まらしぃ×じん×堀江晶太が語り合う、“ボカロ”という表現形態の異色さと面白さ 「前提となるルールが全然制約になっていない」

 ここ数年、シーンの中でも一大イベントとなっている『The VOCALOID Collection』(通称『ボカコレ』)。メインとなる楽曲投稿祭のみならず、様々なボカロPの携わる企画やリスナー主体の企画など、ボカロ愛に溢れたコンテンツが満載となるイベント方針が、その魅力のひとつでもあるだろう。

 次回『The VOCALOID Collection ~2023 Summer~』の開催を2023年8月4日~7日に控えた中、今回本記事では前回の2023年春開催時に総合ランキング1位を獲得した楽曲「新人類」を手掛けたまらしぃ、じん、堀江晶太の3名による鼎談を敢行した。

 楽曲の完成度もさることながら、いまやボカロ界のビッグネームである3人の“夢の共作”としても話題をかっさらっていった本作。制作にまつわる秘話や『ボカコレ』というイベントについて、また現在のボカロシーンについての印象などを、終始和気藹々としたムードで思うままに語ってもらった。

3人ゆえの“無責任”な制作が異質な魅力として光る曲に

新人類 / まらしぃ×じん×堀江晶太(kemu) feat.鏡音リン

ーーまずは今回『ボカコレ』参加に至ったきっかけについて、投稿を主導していたまらしぃさんに伺えればと。

まらしぃ:変な話なんですけど、前から計画を立てて参加しようとか、「3人でちょっと一緒に乗り込もうぜ」みたいなノリではまったくなかったんです。単純に僕が今年の4月末ごろに「アマツキツネ」という曲の10周年アルバムを作った際に、2人に参加をお願いして。それを快諾してもらったなかで、「せっかくだから1曲作ろうぜ」って出来た曲が「新人類」でした。

 そのうえで、どうせ投稿するならみんなに楽しんでもらいたいな、って思ってたタイミングで『ボカコレ』があって。元々存在は気になってていつか参加したいとも思ってたし、この3人が揃う機会もそうないから「出たいんだけどどうだろう」って。わりと突発的でしたね。

ーー元々『ボカコレ』に照準を合わせたものではなかった、と。

まらしぃ:動画コメントでは「優勝取りに来たな」とか言われたんですけど、取りに行くならもう少し真面目な曲を……ねえ(笑)?

ーーたしかに、曲全体の遊び心は強めというか。まらしぃさんには元々ピアノや綺麗な曲を作られる方という印象が強いので、その点の意外性はあったかもしれません。

堀江:そこは、じんくんが入ってくれた部分がすごく大きいですね。今回まらしぃくんから「せっかくだし、いままでの自分らしからぬ曲を作りたい」と相談を受けて。その時、新しいブレインとして、じんくんのアプローチが面白いかもという話で始まった部分もあったので。

じん:周年のタイミングでまらしぃくんに協力したい気持ちもあって、「どんな感じのことやりたいの?」というヒアリングから始まりました。

ーーいざ制作に入った際、曲の着想はどこから出てきたんでしょう。

まらしぃ:元々じんさんもアイデアを出してくれたんですよ。インテリジェンスのあるピアノや、僕とkemuさんの「88☆彡」的な要素とか。当初は「新人類」とは真反対のお洒落系で、それをブラッシュアップしようとしてたんです。

88☆彡 / ワンダーランズ×ショウタイム × KAITO

 そのなかで、僕はピアノの上にピンクの猿のぬいぐるみを置いてるんですけど、そういえば猿が主題の曲っていままでないなと思って。「猿のコンセプトもありだなー」とか考えつつシャワーを浴びていたら、「ウホウホ」というフレーズが出てきて……(笑)。

堀江:そこからじんくんの発案で、「逆にインテリジェンスをどんどんなくそう」「上品な物じゃなく、もっと子どもみたいに退化して原始的に寄ろう」と派生していきました。

じん:「お洒落なこと絶対禁止!」とか言ってたね。「晶太くん、絶対Bメロで転調しちゃダメだよ! すぐカッコいいテンションコード使ったらダメだよ!」とか(笑)。

堀江:転調どころか「逆に1コードで」みたいなね(笑)。普段インテリジェンスにあふれる音楽が出来るまらしぃくんだからこそ、それを間引くことが出来た印象だったな、俺は。“わかってるうえで、あえてやらない美学”というか。

じん:それは俺も思った。まらしぃくんが「なんにも考えずに音楽やるの楽しいー!」って言ってたし(笑)。そこからどんどんこう、IQが下がっていく制作でしたね。

まらしぃ:しかも、よく考えたらさ「ウホウホ」ってサルじゃなくてゴリラなんだよね……(笑)。

堀江:それは俺もずっと思ってたよ。

じん:歌詞はチンパンジーだしさあ。本当にIQ低いんだよな。曲名は「新人類」だし(笑)。

まらしぃ: MVに出てるのも「わんぱく!おさるのシンバルくん」ですからね。元々「アマツキツネ」の10周年アルバムだったから、狐耳のリンちゃんとか、「アマツキツネ」って昔の言葉で「流れ星」って意味なので、その要素で作ろうとしてたのに……結局一個も入ってなかった(笑)。

アマツキツネ (10th Anniversary ver.) / まらしぃ×堀江晶太(kemu)×じん feat.鏡音リン

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