「占い」を主軸にした対話型ADV 選択が運命を動かす『The Cosmic Wheel Sisterhood』の画期性に迫る

画期的なメカニクス

 本作のゲームメカニクスは一見すると、Deconstructeamが2018年にリリースした『The Red Strings Club』、そして今年待望の続編がリリースされた対話型ノベルゲームの傑作『コーヒートーク』にきわめて近いようにも見える。すなわち、「来訪者が望むものを提供し」「個々の来訪者たちと会話を重ね」「多面的な視点から世界の実相に近づいていく」といった、『Va11- HallA』(2016)で確立されたこのジャンルのファンにはおなじみの流れだ。

『The Red Strings Club』(2018)
『コーヒートーク エピソード2:ハイビスカス&バタフライ』(2023)

 しかしプレイしているうちに、本作『The Cosmic Wheel Sisterhood』は『コーヒートーク』とは真逆の方向で対話型ADVを進化(深化)させた作品であることに気づく。

 両者の違いを具体的に挙げてみよう。

(1)『コーヒートーク』では、複数キャラクターの会話によって生まれるケミストリーを物語の推進力としているのに対し、『The Cosmic Wheel Sisterhood』はあくまで「訪問者」と1対1の対話と占い、カード作成の繰り返しで進行していく

(2)『コーヒートーク』の舞台は現実世界とリンクしたカフェだが、本作は現世も生死も越境した世界を舞台とする(また、それぞれが来訪者に提供する媒介物「コーヒー」「鑑定」の違いも、「物質と非物質」「形而上と形而下」の違いと見ることができるだろう)

(3)『コーヒートーク』では客の要求に応えて飲みものを作ることでストーリーを進行させていくのに対して、本作の訪問者たちが望むのは、個人的な悩みの回答や「未来のビジョン」である(プレイヤーは自ら作成したカードを媒介にして、これに答えていく)

 上記のような特徴は「運命の一回性」と「この世ならざる世界」を創出することに成功している。本作は冒頭で「このゲームは運命にまつわる物語のため、複数スロットで様々な選択肢を試すことはできません」といった警告文が表示されるのだが、これは作り手がプレイヤー1人ひとりの選択をもっとも重んじていることのマニフェストでもあるだろう。

選択肢を「作る」

 本作のもっとも画期的な特徴は、前述した「プレイヤーがキャラクターとの対話における選択肢を『カード作成』というプロセスの中で、自らの手で作り出していくこと」にある。これまでに「タロット」や「占い」を扱ったビデオゲームはいくつもリリースされたが、それらはあくまで副次的な要素、あるいはフレーバーに留まっていたものが多く、「占い」という、いまなお盛んな伝承文化をゲーム体験の主軸・血肉にできたゲームは(筆者の知る限りでは)ほとんどなかった。

 ここでの「占い」についてもう少し詳しく解説しよう。プレイヤーは訪問者との占いや読書などで得た四大元素を用いて、次々とカードを作り出していく。実はこのカードとはゲームメカニクス的に言えば、訪問者に対して与えられる選択肢——ここでは神託(オラクル)というべきかもしれない——そのものである。本作においてカードを作成していくことは、占いにおける鑑定選択肢を増やすことを意味する。それらのカードは1周目ではコンプリートすることができないほど多岐に渡るが、それは占いの選択肢バリエーションが相当数あることを意味するばかりではない。本作の醍醐味は、カードが増えれば増えるほど、「占う」ことの自由、そして重みが生まれていくように「感じられる」ことだ。自らの選択(鑑定)の重み、それが訪問者にもたらす「運命」を受け入れることの重み。

 迷いに迷って(あるいは直観的に)下した選択はプレイヤーの心の内で、そしてゲーム内でも年輪のように刻まれていき、プレイヤーは自分の手で訪問者たちの運命を、そしてコヴンの運命を自分が変えていることを実感することになる。それは、たんに目の前の「選択肢A・B、どちらを選んだからこうなった」というようなシンプルなものではなく、実人生において発生する多重的で曖昧な選択にも似て、数値化や効率性を基準にしては見えない「何か」がゲーム中に浮かび上がってくるように感じられるのだ。その選択は後戻りして選び直すことはできず、選択によって派生した結論や分岐の正否も簡単には読めない。

 本作ではプレイヤーの選択によってストーリー、来訪者が変化していく。自らの作成したカードと占いによって「自分自身がこのゲームの物語を導いている」という実感を得ることは、本作の主人公・フォルトゥーナが「占い師」であるという設定に完全に呼応・照応している。筆者はそれなりに多くのノベルゲームや対話型ADVをプレイしてきたが、これほどゲームメカニクスと物語設定が絶妙に合致している(あるいはそのことにきわめて自覚的な)ADVに出会えることは稀である。「自分の選択が運命を動かしている」という不可逆的実感、その選択そのものを自分が作り出しているという実感。これは「占い」「カード」「現実・生死を越境した舞台設定」でなければ、生まれなかったものだ。そうした今作の本質部分を掴むと、プレイはいっそう慎重になり、同時に愉悦にみちたものになるだろう。

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