連載「音楽機材とテクノロジー」第14回:OMSB
OMSBに聞く、ラッパー・ビートメイカーとしてのMPC&DAW論。歌寄りのフックが増えた理由も“機材の変化”?
「歌はアレンジすればするほど必要のない音も増える反面、変化も出やすい」
――DAWの環境はどんな感じなんでしょう? お使いのDAWソフトから、ぜひ教えてください。
OMSB:使っているソフトはAbletonの『Live』です。そこまで高くないし、同じ『Live』ユーザーのVaVaちゃんと遊ぶことが増えたので、彼にもアドバイスをもらえるかなと。これを使っていなかったら2021年のEP『MONKEY』や『HAVEN』はありませんでした。収録曲のほとんどが宅録を始めてからの楽曲なので、自分にとってDAWの導入はターニングポイントになりましたね。
『Live』は「直感的」と言われることが多いのかな。ソフトが落ちてしまった時でも自動的にセーブされるのは「Command+S(保存)」で小まめに保存するクセが身に付いていないので助かります。とはいえ、まだまだ細かい使い方は学んでいる最中です。ただ、そこに力を入れるよりも、実際に使って、作る曲を増やした方が有意義だとは思っていますね。
オーディオ・インターフェイスは『FOCUSRITE Scarlett 18i8』、マイクはVaVaちゃんも使っている『MXL V67G』です。ケーブルなどはあまりこだわりはなくて、質が悪くなければいいかな、という感じです。
――なるほど。プラグインはどうですか?
OMSB:ハマっちゃってます。エンジニアの方へのリスペクトが上がりすぎて、迂闊にセッティングは言いづらいですが(笑)。とりあえず挿して音を流してみて、「MPCでいうとあれね」と理解して考えています。あと、見た目のデザインも制作意欲に繋がりますよね。機材はどんどん増やすというのは難しいですが、プラグインは買いやすいので増えてしまう……。
お気に入りのプラグインでいうと、Excite Audio『Lifeline Expanse』は音と質感を変えられるので好きです。最新作『Vision Quest』デモ版の時も宅録っぽいボーカルにしたいな、とあえて音を汚すために使っていました。あと最近は、LiquidSonics『Seventh Heaven』もお気に入りです。リバーブの音そのものと、かかり具合が良いんですよ。
――歌の処理などにおけるポリシーなどがあれば教えてください。
OMSB:自分が使っているマイクの特性もあり、ハイを落としたりして音を丸めることが多いです。歌はレイヤー構造なところが面白いですね。低いパートを歌って、違うキーも歌って、ユニゾンするかしないかとか。その分量でも違いが出るのも楽しくて、それに目覚めてからは歌寄りのフックが増えました。オクターブユニゾンは普段の声と違いすぎるので、うっすら効かせてオートチューンで調整してます。
――それはラップをダブルで重ねるのとは違います?
OMSB:ラップの場合、ダブルに聴こえるか聴こえないかくらいを意識していて、あくまで声の補助くらいのイメージですね。とくに僕が使っている『MXL V67G』では安価なぶん、録り音に粗さを感じていて、それをメインとダブルの声のトーンで補いつつ自分の好きな声にするために重ねてます。でも、もはやヴァースを録ったらとりあえずダブルにしてみる。いらなかったら消す。みたいな作業になってますね。でも歌はアレンジすればするほど、必要のない音も増える反面、変化も出やすい気がするんです。
――なるほど……。たとえば、3ndアルバム『ALONE』収録曲「Nowhere」、フック部の歌はどのようなレイヤーになっているのでしょう。
OMSB:あれは前半〈がっかり~〉と後半〈This is~〉の部分で分けて考えています。前半は3トラック、後半はそれにプラス5トラックとガヤ。答えを見つけるのに苦戦して、かなりの数を処理しまくっていました(笑)。
――興味深いです。そして3月10日に渋谷WWWで行われる2度目のワンマンライブ『OMSB ONE MAN LIVE. "KROOVI'23".』も注目されていますが、ライブについてはどう考えていますか。
OMSB:『Think Good』のタイミングで増田さん(編注:所属レーベル〈SUMMIT〉の増田岳哉氏)から「ワンマンやってみる?」と提案されていたのですが「まだそんな器じゃないでしょ」と日和っていたんですよね。けれど、去年初めてやってみて、もっと早くやればよかったなと感じました。自分を観に来てくれているのは大きいし、最後にめちゃくちゃ長い拍手をお客さんからもらえて、本当に気持ちよかったです。
だから、またやりたかったんです。ライブを重ねて『ALONE』の曲も熟成しているし、魅せ方もアップデートできているので、よりよいライブができそうです。
――最後に、今後どういう音楽を作っていきたいのかを教えてください。
OMSB:音源制作のときはいつも出し切ってしまうので、すぐに次のことを考えるのは難しいですね。ただ、あまり決めすぎないようにはしたいです。もともとブレるのは嫌でしたが、振り返ってみたら自分にも好きな曲は色々あるし「それはブレではないな」と思えるようになっています。いまはオルタナ系の音楽ばかり聴いているし、そういう要素も自分の音楽として消化していきたいなという気持ちはありますよ。
あとは『ALONE』のように地に足の着いた楽曲をもっと作れればいいなと思っています。あのアルバムは調子に乗っていた自分の黒歴史を回収できた作品でもあります。そういう自分も否定はしませんが、いまはもうできないなと。上手くいけば調子に乗るかもしれませんが、いまはそうでない曲を歌いたいんです。