『PlayStation VR2』はVR業界が渇望する"ブレイクスルー"の引き金たりうるか? デバイスとソフトの両面に触れて考える
いまや「初代」となった『PlayStation VR』が発売された2016年は、「VR元年」という言葉が流行するなど、VR自体が一つの話題性を持って語られていた時代だった。だが、あれから約7年が経った現在、VRを巡る状況は必ずしも明るいわけではない。もちろん、VRが当時よりも人々の生活により浸透しているのはたしかだ。「VARK」といったサービスを活用してのバーチャルライブは珍しいものではなくなり、『VRChat』で第二の生活を満喫しているという人も少なくない。
「メタバース」はある種のバズワードとなり、多くの企業がこの分野を狙って様々な試行錯誤を続けている。とはいえ、現実としてはこれらのトピックを自分ごとのように思えないという人の方が遥かに多いのではないだろうか。
原因は色々あるだろうが、結局のところは「敷居の高さ」、言い換えると「お金を払う価値があると感じづらい」というのが大きいだろう。当時からVRに触れていた筆者としてもその敷居は確かに感じるもので、それは具体的に言えば、「長い時間、数百グラムのゴーグルを頭部に着用する疲労感」、「知覚の不一致によるVR酔い」、「狭い部屋では楽しみづらい空間的制約」、「家庭用ゲーム機よりも高価な値段設定」、「セットアップの煩雑さ」、そして「それらのデメリットを超えられるほどのキラーコンテンツの不足」である。
近年のVRシーンにおける代表的な存在は、Meta社とValve社だろうが、ともにこれらの懸念点と向き合った結果、Meta社は低価格かつスタンドアローン型の「Quest」シリーズで導入の敷居を下げ、Valve社はPCゲーマーにターゲットを絞った高性能な「Valve Index」で圧倒的な体験価値を提供することに狙いを定めた。前者が『バイオハザード 4』、後者が『Half-Life: Alyx』をキラーコンテンツとして用意していたのも象徴的である。
2月22日に発売された、『PlayStation VR』の後継機となる『PlayStation VR2』に求められているのは、これらの懸念点を超え、新たなVRデバイスとしての基準を打ち立てることにあるだろう。本稿では、デバイス面と、現状発売されているソフトの両面から、『PlayStation VR2』がどのように懸念点と向き合ったのかを見ていきたい。
デバイスとしての『PlayStation VR2』:バランスの良い装着感と、没入感を削がないゴーグル構造
VRデバイスにおいてなによりも重要なのは、長時間の装着に耐えうるものになっているかどうかという点だ。『PlayStation VR2(以下、PSVR2)』の重量は560gと、初代『PlayStation VR(以下、初代PSVR)』の600gや初代『Oculus Quest』の571gよりは若干軽く、『Meta Quest 2』の501gよりは重いという位置付けだが、実際に装着した感覚としては、これらのデバイスよりも快適かつ、疲労を感じるまでの時間が長くなった印象を受けた。
その要因としては、「Quest」シリーズがデバイス自体をバンドで後頭部に巻き付けて固定する「前後締め付け」型であるのに対して、『PSVR2』の場合は、デバイスのついたリングを頭に乗せた上で後頭部から更に固定するという「乗せ+支え」型であることが幸いしているのだろう。この構造自体は初代『PSVR』から受け継いでいるものだが、軽量化やサイズの調整によって、格段に快適さが向上した印象だ。
筆者個人として最も気に入ったのは、目元を覆うゴーグルのカバー部分の構造である。ほかのVRデバイスの場合はこの部分がしっかりしたパーツとなっており、ユーザーそれぞれの顔や鼻の形に合わせてフィットするような造りにはなっていない。そのため人によっては目元に強い圧迫感を感じたり、鼻のあたりに生じた隙間から見える現実世界の光景によって没入感が大きく削がれることが多かった。しかし、『PSVR2』ではこの部分がシリコン製の蛇腹状のパーツとなっているため伸縮性があり、それぞれのプレイヤーの目元のつくりに合わせてしっかりフィットするようになっている。もちろん、1時間以上装着を続けていれば装着感の良さとは関係なく確実に身体的疲労を感じることになるだろうが、この快適さは(現行のVRデバイスではこれでも安い部類に入ってしまう)価格設定を踏まえると、見事と言っても良いのではないだろうか。
「狭い部屋では楽しみづらい」という空間的制約については、「Quest」シリーズなどのように、ある程度広い空間を想定した「スタンディング」と着席での使用を想定した「シーティング」の2パターンを用意することでクリアしている。もちろん、コンテンツのポテンシャルをフルに活かすためには「スタンディング」でのプレイが前提だろうが、実際に筆者が試したところ、多くのコンテンツは「シーティング」でも問題なく楽しむことが出来た。
『PSVR2』は『PlayStation 5』専用ということもあり、必要な機材が明確であるというのも安心だ。セッティングも基本的に『PlayStation 5』とケーブルで繋いで、説明通りに進めていけば完了できるはずだ。ようやく『PlayStation 5』自体の供給が安定してきたこともあり、導入の敷居については、おそらく現行のVR環境でもかなり低い部類に入るだろう。
ただ、デバイスとしての最大のマイナス点を挙げるのであれば、やはり『PlayStation 5』と『PSVR2』を繋ぐケーブルという存在自体の煩わしさは気になるところだ。初代『PSVR』と比較すれば大幅に改善されたとはいえ、「Quest」シリーズのようなスタンドアローン型が浸透した今となっては「ケーブルがある」という時点で、「煩わしい」という感覚はより一層強くなってしまう。しかも本体側の端子については接続が固定されているため、使わない時は別々に収納することも出来ず、この邪魔くささもなかなかのものだ。とはいえ、実際にソフトをプレイして感じたグラフィックの良さを踏まえると、これはトレードオフの部分となるのだろう。
また、これはほかのデバイスにも共通だが、視野角にゴーグルの縁が入ることによる没入感の減少は『PSVR2』でも大きく変わることはなかった。やはりこれは「VRゴーグル」の構造上仕方がないのだろうか。
ほかのVRデバイスとの比較という視点から見れば気になる点はいくつかあるものの、総じて『PSVR2』は現行のVRデバイスにおける「導入ハードルの高さ」という課題と向き合い、可能な範囲でクリアしているように感じられる。特に『PSVR』から移行するというユーザーであれば、その進化は極めて明確に感じられるはずだ。