小説家・古宮九時が語る“FF14愛”「創作者の憧れの形」 光の戦士と運営の絆は“唯一無二”

ダークファンタジーをストレートに叩きつけてくるストーリー

最新拡張パック『暁月のフィナーレ』

――MMORPGである『FF14』を継続的にプレイすることで、実生活になにか変化はありましたか?

古宮:アテにならない話だと思いますが、スマートフォンゲームのガチャを回さなくなりました(笑)。月額3000円未満(※)でこれだけ楽しいなら、何万円も溶かすのはつらいなと思うようになりましたね。もう1つは、家族が「どうせゲームやってるんでしょ」と放置してくれるようになりました(笑)。ログインしている人が多い夜の時間は「私、今日はちょっと友達と約束があるんで」と言えば、「あ、いいよ」と言ってくれるようになったんです。友達との時間を自然に作れるようになったのは、大きな変化だったなと思います。

※『FF14』はスタンダードプランで月額1628円(税込)。アイテムを預けたり素材を収集したりしてくれる「リテイナー」を追加で雇う場合、1体あたり月額220円(税込)となっている。

――もともとストーリーを薦められて『FF14』に戻ってきた古宮さんですが、印象深いストーリーはありますか?

古宮:1番印象深いのは、やっぱりレベル35のメインクエスト「灯りの消えた日」です。「砂の家」が襲撃されるクエストですね。私は『FF14』以前からの古いMMOプレイヤーで、『ウルティマオンライン』や『ラグナロクオンライン』などを通ってきたのですが、メインストーリーがあるMMOは初めてだったんです。「灯りの消えた日」では、自分によくしてくれていた村が焼かれて、戦闘から帰ってきたら一晩にして全員が死んでいる、というもの。「ええっ!?」ってなりましたね。「あ、これダークファンタジーなんだ」と初めて思い知ったのがあのときでした。しかも報告を終えると、「身元不明の死体が放置されて困ってるから引き取りに来てくれ」って言われるんです。かつての仲間の死体を1体ずつ引き取って、埋葬しに行く。「考えた人、鬼か?」って思いましたね。あとは最新の拡張パッチである『暁月のフィナーレ』です。「王道をここまで綺麗に書けるのか」と感動しました。創作者の憧れの形の1つだと思います。

――お仕事の面では、小説家としての活動に『FF14』の影響が出ることはありますか?

古宮:基本的には、話自体は「かぶらないように摂取している」感じです。これだけ多くのユーザーを獲得して、大きな支持を得ているファンタジー作品ですし、二番煎じになるのは良くないですから。ただ同時に、『暁月』もそうだったんですが、ダークファンタジーを正面からストレートで叩きつけてくれるので、「これだけやってもこれだけ支持してもらえるんだ」という事実はすごく安心感につながりますね。『FF14』のストーリーって、絶対に悲劇を甘く描かないじゃないですか。悲劇はどうしようもないものだし、絶対起こるもの。そして、「人間は汚い」というのをもう繰り返し繰り返し叩きつけてくるけど、それを否定するのではなく、「だからこそ希望をつなぎましょう」というスタンスを、てらうことなく貫いてくれる。そこは心強いですね。

 ライトノベルはジャンルと作品の多さが売りなので、人によっては「軽いものが受けるよ、売れるよ」という話が広まることもあるんです。でも、いまの世の中では『FF14』に限らず、きちんと重いものを取り扱った作品も十分に支持を得ていますよね。重いストーリーでも、楽しんでくださっている方はきちんといる。そう示してくれる『FF14』は、はるか格上の先達だと思っていますし、安心する思いです。

――作品内での表現手法についてはいかがでしょうか。

古宮:緩急といいますか、日常シーンの入れ方が上手いですよね。戦闘シーンや深刻なシーンが続くなかでも、合間でたとえば各NPCから1人選んで決戦前に話をするとか、みんなで食事をしながら話をするとか、緩め方がすごく上手いんです。1人1人が主人公を訪ねてくるところも、作家仲間と2人で「誰々だったらどんな話すると思う」と言い合いながら、「じゃあ見てみよう」ということをやったんですが、どのキャラも予想とはちょっと違うんですよ。「あ、ここついてくるか」と。でも『暁月』に至るまでの長い旅路で、 確かにいま、この場で触れることだなという話を入れてくれるんです。戦闘や深刻なシーンではないところでの緩め方は、本当にいつも勉強させていただいています。

――キャラクターの描き方について、より深掘りするとどんなところに魅力があるのでしょうか?

古宮:「暁月の血盟」のメンバーは良い人で固めてあるという安心感があるので、脇のサブキャラたちの描き方に幅が出せるんだなと思っています。『暁月』では古代人に焦点が当たっていましたが、私はヘルメスがすごく好きなんです。彼の考え方はもっともだなと思いながら、エメトセルクの言っていた「みんな賢くて平和だった」は嘘じゃないか、と(笑)。古代人のなかにも、アテナやヘルメスのような異端者がいて、彼らの側面も書いてくれる。

 それと同時に、主人公である光の戦士の描き方もとてもうまいですよね。喋らない主人公、選択肢を選ぶだけの主人公って、幅が広がりにくいという限界があると思うんです。でも、光の戦士にはいろいろなキャラがいろいろな関係性を求めてきて、その幅も本当に広いですよね。3〜4つの選択肢で、みんなが思い描く自分がかなり変わる。ここは本当に魅力的な部分だと思います。

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