連載:作り方の作り方(第五回)

違和感を大切にしないと「面白い」から遠ざかる 放送作家・白武ときお×『オモコロ』編集長・原宿がいまの時代に「面白さ」を見出すもの

 いま、エンタメが世の中に溢れすぎている。テレビやラジオはもちろんのこと、YouTubeも成長を続け、Podcastや音声配信アプリも盛り上がりを見せている。コロナ禍をきっかけに、いまではあらゆる公演を自宅で視聴できるようにもなった。では、クリエイターたちはこの群雄割拠の時代と、どのように向き合っているのだろうか?

 プラットフォームを問わず縦横無尽にコンテンツを生み出し続ける、放送作家・白武ときお。彼が同じようにインディペンデントな活動をする人たちと、エンタメ業界における今後の仮説や制作のマイルールなどについて語り合う連載企画「作り方の作り方」。

 第5回は、2012年から『オモコロ』二代目編集長を務める原宿氏が登場。『オモコロ』は2005年に更新を開始した、ゆるく笑えるコンテンツに特化したWebメディア。長らく記事コンテンツを更新してきたが、近年はYouTubeチャンネルやラジオ、ファンコミュニティの運営などを通じて、インターネットの最前線で「面白い」を追求し続けている。

 そんな『オモコロ』で記事コンテンツの編集長を10年以上務めてきた原宿氏は、現在のインターネットにおける「面白さ」のあり方や価値観をどう考えるのだろうか。異なるフィールドで「面白さ」を追求し続けるふたりが語り合った。

イチローにオードリー・若林 異業種の他人と思想が「重なる」面白さ

白武:以前から『オモコロ』は拝見していて、ずっと面白い活動をされているなと思っていました。最近はYouTubeの『オモコロチャンネル』をよく拝見しています。

原宿:ありがとうございます! 僕も『しもふりチューブ』をよく拝見していますし、白武さんの本も読みましたよ。

白武ときお

白武:恐縮です、ありがとうございます。原宿さんはインターネット黎明期から面白いことをされていますよね。その頃のインターネットをご覧になってきたというのが、羨ましいなと感じるところがあります。僕がいま32歳なので、黎明期をよく知らないんですよね。

原宿:そうか。僕はいま42歳なので、そういう意味では時期が良かったところもあると思います。90年代にネットゲームとかチャットとかが出てきて、遠くの人とこんな形でやり取りできるなんてすごい! と感じていたら、同時期にテキストサイトっていう個人で面白い文章を公開する人たちも出てきた。

 僕もその流れで、ネットに自分で書いた文章をアップするようになって……。当時はそれが仕事になるなんて全く思わなかったですけど、時代とか運の要素はやっぱり大きいですね。

白武:そういったインターネット黎明期の流れには、憧れるところもあります。原宿さん個人として「面白い」と感じるものの傾向とかありますか?

原宿:僕は純粋に言葉の意味とかがけっこう好きで、たとえば大喜利とかでもできるだけ遠くから言葉を持ってきて組み合わせると面白いみたいな話がありますけど、意味がぶつかりあって、新しい発想やイメージが生まれることに面白さを感じる傾向がありますね。

白武:ヒップホップのサンプリングみたいな感覚なんですかね。

原宿:ああ、そうかもしれないですね。この文脈でこの言葉が出てきたらなんか笑っちゃうなとか、こういう広告のフォーマットでこっちを宣伝してみたらどうなるかな、とか。そういうことで遊んでるのが好きですね。

白武:なんでも動画で見るのが当たり前になってたんですが、最近ちゃんと学ぶならテキストに触れるのが一番だなと。できるならば電子書籍よりも紙の本。そのほうが記憶の定着とか学習に効果的だと、いろんな研究結果でも証明されているみたいですけど。

原宿

原宿:「デジタルで読む脳×紙の本で読む脳」って本で、電子の画面で読むテキストは読み飛ばしやすいって言われてましたね。なので、恐らくこのインタビューも読み飛ばされていると思いますが……。ただ最近、テキストの価値が見直されているところはありますよね。最近は梨さん(※)とかがホラーの分野で、色んなテキストの読ませ方などの新しいフォーマットを試しているので、そういうのを見るとテキストコンテンツでもまだまだ面白いことができるんじゃないかと感じます。

※梨とは、『オモコロ』にも寄稿するインターネットを中心に活動する怪談作家。デビュー作は『かわいそ笑』。

 面白さを感じることでいえば、最近は「重なる」ことがいいなと思っていて。

白武:「重なる」とは?

原宿:自分の仕事や人生とは一見関係がなさそうな、たとえば元プロ野球選手のイチローさんが「びっくりするような好プレイが、勝ちに結びつくことは少ないです。確実にこなさないといけないプレイを確実にこなせるチームは強いと思います」って言ってたりすると、「うわ! うちの組織や、個人の制作でもそうじゃん!」みたいに感じたりして、自分と「重なる」と感じる部分がある。「共感」とはちょっと違って、別々の人生を歩んできた人が一瞬だけ同じことを感じて「重なる」のってかなり面白いし、なんなら人間の気持ちは無限に重ねられるわけだからかなり凄いなと。

白武:なるほど。僕は意識的にうまくいってる人の法則に重ねて行くことが多いかもしれないです。

原宿:最近、「うまくいく」とか「成功」みたいなものにも疑問があるんですよね。Netflixの『LIGHTHOUSE』で、オードリーの若林さんが「幸せだけどつまらない」「飽きた」と話していたのが印象的でした。一度成功すると、みんなからはいままでの成功パターンみたいなことを求められるけど、やっている本人自身はいまの場所を全部捨てて、いちから新しい場所を作りたいという気持ちがある。でもいままでのこともそう簡単に捨てられないから、気がつけば自分で「パターン」を繰り返す道を選んじゃう。安定しているように見えても、こういう葛藤を持っている人って多いだろうなと思います。

白武:そこで上出遼平さんは「コンフォートゾーンから抜け出そう」といろんなものを置いて、本当に抜け出しちゃう。

原宿:この連載シリーズで僕も読みました!  あのアグレッシブさはちょっとヤバいですね。さすがに凄すぎると思いました。

「お金がないことは死に値しない」 放送作家・白武ときお×『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』など手掛けた上出遼平が語る“テレビ業界への反発心”

プラットフォームを問わず縦横無尽にコンテンツを生み出し続ける、放送作家・白武ときお。彼が同じようにインディペンデントな活動をする…

白武:上出さんの選択の仕方は真似したいですね。荷物が年々多くなっているので。たとえば「サブカルの人は40歳で鬱になる」と言われたり、原宿さんは年齢による影響ってあったりしますか?

原宿:ああ、あります。年を取ると、結局どんどん他人の視点が入ってくるんですよね。昔はただ「自分が面白いと思うことをやってればいい」と思っていたけど、いまは「こういうことを言うと嫌な気持ちになる人もいるよな」とか「ちょっと一方的な見方すぎるかな?」とか、やっぱり考えちゃう。

 鬱とは違うかもしれませんが、そうやって他人の視点がどんどん入っていった先に、そもそも自分は何をどうしたいんだっけ? という所で止まっちゃうみたいなところはあるかもしれないですね。止まれる時間が許されていれば、止まった方がいいとも思うんですけど、仕事だとそういうわけにもいかないって人も多いと思いますね。

関連記事