TikTokでオムライス動画がバズるワケ 料理系アカウントが持つ優位性について考える

 ある一つの料理を作り続け、TikTokで人気を博しているクリエイターがいる。その名は「オムライス兄さん🍅🐣🍚」だ。彼は毎日のようにオムライスを作っている。なぜオムライスを作る動画が人気になるのだろうか。TikTokという動画プラットフォームの特徴と料理を扱った動画の優位性とともに考える。

 「オムライス兄さん🍅🐣🍚」は関西弁の「お兄さん」が、毎日のようにオムライスを作る動画を投稿するチャンネルだ。チキンライスの上に半熟状のオムレツをのせる「タンポポライス」をベースにしつつ、国内外でバズっているオムライスに関連した動画を再現したり、ユーザーのリクエストに応えたオムライスを作っている。「タンポポライス」はオムレツに切れ目を入れることで、半熟の卵がトロッとライスの上に広がる動きがあり、「動画映え」する一品だ。

@omurice_omelette @KUROに返信 ご注文は必ず上から目線でお願いします🙇‍♂️ #オムライス #food ♬ Athletic Meet "Heaven and Hell" (No Introduction) - Shinonome

 ユーザーがリクエストを敬語ではなく「スシロー分解してオムライス作れないとかマジ?」「子どもが喜ぶ感じにオムライス作れよ」といった具合に上から目線のタメ口で書いているのも特徴だ。特定のお作法があると、コミュニティに所属している意識が芽生えやすい。

 オムライスが完成した時などに「ドヤ顔」をするのもお決まりのようだ。チャンネルのアイコンもドヤ顔をしたイラストになっている。

 昨今「オムライス兄さん🍅🐣🍚」のようなグルメ関連のクリエイターはTikTokで注目を集め、TikTokで最も活躍したクリエイターを称える「TikTok Awards Japan 2022」では、「Gourmet Creator of the Year」と題したグルメを扱ったクリエイターのための部門が用意され、ノミネートされた5名はいずれも数十万人以上のフォロワーがいるほど人気ジャンルとなっているのだ。これらのアカウントでは、グルメの名店を紹介するクリエイター1名を除くと、料理を作る工程を見せるクリエイター(以下、料理系TikToker)が名を連ねている。以下、料理系TikTokerの中にはプロの寿司職人もいる。

 料理系TikTokerの動画を見ていくと、調理方法を尋ねる質問は意外と少ない。クリエイター側もそもそもレシピを掲載していない。視聴者は自分が料理をする際の参考にするというよりは、主にエンターテインメントとして楽しんでいるようだ。

 では、ユーザーは料理系TikTokerのどんな部分に惹きつけられ、動画を視聴するのだろうか。それは料理の調理工程を見せる動画に、TikTokのような短尺動画のプラットフォームで優位になりやすいエッセンスが詰まっているからだと筆者は考える。

 TikTokはユーザーが次々と別の動画に移行できるUIになっている。そのため、動画を最後まで見てもらうのは至難の技だ。ユーザーを動画の最後まで惹きつけるコンテンツの一つとして、続きが気になるタイプのコンテンツは有利になる。ダイエットやヘアメイクのビフォーアフターのような結果が気になる動画や、プロセスを見せる動画は続きが気になってバズりやすいのもそのためだ。料理の工程を見せる動画もこれに当てはまる。

 視聴者を飽きさせないために、テンポ良くシーンを変えられるのも有利だ。料理の動画は工程ごとに編集点を作りやすい。食材を切る工程、火を入れる工程、盛り付ける工程、食べる工程といった具合に、違った見栄えのシーンが作れる。

 バリエーションを出せるのは、見た目だけではない。料理の動画では音の変化も出せる。工程によって食材を切る音や焼いている音といった異なる音が生じることから、ユーザーの目だけではなく耳も惹きつけられるだろう。高い解像度で収録された音を交えると、ASMRのような気持ち良さも演出できる。

 料理の動画には優位性がある一方で、だれしもがチャレンジできるジャンルであることから競合は多い。また、料理人や職人などのプロの数も多いことでクオリティを極めることも難しくなる。身近に感じてもらいやすいジャンルだが、群雄割拠だとも言え、ファンを作るにはオリジナリティが必要になってくるだろう。料理の腕よりも、テーマを作る方が寛容になるはずだ。「オムライス兄さん🍅🐣🍚」のようにファンを惹きつける人柄や個性を作る方が、オムライスを作るよりも高度なテクニックかもしれない。

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