Nine Inch NailsやNUMBER GIRLも起用……2023年の注目ゲーム『Hi-Fi RUSH』開発陣が語る「90年~00年代ロックへの深い愛」
「曲がないと攻撃すらできないようになっている」 エンジンレベルからゲームと音楽が直結
――小堀さんや柳さんはこれまでにも数多くのゲームのサウンドトラックを手掛けられてきたと思うのですが、従来の作品と作り方が違う部分というのはあったのでしょうか?
小堀:まずは、楽曲がそのままステージに直結しているということですね。普通の制作だと、既にある程度ゲームが出来上がっているところに曲をつけくわえるということが多かったのですが、今回はまず最初に簡単なヴァースとコーラスを入れたデモを作って、実際にゲームに入れて、さらにアレンジを詰めていくというような形で進めていきました。ゲームの開発と楽曲制作が同時に進行していくので、ゲームに少し変更があったら曲も変える、というような試行錯誤が多かったですね。
柳:私は終盤のステージを中心に、カットシーンやイベント周りの担当をさせていただいたんですが、ライセンス曲とライセンス曲の合間に自分の曲が挟まるというシチュエーションが多かったんですよ。なので、実際にゲームをプレイしているときに、通して聴いても違和感の無いようなサウンドに仕上げることを意識していました。あとは、ゲームの流れを止めずにプレイできることも意識していましたね。
――まさに本作をプレイしていて最も印象的だったことのひとつが、最初から最後までノンストップで“音楽と一体となり続ける気持ち良さ”でした。カットシーンの入り方も本当に自然ですよね。
ジョン:普通はカットシーンが始まったら、一旦ゲームの流れを止めて、シーンを切り替えると思うんですよ。ただ、『Hi-Fi RUSH』は“本当にリズムが止まらない”というコンセプトがあるので、カットシーンに入る時も「この小節の終わりにこの曲が終わって、その次の小節の頭から次の曲が始まる」というようなことを決めて、シーンや楽曲の切り替わりが自然に感じられるようにするという作りは、すごく力を入れた部分です。多分、コンポーザーの皆さんはすごく大変だったと思うんですけど……(笑)。
小堀:僕はゲームサウンドの仕事をかれこれ20年以上やってきたんですが、今までのノウハウが通用しないタイトルではあったなと思いますね。チャレンジングな試みや、初めてやるようなことが多かったです。
ジョン:大体のゲーム楽曲って、開発の最後に入ることが多いんです。ただ『Hi-Fi RUSH』は、背景もすべてリズムに合わせて動きますし、そもそも曲が入らないことにはゲームが成立しないんですね。それはゲームエンジンのレベルからそうなっていて、曲がないと攻撃すらできないようになっているんですよ。曲のデータを入れて、BPMをセットして、それでようやく動くようになるという。
山口:なので、音楽がバグで止まると、ゲーム自体も全部止まってしまうんですよ(笑)。
小堀:そういう意味でも、サウンドを担当する上での緊張感は半端じゃなかったですね。曲に起因してゲームが全部止まるって、コンポーザーとしては悪夢でしかないですから(笑)。
――本作のゲームプレイにおける気持ち良さは、まさにその全てが楽曲やリズムとシンクロしていることにあると思うのですが、この面白さを実現する上で特に力を入れたのはどの部分でしょうか?
ジョン:まずは、プレイヤーの攻撃は必ず“楽曲の拍に合わせて当たる”ということですね。「パンチが曲に合わせて当たるのが気持ち良い」というコンセプトが最初にあって、「それをさらに楽しく感じてもらうにはどうすれば良いだろう?」と考えた時に、そこにメロディ的なものが乗るのが良いんじゃないかいうことで、プレイヤーの動きやリズムに合わせて様々なエフェクト音を鳴らすことにしたんです。
そこからさらに、自分がその曲を作っている感覚、ジャム・セッションのリードを取っているという感じを伝えたかったので、たとえ攻撃が外れたとしても拍に合わせて音が出るようにしたんですよ。「リズム良くプレイしたらもっと楽しい」という仕組みはあるけれど、うまく当たっていなかったとしても気持ちよく感じられるというのが大事で、これは最初のコンセプトからずっとブレずにやっていたと思いますね。
ただ、最初はエフェクト音ならある程度使い回せるかなと思っていたんですけど、各ステージのシチュエーションや楽曲のキーに対して、やっぱりギターの歪みやエフェクトをちゃんと作り込まないと曲の一部として感じられない、すごくチープに聞こえてしまうということが多くて。結局、すべての曲に対してオリジナルのアセットを作ることになりましたね。細かい部分まで凝って作っていたので、とんでもない作業量になりましたが、苦労の甲斐はあったんじゃないかと思っています。
小堀:今日は事情があって参加できていないのですが、もう一人、裏谷(玲央)さんという外部の方も参加していて、ベースとなる部分は我々が作ったんですが、裏谷さんにはそれを膨らませていただきました。本当にたくさんのアセットを作っていただいたので、それが結果的に気持ちよさに繋がったんじゃないかなと思っていますね。だから、裏谷さんにはすごく感謝しています。
――『Hi-Fi RUSH』において欠かすことができないのが、主人公のチャイをサポートしてくれる猫のヤオヤ(808)です。これは名機として名高いリズムマシンのRoland『TR-808』(通称、「ヤオヤ」)がモチーフですよね。可愛いだけではなく、その名前からも音楽に対するリスペクトを強く感じたのですが、このキャラクターはどのようにして生まれたのでしょうか?
ジョン:まず、僕のゲームの中には必ず黒猫を入れないといけないという決まりがあるんです(笑)。それでプレイ中にリズムを示すキャラクターはいないといけないよねということで、最初にあのデザインが仕上がっていきました。で、誰が言い出したのかは定かではないのですが、「ヤオヤ」が良いんじゃないかという話が出てきて。
(元になった)『TR-808』ってヒップホップとかで使われていることが多くて、あまりロックのイメージは無いかもしれないですけど、リズムを刻む代表的な存在としてはすごく分かりやすいんじゃないかなと。何より「ヤオヤ」という言葉の響きが可愛いと思ったんですよね。(周りを向いて)「ヤオヤ」って可愛いですよね?
小堀:可愛いんじゃないですか?(笑)
柳:可愛いと思いますよ。
――可愛いと思います(笑)。
ジョン:でも、最初は半分くらいのスタッフが「エイト・オー・エイト」って呼んでたんですよ。「ヤオヤ」って言ったら「八百屋?野菜売るんですか?」って反応で(笑)。
小堀:『TR-808』のことを「ヤオヤ」と呼ぶことを知らない人ももちろんいますからね。
山口:最終的に、チームで「ハチ・マル・ハチ(エイト・オー・エイト)にするか「ヤオヤ」にするかでアンケートを取ったんですよ。そうしたらギリギリ「ヤオヤ」の方が多かったので、採用されました(笑)。
――良かったです(笑)。また、現実にある音楽機材でいえば、「フライングV」を筆頭にチャイが武器として使うギターについては、全てGibsonの公式ライセンスを取得していることに驚かされました。
ジョン:フライングVについては開発の初期段階から、武器として分かりやすいなと思ってイメージとして使っていたんですよね。でも、ちゃんと使うんだったら権利を取った方が良いという話になって。そうしたらGibson側から「他のモデルも使っていいですよ」と言ってくださったんです。「じゃあ『SG』とか『ES-335』とかも使っちゃおう!」と(笑)。
――では、このギターの選定も皆さんがされたんですね。
ジョン:そうですね。まずは形から選びました。やっぱり、フライングVってそれで殴られたら一番痛そうな形をしているじゃないですか(笑)。なので、そういう視点も交えつつ、OKが出たラインナップの中から合いそうなものを選んでいきました。逆に、たとえば「レスポール」は有名なギターですが、ゲームとは合わなさそうな印象があったので今回は使わない、というようなこともありました。
――最後に、『Hi-Fi RUSH』の成功は今後のTango Gameworksへの期待を更に高めるものになったと思うのですが、本作の制作を経ての、今後の展望について教えてください。
ジョン:Tango Gameworksはこれまでホラーゲームの印象がすごく強くて、「これしか作れないんじゃないか」というイメージが出来上がってしまっていたと思います。ですが、『Hi-Fi RUSH』ではベクトルが違うどころか、もう180度真逆といってもいいくらい、完全にこれまでと違うものを作れました。しかも、実験的な作品という位置づけではなく、スタッフもすごく力を入れて開発に参加してくれて、ユーザーに対しても新しい体験を提供できたと思うんですよね。だから、(Tango Gameworksが)頑張ってやれば、きっと何でも作ることができるんじゃないかなという気持ちがいま、すごくあります。チームのみんなは高い能力がありますし、これからの作品にも純粋に期待してほしいですね。
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