“クリエイターライク”な姿勢にワクワクが止まらない Valveと争うのではなく、異なるスタンスを示したEpic Gamesに期待すること
すべてのデジタルコンテンツクリエイターが利用できる全く新しいマーケットプレイス「Fab」
Epic Gamesがクリエイターライクな姿勢を示しているのは、Epic Games Storeや、「Unreal Engine」だけではない。同社は『UEFN』の発表を行った「State of Unreal」にて新たなデジタルマーケットプレイス「Fab」を2023年後半にオープンする予定だとも明かした。
Introducing @Fab, a unified marketplace for creators 😎 https://t.co/GdVUSNS6MQ #StateofUnreal #GDC pic.twitter.com/mXaiI8U350
— Unreal Engine (@UnrealEngine) March 22, 2023
この新たなマーケットプレイス「Fab」は、3Dモデル、プラグイン、テンプレート化されたマップ、音声、アニメーションをはじめとするあらゆるデジタルコンテンツやアセットを取りまとめ、自由に販売できるようになるデジタルマーケットだ。スタジオ、チーム、個人、アマチュア、プロ関係なく、制作したさまざまなコンテンツを自由に提供・販売でき、Epic Games Store同様にコンテンツ制作者は88%の収益分配が受けられる。
そして何より「Fab」のすごいところは、Epic Gamesと関係のないコンテンツ・アセットも販売できるということ。これまでもゲーム開発者向けのコンテンツマーケットは存在したものの、それはあくまで「Unity アセットストア」や、「Unreal Engine マーケットプレイス」といった、特定のツールに対応したコンテンツのみを扱うものであった。
今回オープンする「Fab」はその制限を設けず、さまざまなツール・コンテンツを自由に販売することのできるマーケットとしてオープン予定だ。受けの広いマーケットや業界屈指の収益分配率など、これまでのデジタルマーケットとは一線を画した全く新しい試みとなっているのは注目に値する。
このマーケットの発表前から、Epic Gamesはいくつかのデジタルコンテンツ販売サイトを運営する会社を買収してきた。3Dコンテンツ共有サイト「SketchFab」、3Dスキャンデータの収集及び販売を行う「Quixel」、そして海外版Pixivと呼ばれるアーティスト向けSNS「ArtStation」などがそれに当たる。「SketchFab」の買収時、Epicは「3D、AR、VRコンテンツをより利用しやすくし、クリエイターのエコシステムを拡大させることが可能になる」と声明を発表したが、ここまでとは誰も予測できなかっただろう。
このようにEpic Gamesは、同じようにクリエイターを支援する会社とパートナーシップを組むことによって、さらなるデジタルコンテンツマーケットの拡大を推進している。そして自社の利益のみを追求するのではなく、会社、個人、プロ、アマチュアすべてのクリエイターが等しく機会を得られ、収益を生み出せるエコシステムを作り上げることで、今後のデジタルコンテンツ業界が更に発展させる土台づくりに真摯に向き合おうとしているのだ。
クリエイターライクなEpic Gamesと、ユーザーライクなValve 今後のPCゲーム業界の未来は?
近年はただゲームを遊ぶだけでなく、先に述べたようなゲームを作ること・共有することの楽しさを伝えるゲームやサービスが増えている。そうしたゲームやサービス、そしてプラットフォームの充実によってゲームクリエイターへの道がより開かれたものとなっていることは事実だ。
しかし、インディーゲームを遊ぶのが一般的になったことで、膨大な量のゲームがリリースされるなど競合が増え、SNSなどのユーザー評価に“良くも悪くも”大きく左右される現状も存在する。ゲームクリエイターとして独立することが簡単でないこともまた事実だ。
しかし、一連のEpic Gamesの発表からは、クリエイターが利益を生みやすくするだけでなく、クリエイターを育てる土壌までも開拓していこうという気概が感じられる。
これまで、PCゲーム業界のトップランナーとして走ってきたのはSteamとその運営であるValveだ。それはユーザーライクな姿勢が評価されてきたからこそだし、ここまでPCゲームが安心・安全に遊べる環境を作ったのは間違いなくSteamだろう。それに、インディーゲームが流行したのも、Steamという誰でもゲームを販売できる土台があったからこそだ。
しかし、PCゲーム業界が急速に成長を遂げるなかで、クリエイターを支援する環境もなくてならないものだろう。これからはクリエイターライクなEpic GamesとユーザーライクなValve、この2つの異なるスタンスを持つ企業によってPCゲーム業界がさらに発展することは間違いない。
Valveは近年『Valve Index』や、『Steam Deck』のような新たな体験をユーザーに提示し、Epic Gamesとは異なるアプローチでPCゲーム業界の新たな土壌を開拓しようとしている。
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筆者はEpic Games、Valve、どちらかの味方というわけでない。Epic Gamesの『フォートナイト』を現在進行形で全力で楽しんでいるし、Valve開発の『Team Fortress 2』はPCゲームコミュニティに身を置くことの楽しさを教えてくれた大事なゲームだ。そしてなによりも、両社とも面白いゲーム、そしてコミュニティづくりをする企業である。だからこそ、これからのPCゲーム業界のさらなる発展に尽力してくれると思っているし、そう願っている。
〈参考〉
https://www.unrealengine.com/ja/blog/self-service-publishing-now-available-for-the-epic-games-store
https://www.famitsu.com/news/201903/22173608.html
https://www.unrealengine.com/ja/blog/unreal-editor-for-fortnite-is-now-available-in-beta
https://www.fab.com/ja
https://forbesjapan.com/articles/detail/42584