自宅のオーディオ環境をグレードアップしたいなら、トレンド急上昇中の「据置型DAP」を試してみては?

野村ケンジの注目オーディオ

 6月の梅雨時期は外出を控えがちな“お籠もり”シーズンを送っている人も多いだろう。そうなってくると自宅の環境が気になってくるところ。オーディオもしかり。これを機に最新の機器を導入し、便利で楽しいオーディオ環境へとアップグレードしてみるのはいかがだろうか。

 自宅のオーディオといえばテレビ周り、リビングなどの“家族で楽しめる”AVシステムがいちばんの花形だが、今回は、音も便利さも進化が著しいデスクトップ周りのグレードアップに関して、紹介していこうと思う。

 最近、デスクトップオーディオがちょっとした盛り上がりを見せている。実は10年くらい前から様々なカタチで話題に挙がってきた“デスクトップオーディオ”だが、注目はされど実践するユーザーはさほど増えず、話題先行型のジャンルとなってしまっていた。その原因は色々あると思うが、いちばんの弱点になってしまっていたのが“パソコンに精通している人でないと扱いにくい”ことだろう。

 パソコンを使った音楽製作環境であるDTM(デスクトップミュージック)をベースとして始まったデスクトップオーディオは、ハードウェアだけでなくソフトウェアにもある程度精通していなければならず(機器によっては別途ドライバーのインストールが必要だったりする)、良音質で楽しむためには様々なノウハウが必要となってしまっていた。特にハイレゾ音源の再生に関しては、パソコンとオーディオ機器の両方に精通した知識が必要となっている。それにも増して、音楽を聴くたびにパソコンを起動しなければならない、ということ自体が普通の人にとってハードルの高さになっていたようにも思う。

 そんな、いっさいの“面倒くささ”を排除できる画期的なデスクトップ環境が昨年ぐらいから徐々に浸透し始めている。それが「据置型DAP」という新コンセプトの製品を活用したシステムだ。

 これまでも、高級DAPをデスクトップ用プレーヤーとして活用するニーズはあった。実際、Astell&Kern『KANN CUBE』やFiiO『M17』などは、据え置きメインで“外にも持ち運べる”DAPというユニーク(本来の使い方と逆転している!?)な製品となっている。そんな状況のなか、据置がメインという画期的なDAPも登場、それがソニー『DMP-Z1』(既に発売終了)だ。こちらは「ウォークマン」のシステムをベースに、音質最優先の据置型筐体を作り上げたもので、発売当初は大いに話題を集めた製品だった。とはいえ、100万円前後のプライスタグが付けられていたことなどから、普及モデルとはなり得なかった。

 据置型DAPというジャンルが大いに注目を浴びるきっかけとなったのは、やはりFiio『R7』の登場だろう。Android OSを搭載、ヘッドホンはもとよりライン出力など様々な入出力を用意、パワードスピーカー(アンプ内蔵のスピーカー)を組み合わせるだけでスマートにデスクトップオーディオシステムが構築可能。さらに、単体DAPとしてだけでなくアップルミュージックなどのストリーミングサービスも楽しめ、パソコン用のUSB DACとしても使うことができる“何でもあり”の多機能製品となっているのだ。なによりも、いちいちパソコンを起動しなくてよいことが、多くの人にとって欠かせないメリットとなっている。

 こういった据置型DAPの登場によって、デスクトップオーディオ環境は大きく変わりつつある。必要な製品は据置型DAPとパワードスピーカーのみ。それでいて、ハイレゾ音源もストリーミングサービスも、スマホからの再生も、ややこしい設定なく気軽に楽しめる。もちろん、パソコンを使えば映像コンテンツも。据置型DAPは、デスクトップオーディオをあらゆる縛りから解放してくれる、全ての人にオススメしたい製品だ。

Fiio『R7』 据置型DAPという存在を世に知らしめた逸品

 Android OSを搭載するデスクトップ向けオーディオプレーヤー。幅110×奥行き134×高さ160mmという正面幅狭めの縦長ボディにより、占有面積を最小限に抑えつつも倒れにくい、絶妙なサイズに纏め上げられている。また、本体下部(デスクとの間)に置くスペーサーは平衡タイプに加えて傾斜付のものの2タイプが同梱され、デスクの高さや好みに合わせてR7本体に角度を付けることも可能となっている。フロントには約5インチ、解像度1,280×720のタッチパネルが付属。Android 10の採用と合わせて、直感的な操作がおこなえるようになっている。

 さらに、フロント側には電源スイッチを兼ねた音量ダイヤルと出力セレクターダイヤルも用意されている。ちなみに、入力セレクトはタッチパネルからおこなう。ヘッドホン出力は、XLR4pinバランスと4.4mm5極バランス、6.35mmアンバランスの3系統がレイアウトされている。

 リアパネルの入出力端子も豊富だ。DAPとして活用するためのSDカードスロットに加え、USB接続端子、同軸/光デジタル入出力端子、LAN端子を用意。出力は2つのRCA出力に加えて、XLR3pin×2のバランス出力も用意。小型モニタースピーカーなどと接続することも可能だ。また、電源入力は一般的なAC電源に加えてDC12Vも使用可能となっていて、環境や好みに応じて使い分けることができる(本体にはAC電源ケーブルのみ付属)。
 無線系では、Wi-Fiに加えてBluetoothも搭載。スマートフォンと接続して音楽再生できる(レシーバー機能)ほか、TWSとワイヤレス接続してR7から送信した音楽を楽しむこともできる。コーデックは送信時でaptX HDやLDAC、LHDCに対応する。

◎深掘りポイント

 サイズ、デザイン、操作系、多機能さなど、あらゆる角度から上出来で“完璧”と言いたくなるくらい完成度の高い製品。Android 10を採用することで操作感もスマートフォンとまったく変わらず、多くの人が違和感なく使いこなすことができる。それでいて、パソコンからスマートフォン、ハイレゾ音源からストリーミングサービス、有線もワイヤレスもシームレスに楽しめる多機能さを持ち合わせている。据置型DAPという表現に留まらない、デスク向けマルチメディアセンターと呼びたくなるほどに多機能だ。それで使い勝手は抜群によいのだから、ヒット作になるのは当然の結果だろう。

 唯一、オーディオに詳しい人が不満に感じそうなのはヘッドホンアンプ部の実力だ。鳴りにくい高級ヘッドホンなどは音量こそ十分に確保できているものの、質の面でいまひとつのマッチングとなる。しかし、それは贅沢な話で、それらのヘッドホンがきちんと鳴らしきるためにはR7の3倍や5倍ものプライスタグが付けられた高級ヘッドホンアンプが必要となる。一般的なイヤホンやヘッドホンは充分にマッチしてくれるので、この価格帯のヘッドホンアンプとしては優秀、充分に満足のいくクオリティといえる。

 なお、外部DACへの接続や外部ディスプレイに接続できるDisplayPort Alt Modeにも対応しているなど、拡張性の高さも素晴らしい。

Astell&Kern『CA1000T』 バッテリー内蔵でデスクトップの世界が広がる!

 ハイレゾ対応DAPを一躍メジャーな存在へと知らしめる原動力となったブランド、Astell&Kernの据置型DAP。同ブランドが“キャリアブルヘッドホンアンプ”と呼ぶこちらの製品、まるで卓上高級時計然としたスマートなデザインでありながらも、高い駆動力をもつヘッドホン出力を持ち合わせているのが特徴だ。

 先代に当たる『CA1000』からは外観こそほとんど変わらないが、DACやヘッドホンアンプ部など、音質に関わる部分の変更が行われている。まず、DACはESS社製の8ch DACチップ「ES9039MPRO」×2基のデュアル構成に変更(「CA1000」は2ch DAC「ES9068AS」の4基構成)され、更なる低ノイズを追求。また、ヘッドホンアンプ部は楽曲の傾向や好みに合わせて「OP-AMP(オペアンプ)」「TUBE-AMP(真空管アンプ)」「HYBRID-AMP(ハイブリッドアンプ)」の3モードが切替できる「トリプルアンプシステム」を搭載している。

 なお、単体プレーヤーとしての活用に加え、USB DACモードや同軸/光デジタル入力、さらに4.4mmバランス入力が用意され、出力はRCAに加えてminiXLRバランスも用意。プリアンプとしても活用できる、自由度の高いシステムプランを実現している。なお、ヘッドホン出力は6.35mmと3.5mmのアンバランス、4.4mmと2.5mmのバランスの4系統が備わっている。

 もうひとつ、『CA1000T』ならではの特徴といえるのがバッテリーを搭載していることだ。約10000mAhのリチウムポリマーバッテリーを内蔵することで、11時間 (アンバランスOP-AMPモード低ゲイン)程度の再生が可能となっている。

◎深掘りポイント

 据置型DAPと言い切るにはもったいないと思える程のスマートなボディデザインによって、持ち運びは至って容易。4.1インチのタッチパネル部が立ち上がってくれるため、置いた状態での操作感もよい。ユーザビリティと操作性の両面から、よく考えられた製品だということが分かる。

 しかしながら、『CA1000T』にとって大きなアドバンテージとなっているのが、モードを切り替えられるヘッドホンアンプ部と、バッテリー内蔵による持ち運びのしやすさだ。実際、筆者としてはイベント会場などで初見のイヤホン・ヘッドホンを試聴する場合など大いに役立ってくれた。大なり小なり好み次第という部分もあるが、イヤホン・ヘッドホンは想像以上にアンプとの相性の良し悪しが生じやすく、短時間の試聴ではベストな状態までたどり着けなかったりする。

 その点『CA1000T』は3つのモードと4段階のゲインが試せるうえ、据置型といえるくらい出力の高さと質のよさを持つヘッドホンアンプを苦労なく持ち運びすることができる。しかも、電源タップの有無を気にすることなく試聴できるのはありがたい。普段はデスクで音楽を楽しむが、時々持ち運びたい、という人にはピッタリの製品だ。

Linkplayの「WiiM Pro」
スマホからアプリで簡単操作できるネットワークプレーヤーの革命児

 ヘッドホンアンプは別に用意するので必要なし、また聴くのはストリーミングサービスが中心、という人にはLinkplayの『WiiM Pro』を紹介しよう。こちらの製品、メーカーがネットワークストリーマーと呼ぶいわゆる“ネットワークプレーヤー”で、既存製品と異なり、スマートフォンアプリから操作がおこなえるため、パソコンを使わず活用できる。

◎深掘りポイント

 さらに、アプリがよくできていて、手軽に音楽再生をおこなうことが可能。ネットワークプレーヤー製品はRoon(楽曲管理&再生PCソフト)などを活用することで随分と扱いやすくなったが、相変わらずパソコンが必要なこと、Roon自体が高額なソフトであることなどから、敷居が完全に取り払われたとはいえなかった。その点「WiiM Pro」は、扱い易く、コスト的にも手が届きやすい製品となっている。ネットワークプレーヤーを活用したデスクトップオーディオを始めたい、という人にはオススメな製品だ。

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