wowaka&ヒトリエから受けた影響と喪失を経て、たどり着いた“新たな音楽” 椎乃味醂 × シノダ対談

椎乃味醂 × シノダ(ヒトリエ)対談

「wowakaの模倣をするのだけは一番やっちゃいけないとも思っていた」(シノダ)

――シノダさんにとっての「ルーツとなる音楽から一歩踏み出す瞬間」はそのタイミングにもあったんですね。

シノダ:言われてみたらそうかもしれないですね。「curved edge」を作っていた時期ってコロナ禍も始まって、周りの人気バンドの曲も軒並み頭打ちになっている印象があったんです。そんななかでヒトリエが3人になって「どんな曲を出すんだ」となっていた空気も含め、とにかくびっくりさせたい、させないといけないような状況で。ほかのインタビューでも言いましたけど、wowakaの模倣をするのだけは一番やっちゃいけないとも思っていたし。今になって、逆にやってやろうかなとも思ったりしますけどね。

――いろいろ挑戦した後に原点に立ち返るとなると、また別の意味を持ちますからね。

シノダ:そう。wowakaって本当にひとつの型を作った人間のようなものですから。たとえば、2000年代にTHE BLUE HEARTSみたいなバンドがいっぱい出てきたりとか、NUMBER GIRLが解散した後にNUMBER GIRLみたいなバンドが出てきたりとか、そういうのって必然的なことで。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインが『Lovelss』を作って以降、シューゲイザーと言えば『Lovelss』の名前が挙がるようになったとかみたいな。僕はwowakaのことを「それくらいのことをやった人間だな」と思っていて。だから椎乃くんが中学生のときにwowakaのような曲を作ったことも全然悪いことではないと思っているんだよね。10代だから影響を受けやすいということはあっただろうし。

椎乃:たぶん、多感だったんですよね。

シノダ:多感がすぎるとは思うけどね(笑)。けど、それくらいの感受性がないと、あんな執念に満ちた曲は作れないだろうから、それでいいんだと思う。椎乃くんは歌詞もすごいよね。19歳であの語彙力って、一体どこから手に入れてくるの? 本とかを読んだりして?

椎乃:中学とか高校のときは本もよく読んでいました。あとは、授業中に電子辞書をよく見ていましたね。スマホは出せないですけど、電子辞書だったら許されるので、授業中に全く関係のない単語を調べて無駄な知識を増やしていくっていう(笑)。

シノダ:近代的な授業のさぼり方だ(笑)。言葉が好きなんだなと思った。

椎乃:そうですね。言葉は大好きです。

シノダ:すごくいいなと思った歌詞があって。「知っちゃった」の〈物語の語りは一義の方が簡潔で、二項を対させれば明解で、そうして三寸の舌を掉った彼が、置くのは死んだディスクールで。〉ってカウントしていく歌詞。これって、そのあとの歌詞にある「誤謬(ごびゅう)」もカウントしていいんですか?

椎乃:それは諸説あります。

シノダ:なるほど、諸説あるんだ(笑)。こういう数で構築されるフレーズが好きなんですよね。『るろうに剣心』のセリフに「一度見た技を 二度喰らうのは 三流のやる事だろ」ってセリフがあって。あとはBRAHMANが『NO NUKES』というフェスに出たときに「震災から3年、2度目のNO NUKESフェス、一度きりの人生、BRAHMAN始めます」みたいなことを言ってたのとか。それに近いような衝撃をここから受けました。

 あと「ただ一度とないあの夏へ」の〈自由研究の「自由」の部分は、君のためにあるみたいだった。〉って、なんて素敵な言葉を書くんだろうと思った。でも悲しい歌だよね。

ただ一度とないあの夏へ/可不・初音ミク

椎乃:悲しい歌ですね。

シノダ:〈あの山を越えて、青時雨を見るのは、いつも君が一等賞。その背を追って、私も蝉時雨に飛び込んだ。〉とか。

椎乃:「ただ一度とないあの夏へ」は、夏の曲を作りたいと思ったんです。いつもは自分の経験からしか歌詞を書かないんですけど、「ただ一度とないあの夏へ」は創作、物語なんです。僕の中にある夏の記号的なものを敷き詰めて、これはもう夏だろうっていう。

シノダ:“夏辞典”を引き出しまくってね。すごい綺麗な歌詞だと思うし、僕は好きだな。曲の密度にもびっくりするし、歌詞の密度にもびっくりする。曲を書くのは結構早い?

椎乃:曲自体を書くのは結構早いかもしれないです。たとえば「ヘテロドキシー」という曲があるんですけど、あれは『ボカコレ』が始まってから作った曲なんです。なんですけど、そこに至る、スイッチが入るまでが結構遅くて。準備期間が結構長いので、それらも含めると長いのかなってなるんですけど、実際に制作している期間で言うと多分短いですね。

ヘテロドキシー/可不・flower

シノダ:なるほど。しかし、改めて椎乃くんの書く歌詞を見ると“キレ狂ってる”よね。怒りに満ち満ちているな。

椎乃:そうですね(笑)。結構自分の怒りみたいなものに、根拠とかエビデンスみたいな裏付けをしているところは結構あります。

シノダ:この言葉、もうスレスレじゃねみたいな“切れ込んでる”ような部分があって、格好いいなと思います。

椎乃:ありがとうございます。シノダさんに歌詞を褒めてもらえるのは本当に嬉しいです。

シノダ:好きな歌詞に出会えると伝えたくなりますね。

椎乃:それで言うと、僕も好きな歌詞があって。「ステレオジュブナイル」の〈冗談みたいなステレオ こんなん聴いてんのお前だけ〉っていうこの歌詞、最高です。

ヒトリエ 『ステレオジュブナイル』 / HITORIE - Stereo Juvenile

シノダ:その歌詞は非常に評判がいいんですよ。自分から出る言葉の中でもだいぶ好きな言葉かもしれない。我ながら良く書けたなと思います。自分自身が「こんなん聴いてるの俺だけなのか」みたいな、そういう刃物を懐に隠しながら思春期を過ごしてたから、それをいま一度言語化できてよかったなと思います。

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