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漫画は「読む前から面白い」ものが売れる時代に? FIREBUG佐藤詳悟×『週刊少年マガジン』川窪慎太郎対談
縦読み漫画の隆盛で既存の読者やクリエイターが離れている?
佐藤:あと気になっているが、たまに海外の人と仕事の打ち合わせをする際に、「Netflixで何を観ているんですか?」と尋ねると、日本のアニメと答えるケースが多いこと。いわばオタクじゃない海外の一般の人に、日本のアニメが観られているのは、単純にすごいなと思っていて。アニメの大半は漫画原作が多くて、それが漫画業界にとっては目に見えるくらいプラスになっているんですか。
川窪:10年前は「いつか紙と電子の売り上げが逆転する時代が来るかも?」と言われていたのが、今は「そのうち国内と海外の売り上げが逆転するかも」と言われています。
佐藤:デジタルになっている影響が大きい?
川窪:それで言うと、ちょっと違うかもしれません。講談社は北米にKUPという子会社を持っており、そこの人とたまに話すと「アメリカ人は紙しか読まない」って言うんですよ。
佐藤:へー。そうなんだ。アメリカ人はみんなスマホやタブレットで電子書籍を読んでいるかと思った。
ーー海外の展開でいうと、『進撃の巨人』が最終回を迎える1年半くらい前、国内で毎号発売されるたびにSNSで話題になっていた印象です。逆にそれが海外でもリアルタイムで楽しめるような状況だったんでしょうか?
川窪:当時で言うと、いくつかの作品は同時配信していて。『進撃の巨人』も日本で雑誌が発売される同じタイミングで、海外でも配信をしていました。
ーーやっぱりそういう動きは、ファンの熱量からしても必須になってきているんでしょうか。
川窪:はい、必須だと考えています。海外のイベントを通して、日本の作家へオファーもたくさん来ますし、需要はあると感じています。作家を海外に連れて行ったところ、有名な映画スターやミュージシャンが来たくらいの歓迎ぶりだったみたいで。日本のコミックアーティストがこんなにもリスペクトされているというのを、あらためて感じることができたと聞いていましたね。
佐藤:自分だと、「Netflixで面白いと思ったアニメは漫画の原作を買う」という流れがあるんですが、これは海外の人だとどういう状況なんでしょう。
川窪:海外はアニメの方が圧倒的に入りやすく、最初の入りが漫画というのはあまりないかもですね。
佐藤:韓国発の縦型漫画はライバルとして認識していますか。
川窪:うーん。ライバルになっているのかな。海外の人は「漫画といえば横だよね」という感覚がなく、WEBTOONで漫画を縦読みするのが普通だと思っていて、すんなり入っていけるんです。一方で講談社としては、まだ本格的に縦読み漫画には参入しないんじゃないかと思います。
ーーライバルとしての実感は、まだそこまでないわけですかね。
川窪:ピッコマがすごい勢いで支持され、売上が伸びているわけですが、既存の漫画が食われているとか、漫画の読者が減っているとか、あるいはクリエイターが取られているとかは特に感じていないですね。
佐藤:日本は年間に出している漫画原作の数って、海外のそれと比べると異常なくらい多いですよね。ちなみに、どのくらい新しいものが生まれているんですか。
川窪:うちの編集部でいうと、年間で目標にしているのが35本くらいですかね。トータルで連載しているのはその2倍強です。
佐藤:半分くらい入れ替わるんですね。これは自然とこの割合になっている?
川窪:あらためて数字にしてみると、こんなに入れ替わっているんだと感じますが、全然無理はしてなくて。円満終了するものと、残念ながら打ち切りになるものを、普通に数字を見てやっていくと自然とこういう割合になっていくわけですね。ただ、油断すると新規の連載が減ってしまうので、そこは意図的に新しいものを増やす意識は常に持っています。
ーー連載終了について、数字を定点観測していくなかで、これまでは発行部数やアンケートが中心だったのが、SNSの反響も重要になっていると思っていて。SNSはどのくらい判断材料として重要視していますか?
川窪:どうなんですかね。僕個人はそこまでSNSは重要視していないかな。やはり、アンケートと売上を一番見ていると思います。ちなみに、アンケートで一番気にしているのは「人気はあるのに購入されていない」というパターンなんですよ。
佐藤:面白いのに売れていない、というのが可視化されるとなると、突き詰めていけば「もっと面白いものを作るしかない」というのに行き着くわけだ。
川窪:まさにそうですね。