wowaka&ヒトリエから受けた影響と喪失を経て、たどり着いた“新たな音楽” 椎乃味醂 × シノダ対談
「『ボカコレ』でニコニコの昔の空気感を体験できているのかも」(椎乃)
――ここからは『ボカコレ』の話に移らせてください。シノダさんはニコニコ動画やボカロシーンの移り変わりも見てきて、そこから外側にも飛び出て、いろんな角度からボカロシーンを見てきたと思います。そんななか『ボカコレ』というイベントが2020年以降に始まって、新しいクリエイターが沢山出てきていることをどんな風に感じていますか?
シノダ:以前、cinema staffのドラムの久野(洋平)くんと飲んでいたときに「音楽にもお笑いの『M-1』みたいな賞レースとかあったらいいんですけどね」みたいなことを言ってて、「たしかにな」と思ったんです。そうしたら、賞レースに近いものがこうしてボーカロイドの世界で発生したから、絶対楽しいじゃんと思いましたね。いよわさんが1位を取って号泣してるスペースとかを聞いて、「こいつら超楽しそうじゃん」って。甲子園みたいなね。だから、僕も『ボカコレ』を見るのが楽しみになってきてるんですよね。かとおもえば、r-906さんの「まにまに」みたいな曲が一位を取ったりするし。
椎乃:そうですよね。
シノダ:あれも痛快な出来事でしたよね。あの曲、めっちゃ長いし、ただただドラムンベースを延々と聞かされるっていうもので、でもそれがたまらなかったですね。こういうことがJーPOPの世界でも起こってほしいなと思ったり、『ボカコレ』にはいろいろと楽しませていただいてます。みんなもそういうのに参加できて、きっといますごく楽しいんだろうな、とも思いますね。
――参加する側の視点でいうと、椎乃さんは「知っちゃった/可不・結月ゆかり」が2022年秋の『ボカコレ』でTOP100の3位にランクインしていますよね。それ以前からイベントを通してより広く名前を知られるようになったりと、新たな出会いも多いと思います。実際にこれまで参加してみていかがですか?
椎乃:僕は第1回からずっと『ボカコレ』に参加していて、それで結構名が知れるようになったところもあるので、クリエイターとしてもありがたく思っています。
あとは、ニコニコの昔の空気感を体験できているのかな、とも思っていて。2012年前後なんかは、ちょうど『カゲロウプロジェクト』が大人気だった頃で、それ以前にも“メルトショック”があったり、それこそwowakaさんとハチさんたちの楽曲によるランキング争いが発生したりとか、ニコニコ特有の「ランキングがあるからこその空気感」があったと思うんです。僕はそれをリアルタイムで経験できなかったので、今になってそれを体験できているんじゃないかなと思って、嬉しいポイントですね。
それから『ボカコレ』を通じてクリエイターの友人がかなり増えましたね。
――クリエイター同士の交流が増えたのはいいですね。
椎乃:雄之助とは家に行くような仲になっているし、先ほどシノダさんから名前が挙がっていたFushiさんともボカコレで知り合いましたね。ただ、周りのPの人たちも同じような悩みを抱えているんだろうなと思うんですけど、こういうことを喋れるのは僕らがランキングの上位層にいるからだなと痛感していて。『ボカコレ』って3000曲、4000曲くらい出るわけじゃないですか。だから当然、100位以下の人たちがほとんどになるわけですよね。
シノダ:そんなに出てくるのか、すごいな。
椎乃:そう考えると、なんとも言えない気持ちにはなります。自分がどういう立場でいればいいのか、っていうのは未だに分からなくて。でもクリエイターとして曲を作るという点では先ほども言ったように、自分だけのものを確立していくことは変わらないですし、それは順位がどうであろうが僕の核心にある部分なので、あとはそれをぶつけて結果がどうなるのかというところなんですけどね。
シノダ:上位層であるがゆえの悩みという意味では、どんと構えてればいいと思いますけどね。
――そうですね。そこはシノダさんがおっしゃったようにどんと構えてた方が憧れられる対象にもなるでしょうし、先日椎乃さんがツイートされていたように「こいつらに勝ってやろう」という思いも芽生えてくるのかなと思ったりします。
シノダ:上位層に行ってしまった以上、ルサンチマン的な、嫉妬の対象になってしまうことは避けられないですからね。
――現在『ボカコレ』に投稿されている椎乃さんと、『ボカコレ』のなかった世界を体験して、今いろんな若手を見ているシノダさんのそれぞれの立場から、これから投稿したいと思っているけどもう一歩踏み出せない人たちに向けて、メッセージをいただけますか?
シノダ:良い曲を書きたいのかとか、ボカロPになりたいのかとか、たくさんの人に聞いてほしいのかとか……いろんな人がいるとは思いますが、自分が『ボカコレ』という世界に飛び込むことで、いろいろ知れることは絶対にあるわけじゃないですか。そういうチャンスがオフィシャルで設けられているのに飛び込まない手はないんじゃないかな。どんどん「やったらいいじゃん」と思いますよ。「お祭りなんだから、参加してみたらよくない?」みたいな。
椎乃:「『ボカコレ』だから見る」という人は一定数いるので、普段再生数に伸び悩んでいる人でも、『ボカコレ』に出したら知ってもらうチャンスが広がると思います。たとえば「Kiite Cafe」という、ユーザーのマイリストに入っている曲がピックアップされて、みんなで同じ曲を聴くというサービスがあるんですけど、そこで再生数が100もいっていないような、まだ見つかっていない曲を見つけることも結構あって。「投稿してもニコニコ動画の情報の海に埋もれてしまう」と考える人もいると思うんですが、そんなことはないですよ、とお伝えしたいです。『ボカコレ』の曲を全曲聴いている方もいますし、ドワンゴの栗田さんも全部チェックしているそうですし、発掘される可能性がちゃんとあることは、希望として持っておくといいと思います。
■椎乃味醂
椎乃味醂 1st Album「語用論」発売中
https://twitter.com/sheeno3rin
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■シノダ(ヒトリエ)インフォメーション
ヒトリエ最新アルバム『PHARMACY』発売中。
現在、ファーストアルバムから10周年を記念した全国ツアー『10年後のルームシック・ガールズエスケープ TOUR』を開催中。
■イベント概要
『The VOCALOID Collection ~2023 Spring~』
開催日時 :2023年3月18日(土)~21日(火・祝)
開催場所 :ニコニコTOPページなどのネットプラットフォームほか
公式Twitter :https://twitter.com/the_voca_colle
公式サイト:https://vocaloid-collection.jp/
協賛 :東武トップツアーズ / マンナンライフ
メディアパートナー:interfm / FM802 / GAKUON! / 関内デビル / JFN / smart / テレビ朝日ミュージック / SCHOOL OF LOCK! / NACK5 / BOMBER-E! / ミューパラTV / RADIO MIKU