人気シリーズが辿りついた“原点回帰” 『悪魔城ドラキュラ 奪われた刻印』のハイブリッドな価値と魅力

『悪魔城ドラキュラ 奪われた刻印』のハイブリッドな価値と魅力

探索型の課題、閉塞感の打破を目指す試みがステージクリア型に行き着いた

 『奪われた刻印』における“ステージクリア型の遊び”というのはエリア選択制の導入だ。『月下の夜想曲』をはじめ、探索型『悪魔城ドラキュラ』シリーズは広大な悪魔城のマップを探索し、敵との戦闘やイベントを攻略していくスタイルを基本としていた。

 ただ、このスタイルには弊害があった。閉塞感の高まりである。

『Castlevania 白夜の協奏曲』(『Castlevania Advance Collection』より)
『Castlevania 白夜の協奏曲』(『Castlevania Advance Collection』より)

 舞台がひとつだけ、それも城というテーマに絞られることからデザイン的な縛りが生まれ、マップ構造や見た目の違いが表現しにくくなってしまう。この弊害は探索型のシリーズ化に伴って目立ち始め、徐々にマンネリ感が現れてくるようになった。

 ステージクリア型にもそんな縛りは付きまとったものの、区切られながら進行する都合、やり方次第では広げられる強みがあった。実際、それに挑んだ作品として、ヨーロッパ全土が舞台となった『バンパイアキラー』がある。

 そして、『バンパイアキラー』の続きのストーリーを描いたニンテンドーDSの第2作『ギャラリーオブラビリンス』では、閉塞感の打破を試みた。それが「絵画の世界」という、悪魔城以外のマップに城内へと行き来する仕組みだ。

 『奪われた刻印』は、その方向性を引き継ぎながら、エリア選択制を採用することでさらなる細分化を実施。城以外の独立したマップ(エリア)が多数設けられ、本編の流れもそれらを順に探索し、次のマップを開拓していくものに変更されたのだ。

 その流れは、まさしくステージクリア型の遊びそのものである。

 そして、城というテーマに絞られなくなったことにより、マップの構造バリエーションにも広がりが生まれた。そのためか、真横に広いだけという、ステージクリア型『悪魔城ドラキュラ』を模した1本道マップも新たに登場している。

 一方で、城以外を探索する機会が増えたことで、『悪魔城ドラキュラ』という名の意味が薄れた……と思いきや。実際はこれまでにも増して、その名の意味を重く感じるストーリー展開を作り出すに至っている。ゲームプレイと演出、果ては音楽までも強力に絡み合ったその展開は、間違いなく本作が『悪魔城ドラキュラ』であると痛感させられる、シリーズでも随一の名場面と言ってもいいだろう。

 このような試みによって、『奪われた刻印』は過去の探索型シリーズにも増して『悪魔城ドラキュラ』原点の面白さと味わい、そしてその題名の重みを持った新作になった。

 閉塞感の打破を目指した『ギャラリーオブラビリンス』の試みが、結果的にステージクリア型への原点回帰に行きついたというのは、なかなかに興味深い変遷だ。そして、こうした作りもあって、『奪われた刻印』はステージクリア型の『悪魔城ドラキュラ』に慣れ親しんだ人にも受け入れやすい作りになっている。

 逆に探索型のシリーズに慣れ親しんできた人には、注意が必要な作りになっている。というのも、難易度が底上げされているからだ。横に長いマップに象徴される探索要素が皆無のマップが設けられた分、敵が軒並み強化され、僅かな油断がゲームオーバーへとつながる手ごわさとなっている。ボスも全体的にこの傾向が反映され、レベルや装備による強化を図っても、きちんと相手の動きを読んだ上での立ち回りが求められる。

 しかし、それがステージクリア型『悪魔城ドラキュラ』らしく、慣れ親しんだ人ほど懐かしく感じやすい。厳密には操作感などで違いはあれど、常に油断ならない立ち回りが求められる作りには「これだ!」となってしまうだろう。

 ほかにも探索型のシリーズは、ストーリーが過去の『悪魔城ドラキュラ』と関連した続きモノであるなど、特有のハードルが存在した。

 それも本作は関連性控えめの独立したストーリーで、シリーズ経験のないプレイヤーにも受け入れやすくなっている。そのストーリーの出来も良く、とりわけ前述の『悪魔城ドラキュラ』の意味を描いた展開は非常に心に残るものに仕上げられている。

 閉塞感に代表される探索型特有の課題を解消し、ステージクリア型の新作を求める声にもゲームデザインの形で応える。さらには、『悪魔城ドラキュラ』というタイトルの意味を強く定義させるストーリーをも実現させた。

 あらためて見ても、『奪われた刻印』はステージクリア型から始まり、探索型の新境地にたどり着いた『悪魔城ドラキュラ』の集大成にして、総決算の新作だったと言えるだろう。

 ある意味では、新たな探索型シリーズの始まりを予感させる作品だったとも言える。

高まり続ける遊ぶためのハードル。そして、復刻における大きすぎる課題

 しかし、『奪われた刻印』の後の探索型シリーズがどうなったかは冒頭で言及した通りである。結果的に最後の作品となってしまった。

 もともと、『悪魔城ドラキュラ』は海外では人気な反面、日本での売り上げが伸び悩んでいたという実態があった。『奪われた刻印』も発売初週の売上本数は1万9000本(※メディアクリエイト調べ、2008年10月20日~26日まで)で、厳しい出足となっている。

Castlevania -Lords of Shadow- 作品紹介映像

 後に海外で3Dの『悪魔城ドラキュラ』新作、『キャッスルヴァニア ロードオブシャドウ』(以下、ロードオブシャドウ)が大きな成功を収めると共に、横スクロールのドット絵を基調とする『悪魔城ドラキュラ』はステージクリア型、探索型ともに姿を消した。ただ、その直前に発売された新作が、探索型とステージクリア型のハイブリッドであったのには、どこか“エモい”ものを感じてしまうのは筆者だけだろうか。

 また、『奪われた刻印』の後にも『ドラキュラ伝説 ReBirth』なる、ゲームボーイの『ドラキュラ伝説』をベースにしたステージクリア型の新作がWiiウェア専用タイトルとして発売されている。

『ドラキュラ伝説 ReBirth』。2023年現在では新規購入ができない幻の『悪魔城ドラキュラ』に
『ドラキュラ伝説 ReBirth』。2023年現在では新規購入ができない幻の『悪魔城ドラキュラ』に

 そのことからも、2000年代後半の『悪魔城ドラキュラ』には、探索型に限らない幅広い新作展開を試みようとした形跡が見られる。『悪魔城ドラキュラ ジャッジメント』なる、対戦型アクションゲームの存在もそれを物語っている。結局、その新展開はすべて『ロードオブシャドウ』が担う形となってしまったが……。

 2023年現在、『奪われた刻印』を含むニンテンドーDS向けに発売された『悪魔城ドラキュラ』シリーズ3作は中古価格が大幅に高騰。非常に購入しにくくなっている。ゲームボーイアドバンスで発売された『悪魔城ドラキュラ』3作と違い、現行プラットフォームでの復刻も実現していない。それもあり、遊ぶハードルが年々高まり続けているのがもどかしい限りだ。

 しかも、昨今は発売当時にも増して探索型『悪魔城ドラキュラ』の人気・知名度が高まっている。ゆえにニンテンドーDSで発売された3作をすでに実現したシリーズ作品にならって、コレクション形式で復刻されることを求める声も少なくない。

 しかし、その復刻は困難を極めるだろう。なぜならば3作のひとつ、『蒼月の十字架』にはタッチ操作専用の要素として「魔封陣」、「バロール」なるものが存在するからだ。

『蒼月の十字架』より「魔封陣」(指定された軌跡をタッチペンで直接画面に描かなくてはならない)
『蒼月の十字架』より「魔封陣」(指定された軌跡をタッチペンで直接画面に描かなくてはならない)

 しかも、「魔封陣」はボスにトドメを刺すとき、「バロール」は探索範囲を広げるときに障害となる特殊なブロックを破壊するに当たって必ず使うことになる。どちらもゲームの根幹に深々と食い込んでしまっているのだ。

 残る『ギャラリーオブラビリンス』、『奪われた刻印』にもタッチ操作は存在するが、基本的に補助程度。『蒼月の十字架』だけが深く食い込んでしまっているので、現行プラットフォームで復刻させるなら、システムそのものの抜本的な変更は避けられないのである。それだけでも、新作を作るほどの労力が必要となるのが想像されるため、いかにコレクション形式での復刻の難易度が高いのかは言うまでもないところだ。

 とはいえ、『奪われた刻印』も含め、ニンテンドーDSで発売された3作はいずれも素晴らしい出来を誇る傑作である。それがどんどん、遊ぶのが難しい過去のゲームと化していくのは遊び込んだ人間としては看過できたものではない。前述の特徴の都合、容易ではないのは重々承知しているが、そう遠くない未来に現行の環境で遊べる時が来ることを願いたい。

 その暁に『奪われた刻印』が実現させた、ステージクリア型と探索型の“ハイブリッドな作り”、『悪魔城ドラキュラ』の意味を重く定義したストーリーに再注目が集まればと思うばかりだ。

©Konami Digital Entertainment

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