連載:作り方の作り方(第二回)

「お金がないことは死に値しない」 放送作家・白武ときお×『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』など手掛けた上出遼平が語る“テレビ業界への反発心”

週に1冊、文庫本を買えるお金さえあれば充分

白武:上出さんが「今後(自分が)こうなったら最高」と思うビジョンはありますか?

上出:多くの人に観てもらえるものを作るっていうのは、もちろん魅力的だよね。作って、人に観てもらって、それが世界にとって良いことだったなと思えることが僕にとって重要かな。

白武:いいですね。

上出:なんか、それを観ることによって人の中で暴力性や差別意識が高まるようなものが人気を博すこともあるじゃない。人間って残酷だしグロテスクな存在だから、そういうものって数字になりやすいからさ。それとは逆のことをやりたいよね。

 何かを作って世に出す人間としては、あまり明らかにされていないことや知ってほしいことを伝えたり、観たことによって本当に世界が広がったなとか思ってもらえるものを作れたりすることが嬉しいし。

白武:ぼくは自分が見たいと思えるようなものを作りたいと思うので、本当に全然違う。他人や社会に対してのことをあまり考えてない。ソーシャルグッド的な目線も取り入れたい……。

上出:それだけじゃなくて、とにかく僕は旅が好きなの。自分が旅をしたいし、観る人を旅に連れて行きたい思いが大きいから。いろんな事情があって家から出られない状況の人って、世の中にいっぱいいるじゃない。そういう人が僕が作ったものを観たり聴いたり読んだりして、遠くへ旅したような気持ちになれたら最高よ。で、そのために自分が旅しながらそういうものを作れたら、もう、死んでもいいかなって感じ。

白武:僕は上出さんみたいな人がいるからずっと家にいられるんですよね。リビングにいたら世界中の面白い映像を見せてもらえる。

上出:だから僕はときおくんのために旅をするよ。ときおくんは最近何やってるの?

白武:最近でいうと、ホラー・スリラーの制作チームを作ろうと考えていますね。海外の人でも楽しめる、日本人だからできるジョーダン・ピールやA24みたいに格好いい作品を出せたらなと。

上出:それはまた大きな話だね。

白武:ホラー・スリラーが好きで、低予算からスマッシュヒットが出やすいジャンルだし、笑いは難しいけど恐怖だったらもしかしたら海外の人でも楽しめる作品をつくれるかもしれないので挑戦したいなと。ただ、ヒリヒリする現場かっていうとそうではないですね。面倒なことや勉強しないといけないことはたくさんあるけど、安全圏からの最高傑作を出そうという感じですね。

上出:全然安全じゃないでしょ。命の危険とかではないけど、お金のリスクとかね。それ、じゃあ……乗っかるわ。

白武:ありがとうございます。

上出:海外に売りたいんでしょ? じゃあもう、ニューヨークです。ニューヨークで流行ったら世界で流行るって言われてるし。

白武:まずは短編作品を作って、これはいけそうってものを2時間とか長い作品にしていきたいので、これぞってときにぜひ監督をお願いします。

上出:監督は無理。

白武:いいの考えます。僕はお笑いも好きですけど、映画も好きなんで、後半の人生はお笑いはお笑いで一生懸命頑張りつつ映画もやりたいので、自分が映画で楽しませてもらった分、同じような人に観たいと思ってもらえるものを作りたいですね。

上出:なるほどね。ワクワクするね。

白武:もう少し走り始めたらワクワクすると思うんですけど、ニューヨークに移住するほど大きな変化ではないので、安全圏にいるなあと。

上出:ニューヨークに行くことは別に全然正解じゃないよ?

白武:「俺はやるんだ!」みたいな気合いを入れて始めるというよりは、僕はもうできそうなことを積み上げて気づいたら塔の上にいるみたいなのがいいんですけど、どこかに上陸して……みたいなことの潔さをカッコいいなと思うんですよ。

上出:僕はシンプルにアホなのよ。だってニューヨークへ行くことでかかる莫大なお金をさ、行かずに作品の制作費に直接使ったほうがよっぽど賢いケースもあるわけで。

白武:まあ、めっちゃアホですよね。

上出:しょうがないのよ、脳みその限界があるからさ。世の中、「死に相応しい失敗」っていうのがいっぱい起こり得ると思うんだけど、我が夫婦にとってはそれが死に直結しないんだよね。

 たとえば、本当にお金がまったくなくなったとしても、それは死に値しない。僕らの価値観においては、周りに誰もいなくなっても、そっぽ向かれても、この世の中に何かできる仕事はあるわけだから、生きていけると思える。週に1冊、文庫本を買えるお金さえあれば充分楽しいわけ。

白武:憧れますね。その通りでございます。

上出:なんか宗教の勧誘みたいになっちゃったな。

白武:ニューヨーク行く前に今日お話できて本当良かったです。僕の人生のベクトルが確実に変わりました。ありがとうございました! 次会うときはニューヨークで!

上出:本当に来てよ(笑)。ご飯奢ってね。

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