『ゼルダの伝説TotK』は、なぜ我々を「嬉しくさせてくれる」のか 物理演算の進化が打ち破った“暗黙の了解”

『ゼルダの伝説TotK』の極めて高い完成度に、著名なゲーム開発者たちも驚愕

画像:「MY Macross Frontier But in Zelda tears of the kingdom1」より

 『ゼルダの伝説TotK』を遊んでいて痛感するのは、すっかり自分が「現代におけるゲームにおける進化≒グラフィックやパフォーマンスの進化」であると思い込むようになってしまっていたということだ。ハイスペックPCやPlayStation 5、Xbox Series Xで遊ぶような、4K/30FPSもしくは1080P/60FPSで動く、圧倒されるようなグラフィックを誇るゲームが「最先端」だと思っていた。もちろん、それは決して間違っているわけではないのだろう。だが、『ゼルダの伝説TotK』が技術的に劣るのかというと、それは違う。本作は、たとえば『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』や『Horizon Forbidden West』のような圧倒的なグラフィックやリッチなアニメーションを誇る作品ではない。だが、これらの作品を超えるほどの「世界に触れる感覚」がそこには詰まっている。それを生み出しているのは、膨大なオブジェクトの制御や環境とのインタラクションに代表される、極めて完成度の高い物理演算だ。

 『ゼルダの伝説TotK』の技術的な完成度については実際のゲーム開発者からも驚きの声が寄せられており、かつてNaughty Dogで『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』や『The Last of Us Part II』に携わったJosh Scherr氏は自身のTwitterに「how in the fuck did you make this(訳:どうやってこんなものを作った)」と投稿し、Alison Lührs氏(『Destiny 2』など)なども同投稿に賛同の声を寄せている。『バットマン アーカム・シティ』などで知られるRocksteady GamesのAadit Doshi氏は同様にTwitterにて「Using physics for game mechanics is pretty common now.(訳:物理演算を取り入れること自体はゲーム開発において極めて一般的なこと)」と前置きしつつ、複数のスレッドにわたってゲームにおける物理演算を丁寧に説明した上で、『ゼルダの伝説TotK』を「push the limits of game physics(訳:ゲームにおける物理演算の限界に挑んでいる)」、「just mind blowing(訳:驚嘆に値する)」と評した。

 「ウルトラハンド」が『Besiege』といったクラフト系のゲームの系譜に位置するものであるように、一つひとつの能力自体は過去のゲームでも見られたものであり、『ゼルダの伝説TotK』が革新的なゲームかというと、断言するのは難しいだろう。だが、本作の凄みはそれらの能力が前述のような高度な物理演算とともに同じゲームの中に複数実装されている上に、そもそものゲーム自体が広大なマップとストーリー進行の自由度を誇っていることにある(さらにいえば、「Nintendo Switch」の携帯モードで動くゲームであることも忘れてはならない)。にも関わらず、本作を遊ぶなかで気が削がれるような場面はほとんどなく、ただただゲームに没頭してしまう。

画像:「Besiege Trailer」より

 考えるだけで気が遠くなるような要素の数々が自然な形で一つの作品へと集約し、これまでに味わったことのないような新鮮な喜びに満ちた『ゼルダの伝説TotK』は、現代のゲームを象徴する様々なAAA作品と同様に膨大な技術とリソースが投入され「現代の限界へと挑んだ結果」として生まれたものであり、これもまたゲームの進化の一つの形なのだ。そして、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を本作が更新したように、きっといつかまた、新鮮な面白さに満ちたもっと凄いゲームが出る。その事実が何より嬉しいのである。

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