イライラ系アクションから再び配信者経由でのヒット作 『Only Up!』人気の理由は“ジャンルのオープンワールド化”にあり?

 “とあるゲーム”が配信者界隈を中心に話題を呼んでいる。

 そのゲームの名は『Only Up!』。『Getting Over It with Bennett Foddy(通称:壺おじさん)』から続く、イライラ系アクションの文脈上にあるタイトルだ。

 同ジャンルから生まれた後発タイトルが数あるなかで、なぜ『Only Up!』は新たな代名詞となれたのか。そのゲーム性からヒットの理由を紐解く。

パルクールの要領でひたすら高いところを目指す3Dアクション『Only Up!』

Only UP! Official game Trailer

 『Only Up!』は、空高く伸びる構造物をひたすら上を目指して登っていく3Dアクションゲームだ。プレイヤーは、スラム出身の主人公・ジャッキーを操作し、パルクール(※)の要領で限られた足場を頼りに歩みを進めていく。

 「ひたすら高いところを目指す」という特性上、足を踏み外して落下することは、ふりだしに戻ることを意味する。数時間の積み重ねが一度の失敗により無に帰すことも珍しくない。こうしたゲーム性は、2018年前後におなじく配信者界隈でトレンドとなった『Getting Over It with Bennett Foddy』と同質のものだ。プレイを通じて味わえる緊張感や達成感が『Only Up!』の醍醐味であるといえる。

 開発・発売を務めるのは、韓国・SCKR Games。主だったタイトルはほかに発表していない独立系のディベロッパーだが、『Only Up!』では、ジャンルの前例たちとは一線を画した3Dの美しいグラフィックを見せてくれている。対応プラットフォームはPC(Steam)のみ。価格は1,490円(税込)となっている。Steamでは2023年7月14日まで、30%オフの1,043円で購入できるプロモーションキャンペーンを実施中だ。

※フランスで生まれたスポーツの一種。街や森などで自由にスタートとゴールを設定し、走る・跳ぶ・登るなどのアクションを通じて心身の鍛錬をおこなう。

「壺おじさん」から続くイライラ系アクションの文脈。確立の背景にあった実況・配信文化の存在

 この手の性質を持つゲームは俗に、「イライラ系アクション」と呼ばれている。「知識の不足、集中力・判断力の欠如などから平凡なミスを繰り返し、何度もおなじ場所を行ったり来たりすることで、例外なくすべてのプレイヤーが“イライラ”を募らせていく」というインプレッションからつけられた呼称だ。分類されるタイトルたちは、オープンワールドやローグライク、ハックアンドスラッシュなど、近年トレンド化の気配を見せるサブジャンルたちとは異なり、総じてシンプルなつくりを持つ。そのため、遊び手側の技術レベルが問題となりにくく、精神的な部分がクローズアップされやすい特徴がある。

 同分野は、先にも述べた『Getting Over It with Bennett Foddy』のリリースと流行をきっかけに確立された。以降は、定期的に界隈を賑わすタイトルたちが登場。『Jump King』や『Pogostuck: Rage With Your Friends』などはその一例だ。前者は2020年前後に、後者は2023年春ごろに注目を集め、Steamの同時接続数が急増するなどした。

Getting Over It with Bennett Foddy Trailer

 こうしたイライラ系アクションの台頭と切っても切り離せない関係にあるのが、ゲームの実況・配信文化である。そこにはストリーマーとオーディエンスのあいだにある、特異な結びつきが見え隠れする。挑戦を応援する者、苦しみに共感する者、落下したときの反応を見て笑う者、なかには失敗を親しみを込めて嘲笑する者もいる。ホストにとっては、それらのタイトルがトレンドとなっている事情もあり、ひとつの企画として一定の視聴者数・視聴数を見込める一方で、ゲストにとっては、ホストとの関係性も含め、思い思いの形で楽しめるコンテンツとなりやすい実情がある。過去には2BRO.・弟者や加藤純一、関優太(StylishNoob)、花江夏樹といった著名なストリーマーたちが各タイトルに挑戦した。

 このようなバックグラウンドから、『Getting Over It with Bennett Foddy』『Jump King』『Pogostuck: Rage With Your Friends』は話題を集めてきた。『Only Up!』もまた、偉大な先達たちに続く気配を見せている現状だ。

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