現実から仮想まで。建築家・水谷元と巡る建築探訪記 第2回

『ドラゴンクエストX』好きの建築家が「レーンの村」の集落と建築について本気で考察してみた

 現実、仮想を問わず建造物という存在は空間を構成する大きな要素となっている。例えば現実における「駅」や「ビル」はランドマークともなり、そこを起点とした人々の営みなども生じ、都市空間を彩ってくれる。ゲームやアニメ、映画でも建築物がストーリーを語る上で、あるいはプレイヤーが没入するのになくてはならない要素となる。現役建築家が現実、仮想の建造物や都市空間について語っていこう。

 前回は五種族の中の「プクリポ」が暮らす「プクランド大陸」に位置する「オルフェアの町」をご紹介をしたが、今回は「ウェディ」の「レーンの村」をご紹介する。レーンの村は、主人公の転生種族としてウェディを選択した場合に冒険が始まる最初の村である。レーンの村があるのはウェディたちが暮らす「ウェナ諸島」に位置しており、諸島全体は南国のイメージで統一されている。

 レーンの村は西側の海に面し、東側は谷に囲まれた小さな村である。なぜ、このような場所に村を構えているのかはゲーム中で言及されないが、フィールドにはモンスターが徘徊しているため、海と谷からしか侵入できないこの場所は天然の城砦としてうってつけに思える。安住の地として先代の村人たちはここを選択したのかもしれない。海に囲まれた場所だが、生活用水に使えるのだろうか、北側には水源地のようなものがある。

 道具屋・武器屋・防具屋が店を構えるマーケットが村の中心に位置し、各施設や住宅はそれを囲むように同心円状に配置されており、利便性の高い配置である。

 転生種族としてウェディを選択した場合、主人公は孤児として物語がスタートする。孤児院はこの村のもっとも高台に位置しており、その配置から村の人々が子供たちを大切にしていることがわかる。村長の家は東側の谷のふもとに位置しており、村全体を見渡せる。

 レーンの村の集落を見て建築家として最も特徴的と感じたのは、地上に建つ建物と海上に建つ建物(土台より上)が同じ工法で建てられていることである。海上では土台より下は木製の支柱で支えられているが、床より上は地上に建てられている建物と同じ作りになっており、工法としてシステム化されていることがうかがえる。現実世界の東南アジアや太平洋の南国諸島の伝統的な集落は雨季が長く、湿気に対応するために地上の建物は高床式になっていることが多い。ただ、現実面でみるとレーンの村の集落は地面に直接床が張ってあるように見えるので少し心配になった。ウェディは「水の民」なので湿度には強そうだが、生活必需品や食料の保管は大丈夫だろうか……。もしかすると床板の下には彼ら独自の防湿処理が成されているのかもしれない。

 また、タヒチのボラボラ島のリゾートを思わせる海側の教会を含めた3棟は、ゲーム内では満潮時なのか床下ギリギリまで潮が満ちており、浸水が少々心配になる。これ以上に潮が満ちないことを祈る。

 屋根は木造で、おそらくこの地方で自生しているヤシ科の植物の葉を葺いた上にテントを被せているようだ。木軸の接合部はロープで巻いたシンプルな構造となっている。

 軒裏と高さのある屋根の一部はヤシ科の植物の葉の屋根材が露出している。風を内部に取り入れたり、内部の湿気を外に逃す工夫がされており、湿度の高いこの地方で快適に暮らす工夫かもしれない。

 海と生活が密接にあるだけに家具の取手や燭台には珊瑚や貝が用いられている。インテリアには渦潮や波のモチーフが意匠に用いられており、水の民のアイデンティが感じられる。

 改めてレーンの村の集落を観察して気付いたことが、屋根を支えている柱が石柱だったこと。もしかすると、この地方で取れる砂やセメントを用いたコンクリート製なのかもしれない。古代ローマの建築に用いられているローマン・コンクリートはナポリ周辺の火山灰を主成分としているが、ウェナ諸島に火山は無かった。ただし、鉄筋コンクリートと異なって、鉄筋が使用されていないローマン・コンクリートは鉄筋が錆びることがないため、塩害に強く、気候風土地理的条件の理にかなっている。もっとも驚いたのは海面に建てられている家屋や施設などにも石柱が用いられていること……あれ? たしか床や建物を支えている海中の支柱や土台は木造だったような……。

 浅瀬にはみなで食事をする場所が設けられている。ゲーム内のイベントではここで祝祭が行われる。海に足をつけながら西側に沈むサンセットを眺めながら、集落に暮らすウェディの民と歓談する光景が目に浮かぶ。

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