“eスポーツ発”のカルチャー戦略とは? FENNELが掲げる「表現に前向きな人を増やす」使命

“eスポーツ×ヒップホップ”の融合がもたらした、チームの結束力

――2023年1月に開催された「FENNEL Party」では、アーティスト、ストリーマー、インフルエンサーなど総勢250名を集めたことでも話題となりました。こちらを開催した経緯などを教えてください。

高島:「FENNEL Party」は、完全招待制のクローズドイベントとして、MIYASHITA PARK OR TOKYOにて開催させていただきました。

 eスポーツ各部門の選手たちからすると、オズくんと交流する機会であったり、音楽ライブを観る機会だったりが、普段はなかなかありませんので。FENNELとしてeスポーツ部門を中心に置きつつ、例えば“eスポーツ×HIP HOP”という領域でFENNELが何をやっていきたいのかなどを、チーム内外に伝えることができるまたとない機会になったと思います。

 「同じチームに所属しているけれど、実際に会ったことはない」だと、どうしてもお互いにイメージが湧きづらく、それぞれの思い描くビジョンが違ってきてしまったりもすると思います。FENNELとして、こんな雰囲気、空気感、世界観を作っていきたいだよと伝えられる機会として、「FENNEL Party」は今後もアップデートしつつ継続して開催していきたいですね。

――「FENNEL Party」に参加した選手たちには、どのような変化がありましたか。

高島:「FENNEL Party」もひとつのきっかけになって、いまでは練習前や試合前にオズくんの曲を聞くことがルーティーンになったと話す選手も出てきていますし、“同じチーム名を背負って戦っている仲間”としての一体感が生まれてきているなと感じます。

 自分たちが自分たちのシーンで戦っている一方で、別のシーンで自分たちと同じように戦っている仲間がいる。彼らもまた、プレッシャーのかかる場面でも自分の信念を貫いて自己表現をしている、チャレンジしている。そうしたことが、想像ではなく実感としてイメージできるようになることは、チームにとって大きな価値があると思います。

 やはり選手たちにとって、メンタルは重要なものです。毎日のように練習に励み、自分の調子の浮き沈みと戦いつつ、それらを毎シーズン継続しながらも、自分の中にもともとあった夢やゴールなどをつねに忘れずに、妥協なく生活していくことが求められるわけですから。

 そうした生活のなかで、ともに戦う仲間の存在は大きいと思いますし、僕自身もFENNELを経営していて彼らの存在に勇気をもらっています。eスポーツ各部門の選手たちはもちろん、オズくんにも、FENNELというブランドを背負ってもらえたことには感謝しています。

――リアルスポーツのプロシーンにとって、音楽は切っても切れない密接な関係性にあると感じますが、FENNELにおいて「eスポーツ×音楽」の融合を推し進めていきたいといったお考えはありますか。

高島:僕としては、スポーツに対する音楽のポジションのように「eスポーツシーンをFENNELがつくる音楽で席巻したい」といった考え方は持っていないですね。どちらかというと、FENNELのことを知ってもらう・好きになってもらうための切り口のひとつとして、音楽があるようなニュアンスでしょうか。

 たとえばeスポーツが好きで、選手の個人配信や大会を熱心に見てくださっていて、それが元気の源になるから、今日の学校を頑張れる、明日の仕事が頑張れるという方が、いまの世の中にはたくさんいらっしゃいますよね。

 根本的にはそれと同じような形なんです。FENNELというチームが好きで、同じブランドから通勤中に聞きたくなるような音楽が出ているとか、ちょっと今日は気合を入れたいなという場面に着ていきたくなる服が出ているとか。そうやって、日々の生活のなかにFENNELを取り入れてもらえるようになれたらいいなと思っています。

 FENNELがあることで、日々の生活を前向きに送れたり、ここぞという場面で一歩踏ん張れたり、勇気を出して何かに挑戦できたり。そんな風に、ファンの皆さんの日常に寄り添う存在になりたいんです。

――「eスポーツにFENNELがつくる音楽を」ではなく、「みなさんの日常にFENNELを」が理想としてあるわけですね。

高島:そうですね。もっとも、NFLやNBAのハーフタイムショーとして音楽ライブが親しまれるように、eスポーツイベントでも、いまや音楽は必要不可欠なものになりつつあることは言うまでもありません。僕自身、『リーグ・オブ・レジェンド』の『Worlds』(※2)を、オープニングアクトのライブ目当てで視聴する、なんてこともありますし。

 eスポーツがより多くの人々から広く愛されるようになるためには、会場を彩る音楽や演出といった部分をさらに強化して、総合エンターテインメントとしてのクオリティを上げていくことが重要になると思っています。

※2 “リーグ・オブ・レジェンド ワールドチャンピオンシップ”の通称。その年の最強チームの座を争う世界大会。

――今後、“eスポーツ×音楽”の関係性はどのように変化、あるいは進化していくと思いますか。

高島:eスポーツがエンターテインメントしてのレベルを上げていくために、いま以上に音楽への投資額を増やすこともあるでしょうし、その逆もしかりです。eスポーツ市場が大きくなるに連れて、eスポーツを通してアーティストや楽曲のマーケティングをしたいとの動きも増えると思います。

 ただ僕としては、“eスポーツ×音楽”と直接的にかけ合わせる取り組みは、今後ある程度は増えていったとしても、例えば“eスポーツ×音楽”事業を専門にやる企業が現れたりするかといえば、そうでもないと予想していて。

 なぜかというと、僕ら自身も「eスポーツと音楽が相性がいいから」を理由に、音楽をチョイスしているわけではないからです。FENNELはカルチャーブランドカンパニーになることを見据えているから音楽をチョイスしているのであって、すべてのeスポーツチームの勝ち筋が音楽と組むことであるとは思っていません。

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