子どもにもわかりやすいテクノロジー×演出の見せ方とは? 株式会社stu・杉野裕則氏に聞く

子どもにもわかりやすい“テクノロジーの見せ方”

 KDDIはコンセプトショップ「GINZA 456 Created by KDDI」(以下 GINZA 456)において、ここ最近、様々な取り組みを行っている。

 たとえば2023年7月28日から2023年10月上旬まで実施された体験型イベント「Trim the EARTH~めぐる、学ぶ、世界のカーボンニュートラル~」は、プロジェクションマッピングで映し出された森/街/海を旅しながら、カーボンニュートラル(CO2排出量実質ゼロ)に向けた世界の取り組みを学ぶことができ、タッチやARなどでも体験ができるインタラクティブなコンテンツを作り上げていた。現在は映像、インタラクション、ARカメラを用い、ポケベルやガラケーを操作する人たちが行き交う「平成レトロの街」を題材にした「デジタルコネクションストーリー~平成ノスタルジーと村のミライ~」を展開している。

 リアルサウンドテックでは今回、同企画でプログラマーを務めた株式会社stuの杉野裕則氏にインタビューを実施。テクノロジーを使いながらも、子どもにもわかりやすい体験設計はどのようにして行われたのかを聞いた。

――まずは今回の企画について、杉野さんはどのような立ち位置で関わられていたのでしょうか?

杉野:僕自身はビジュアルを作るプログラマーとして、プロジェクションの絵の設計やインタラクションデザイン全体を担当しました。プログラムから絵作りまで、地下1階のプロジェクションに関わるコンテンツを作っています。

――今回は最初に『GINZA 456』の地下1階で体験をして、そこで学んだことを1階で復習するという構造になっているかと思います。KDDI側からはどのようなリクエストがあったのでしょうか?

杉野:KDDIさんは、サスティナブルな取り組みをおこなっているのですが、その一環としてカーボンニュートラルについての取り組みを伝えながら、エンタメとしても楽しく学べるコンテンツを作ってほしいというリクエストをいただきました。

 当初のターゲットは、施設全体の体験設計として各エリアの役割を定義して、それに沿った企画を考えてほしいと言われました。

――実際にコンテンツを体験させていただくと、地下一階に関してはもう少し下の世代であったり30代の方がお子さんと一緒に来れるような、いい意味でハードルの低さや楽しさが感じられました。

杉野:そうなんです。最初の想定は20代30代、40代だったのですが、話し合いの結果、会期が夏休みということもあるので実施しようとなりました。都心の一等地には気軽に子供を連れて遊べる場所が少ないですし、小学生がカーボンニュートラルについて知れるきっかけになれば夏休みの自由研究にも使えるかもしれないといった話をKDDIとstuチームとでしていましたね。

 けれど、カーボンニュートラルって、難しいじゃないですか。なので地下一階は楽しく伝える、一階は正しく伝えるといった形で、分け方を踏まえた内容にしようと。

――たしかに、無料で遊べる都内の涼しい場所って中々ないんですよね。

杉野:そうですね。それに、前回の『GINZA 456』でのイベントは予約制だったのですが、今回は無料かつ予約なしで入れるのが良かったのかなと思います。

――そのようにハードルを低くして間口を広く取るという中で、街、森、海というコンセプトはどのように決まったのでしょう?

杉野:カーボンニュートラルのカーボンにはグリーンカーボンとブルーカーボンがあるのですが、グリーンカーボンというのは木が吸収したカーボンのこと。一方、海だと藻などが一番カーボンを吸収するそうで、藻などが吸収して定着させたカーボンのことをブルーカーボンと呼ぶんです。

 そこから「森」と「海」を表現しようということになりました。それから我々の身近なところという意味で「街」におけるカーボンニュートラルの取り組みを表現しようということで、この3つの視点が決まりました。

――『GINZA 456』の両壁面、前壁面、床というある程度決まった空間の中で、ARのコンテンツも含めたテーマ全てを消化するのは大変なのかなとも思うのですが、とくに苦労された点はありますか?

杉野:stuの技術開発チームは、普段から主に2つの方向性で開発を進めているんです。ひとつは、業界的に最先端の新しい技術を活用すること。もうひとつは、クライアントの要望やターゲットに合わせて、その企画を実現するために技術を活用して、課題解決や体験価値を向上させることです。

 今回の企画は後者に該当しています。『GINZA 456』に訪れる来場者の体験を向上させ、満足感を高めることを主眼にしたアプローチをおこなっているので、正直に言うと今回の開発で技術的に苦労した点は特にありませんでした。というのも、僕らは今回のようなプロジェクターやセンサーを使ったインタラクティブな作品を10年以上作ってきていますから。

 自分たちでWebカメラのフィルターを取って可視光フィルターに入れ替えたり、赤外線センサーを自分たちで作ってセンシングしたり、stuにはAIを用いた開発をするチームもあるので、機械学習などを活用したセンシングの方法も試しています。今回使用したのは工業用の2D距離センサーと3Dセンサーの組み合わせで、部屋全体のどこに人がいるか、壁のどこを触られたかということをセンシングしています。

――タッチするだけのインタラクティブなコンテンツはもちろん、ARの要素も入っているのがユニークだと感じました。

杉野:『GINZA 456』でAR技術をトライするのは初めてなので、模索した部分もあって。最初は技術的なチャレンジとして、ARの表示をマーカーレスで行おうと思っていたんです。そのために「アプリからグラフィックを認識して説明を表示する」という実装にしたんですが、それだとお客さんが「どこを撮ればいいか分からなくなってしまう」ということに気が付いて。やはり分かりやすいマーカーがあった方がARのアプリとしても認識しやすいし、精度は上がるんですよね。

――たしかに、特定のものを見つけるのであればマーカーレスの方が良さそうですが、実際には何かわからないものの中から探すとなると、特に子供が使う場面を想定すると難しそうですね。

杉野:そうなんです。今回の展示を通して、得られた発見の一つですね。あとは、ARのアプリだけだと鑑賞者の「個人的な体験」に終始してしまいますが、今回採用したようなデバイスの形式にすることにメリットもあります。たとえば親がARを見ている子どもを見ること自体にも楽しさがあるんですよね。だからこそ、今回の企画では「見ている人を撮る」みたいな構図が生まれたのかなと。それはある種、意匠的な工夫だったのかなと思います。

――あの工夫によって、より子どもの方も能動的に楽しめる作りになっていましたね。そうしたような、「ここはやった方がいい」あるいは「やりたかったけれど親子向けの企画だからやめよう」といったことも判断軸のひとつとしてあったと思いますが、それについてはどのような取捨選択をしたのでしょうか?

杉野:それでいうと、壁や投影した映像の高さには気を使いました。『GINZA 456』の施設って、壁の高さが2.5mほどあるんです。ですが、この壁を目いっぱい使ってしまうと、子どもの目線に合わなくなってしまうんですよね。

 たとえば鳥を飛ばすときに、Unityの画面上で作っているとどうしても画面の真ん中に飛ばせたくなるんですけど、そうするとプロジェクションしたときに1.5mくらいになって、子どもの目に入らなかったり、届かなくなってしまう。

 5歳前後の子どもの平均身長が110センチくらいなんですが、人間工学的には「自分の目線より下のもの」の方が触りやすいそうなので、できるだけ50センチから1mくらいのところに飛ばすようにして、触ったらそこから壁全体にインタラクションが広がっていくというような作りしました。

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