日本と中国で根本から違う「ゲーム作り」の考え方  『原神』『崩壊』で約5400億円の売上を叩き出したmiHoYoの快進撃から読み解く

 6月9日、ひとつの投稿がRedditを賑わせていた。中国の総合日刊紙「光明日報」が、2022年におけるmiHoYoの財務状況(売り上げ・純利益など)を明かし、その成長ぶりが話題となったのだ。

 同誌が報じたところによれば、同社の売上高は273億4000万元(6月15日のレートで約5400億円)、純利益は161億4500万元(約3200億円)と、驚異的な数字を示している。純利益では、『Apex Legends』や『EA Sports』ブランドなどで知られるElectronic Arts、『Call of Duty』シリーズや『Overwatch 2』などを開発するActivision Blizzardを上回っており、わずか数年の間に同社が世界的なゲームメイカーへと成長したことが分かる。

 リリースから2年が経過した『原神』は、いまもなお間欠的にアプリのセールスランキング1位の座に名を輝かせ、今年4月26日に配信がスタートした『崩壊:スターレイル』は10日間でグローバル収益1億ドル(約140億円)を達成した。どうmiHoYoに不利な見方をしても、今年度も確実に堅調な売上と利益を記録するだろう。

『崩壊:スターレイル』オープニング――「星間旅行」

 アプリのセールスランキングに名前が載っているのだから、比較対象は同じくそこに名を連ねている作品であるべきなのだが、本稿ではそれを基準に考えることに対して提言を試みたい。ひとくちに「スマホゲー」と言っても、そこにある体験は千差万別である。したがって、そこに当てはめて考えることによって解像度が下がる作品もあるはずだ。

 筆者は『原神』や『崩壊』シリーズがそれに当たると考えている。中国出身の友人(日本のゲーム会社に務めているアラサー世代)いわく、「日本と中国におけるゲーム作りは根本から考え方が違う」という。多くの場合、日本のゲームメイカーは「スマホゲーム」として制作する場合、明確にスマホ用として開発する。一方、中国のゲームデザインは、先にゲームの体験や内容から考えるという。そこにコンシューマかスマホかといった区別はなく、それゆえにマルチプラットフォームであることが求められるのだと。これについては『崩壊3rd』がリリースされる前、2015年4月の週刊アスキーにおいて、アジアのアプリ市場に詳しいアドイノベーションの石森博光が同国の政治的な事情も絡めて指摘している。

 2000年以降、青少年に悪影響を与えるとして、コンシューマゲーム機の販売が中国政府によって原則禁止にされました。2013年の秋に、ようやく上海の経済特区に進出した企業に限って、ゲーム機の製造と販売を解禁しています。この歴史から、コンシューマゲーム機は中国でほとんど普及が進まず、ゲームに初めて触れるのはスマートフォンです……という人が非常に多いです。現地の中国人に何人か聞いたところ「スマホをゲーム機ととらえて楽しんでいる」と言っていました。

(引用:「ここが日本と違ってる 中国ゲームユーザーの傾向と対策 ~成功の鍵を握るのは2億人のオタク層か~」)

 先の友人の話を続けると、彼ら/彼女ら世代のゲーム開発者がルーツとしているのは、軒並み日本の「ACG(アニメ・コミック・ゲーム)」だという。ジブリに親しみ、ナルトに感動し、そして新世紀エヴァンゲリオンに耽溺してきた。miHoYoの創業者チームが、エヴァを重要なインスピレーション源としているのは有名な話である。
(出典:「世界を救う技術オタクが見た日本と中国のゲームアプリ市場 ~中国発『崩壊学園』運営miHoYoインタビュー~」)

 我々ユーザーの体験ベースで考えても、miHoYoのゲームはスマホに最適化されたものではないように感じられる。たとえば、『原神』。同作のグラフィックやフレームレートは、ゲーミングPCやPS5(PS4)にこそ準拠している。PCやPSで遊んでいるプレイヤーの皆さんには、初めて「璃月(リーユエ)」に足を踏み入れた時のことを思い出してほしい。

 中国の山間地域をモデルにしたと思われる険しい山々を超え、眼下に広がる大港町を目にした瞬間。我々は「生活」を感じ、画面から風が吹いてきたと錯覚すらする。同作にはゲームの中に時間の概念があり、昼と夜が鮮やかなグラデーションをともなって切り替わる。筆者のときは「原神時間」の夜に璃月に到着した。ぼんやりとした街のあかりに、抗いがたい郷愁をあおられる。そこらを歩くモブキャラクターにすら親しみを覚え、会話コマンドが表示されるキャラクターには誰彼構わず話しかけた。その感動の質は、我々がコンシューマゲームで感じてきたものに限りなく近いのではなかろうか。

【原神】華舞う夜の旋律ストーリームービー「虹歌灯宴」

 『崩壊:スターレイル』にいたっては、個人的に「アニメをプレイしている」感覚に近いものを覚える。それは開発側でも前提として計画されており、同作のプロデューサーを務めるDavid Jiangは、アトラスの橋野桂との対談の中でこう話した。

「『崩壊:スターレイル』にはもうひとつの大きなコンセプトがあります。それが「ゲームとしてプレイすることができる、連続アニメ作品」というものです。」

(引用:ターン制RPGが世界中で愛される理由とは─アトラス橋野桂氏と『崩壊:スターレイル』プロデューサーが語る、「人生すら変えるRPGの力」

 「『崩壊:スターレイル』には~」と書かれているが、恐らく『崩壊3rd』の制作段階でも同じコンセプトが生まれていたと筆者は推察している。というのも、アニメ的なベクトルで最初に同社が成功体験を得たのは『崩壊3rd』だからだ。今年の3月にYouTube上で公開されたドキュメンタリーによると、同作のアクティブユーザー数は、リリースから2年後の春節(2018年2月)の段階でローンチ直後の半分まで落ち込んでいたという。その状況を救ったのが、バージョン2.5(2018年7月)で実装された「空の律者」と、それに付随するショートアニメだ。

崩壊3rd公式PV ver.2.5「女王降臨」

 『崩壊3rd』が中国エリアのApp Storeで初めて1位を獲得したのが、実はこの時である。重厚で複雑なストーリーが展開され、それが多くの人を魅了した瞬間だった。が、当時の最高潮は、この直後に待っていた。

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