「僕たちが作成するのはコンテンツではなく、システムとフォーマット」 KDDIとstuが“エンタメ×テックの最前線”で考えていること

KDDI × stuに聞く“エンタメ×テックの最前線”

「新しいこと自体が価値となる1番の分野はエンターテインメント」(水田)

ーーバーチャルがリアルに近づくことで視聴者のバーチャル体験はどのように変化するのでしょうか?

水田:今回は手が届かなかったところでもありますが、リアル空間をコピーしているという流れ上、リアルとバーチャルをどう繋いでコミュニケーションするかという部分は意識しています。デジタル上に渋谷の街がある、場合によっては同じライブホールがあるといった条件が重なることで、バーチャルにいる人とリアルにいる人が分かれている必然性がどんどんなくなってくると思います。

高尾:リアルからバーチャルへのインタラクションはあると感じていますが、現時点ではまだ薄い印象がありますね。その部分において、今回はバーチャル渋谷のようなものを作り「本当の街がメタバースにある」という点を生かすことでバーチャルがリアルにアプローチできる仕組みを作りましたが、これからもこのことを考えていく必要があると思っています。

古屋:昨今はオンラインとオフラインが分かれているというよりは、その両者が融合してきている印象がありますね。今回はバーチャルライブがある程度目に見える形になりましたが、今後はリアルにいる人とバーチャル経由で参加する人、またリアルにいながらバーチャルにも同時に参加する人が増えていくはず。そして、その魅力はコロナ禍が落ち着きリアルライブが復活していくなかで、おそらく1~2年後に成果として現れると思います。

水田:10年、20年先までを見通して考えると、デジタルとリアルのどちらのコンテンツがオリジナルかという議論自体がなくなっていくでしょうね。現在はまだ両者が別々であるため、あえて「融合する」という言葉を使って話していますが、その時代には融合が当たり前になっているでしょう。

 デジタルの強みは、時間やキャパシティといった物理的な制約を無視できる点にありますが、リアルの強みは物理的に5感を使ったデータ量が多いコミュニケーションにあります。そのため、どちらかに偏ることはなく両方を活かしたエンターテインメントが標準になると思います。ただ、それを最大限に楽しめるのは、おそらく自分たちより若い世代なのだろうと感じます。時代に取り残されずに全ての世代が楽しめる方法を提案できるようにしたいと思います。

古屋:今回の「Boom Boom Back PLAYGROUND remix」は、メタバース体験やオンラインゲームといったデジタルを介した体験に慣れていない人たちに向けて設計することが大きな課題でした。

 BE:FIRSTのファン層は10代だけでなく30代以上の方も多く、デジタルに慣れた人と慣れていない人が共存しています。アンケートでも、バーチャルライブが初めてでオンラインゲームも普段あまりしないとう声がほとんどでした。そういった、参加するハードルが高いと感じる人たちに向けて、バーチャルライブを提案した事例は実はかなり稀有だったりします。

 バーチャルライブを体験したことがない人たちに、いきなりそれを体験してください、というのはなかなかハードルが高いし、しかも待機時間を20分間設ける試みも、バーチャル空間にアクセスするときに大体3分〜5分で離脱する人が多いことを考えると「その時間はなくすべきだ」という意見がチーム内で上がったりしました。しかし、結果として、これまでバーチャル空間に5分も滞在したことがなかった人たちが、その時間に物足りなさすら感じて「もっと長くいたかった!」という意見を数多くくださったことは、革命的な出来事だったと思います。そういったフィードバックを得られたことで、私たち作り手にとっても貴重な機会となりました。

高尾:これまでバーチャルに慣れているユーザーを相手にしてきた僕からすると、そんな時間は必要ないと思っていましたが、ファンが求めているのはそこじゃないことに気が付けました。いきなりバーチャル空間に到達できてしまうからこそ、本物の体験に近づくまでの時間はちゃんと用意しなければいけない。そのことを非常に強く感じましたね。

ーーこれからバーチャルエンターテインメントがさらに発展していくために今後、業界としてどのようなことが求められると思いますか?

古屋:より幅広い人たちにも当たり前に楽しんでもらえるようにするために、今後はクリエイターや開発側がUIやUX設計の視点でバーチャル空間を使いやすく、バリアフリーなものにしていく必要があると思います。

高尾:今回学んだのは、以前はバーチャルをリアルの補完と捉えていたのが、バーチャルが主体になることで“本物がバーチャルにある”と感じられるようになったことで、ここに新しさを感じています。この新しい体験を作り上げることで、バーチャルのライブビューイングといった体験へと昇華させていく方向も十分あり得ると考えています。

水田:持論として、新しいこと自体が価値となる1番の分野はエンターテインメントだと思います。だから技術を使った新しい体験を生むチャレンジは、まずはそこから提供するべきと考えています。

 便利さの向上だけでは、このような取り組みは十分に進まないと思います。エンターテインメント業界の新しいチャレンジが一般の人々にとって新しい体験の利用障壁を下げて、その事例がほかの分野に波及していく役割を担えるのであれば、これもまた、面白いことだと思っています。

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