それはもちろん、「『スト6』やったら僕と仲良くなれるよ」ですね。
どぐら:それアリなん!?
歌広場淳:だって実際、歌ガールの中にJP使いでランクMASTERの子がいるんだけど、先日その子がミートたけしさんの配信にコメントしているのを見て、思わずその場でコメントを被せちゃいましたからね。「ミートさんの配信なんて見なくていいよ(笑)」って。
どぐら:そんなことされたら、ファンとしてはうれしいに決まってますね。たしかに、「やってよかった」ってなるなぁ。
歌広場淳:いっそ、このテーマでプロゲーマーを何名か募って座談会を開いてもいいかもしれないですね。なにか斬新なアイディアが出てきそうって考えると、僕なら竹内ジョンさんや、フェン様(フェンリっち)あたりが良いかなぁ。もちろん監修にはハメコ。さんをお呼びして。
どぐら:それ、賛成です! あとワードセンスがありそうなところで挙げると、板ザン(板橋ザンギエフ)さんとか。めっちゃいい人だし、二つ返事でオーケーしてくれそう。
歌広場淳:話の流れで、せっかくだから今後やってみたい企画をもうひとつ言っておくと、“格ゲーマーのスマホメモを覗いちゃおう”のコーナーです。よく選手のみなさんが、対戦前にスマホでメモを読んでいることがあるじゃないですか。
おそらくキャラ対策なり、プレイヤーごとの対策なりが書いてあるんだと思うんですけど、実際どんなことが書かれているのか見てみたいんですよね。中には全然関係ない、美味しいお店とかメモっている人もいたりするんじゃないか、とか。
どぐら:えー。僕、どんなふうに書いてましたっけ……。あ、おもしろいのありましたわ。ここに「ゆかどん/12ユーロ」、「マゴさん/13ユーロ」って書いてあるじゃないですか。
これ、おそらく海外大会に遠征したときに、現地で彼らから借りたお金のメモですね。もういまとなっては、ちゃんと返したのかどうかも定かではないという。
歌広場淳:メモった意味がないじゃないですか(笑)。ただ、そう言われると僕も、記事にはできないような、しょうもないことばかり書いてある気がします。そんなリスクも承知で協力いただける格闘ゲーマーの方がいらっしゃったら、ぜひご連絡ください!
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