『PlayStation VR2』はVR業界が渇望する"ブレイクスルー"の引き金たりうるか? デバイスとソフトの両面に触れて考える

『PSVR2』デバイス&ソフトレビュー

『PlayStation VR2』のソフトラインナップ:VR入門編として優れた『Horizon Call of the Mountain』と、定番どころを押さえたローンチタイトル

 とはいえ、どれだけデバイスがちゃんとしていても、肝心なのは「それを買うだけの理由になるソフトがあるかどうか」である。だからこそ、今回の『PSVR2』のローンチタイトルには、いまやPlayStationブランドを代表する存在となった『Horizon』シリーズの新作である『Horizon Call of the Mountain』が含まれているのだろう。

『Horizon Call of the Mountain』ローンチトレーラー

 実際に同作をプレイした感想としては、たとえば『Half-Life: Alyx』のような「これが未来だ」と思えるほどの圧倒的な体験とまでは言い難く、「このソフトのためだけでも『PSVR2』を買う価値がある」とまでは言い切れないのが正直なところだ。だが、少なくとも現行のVRゲームタイトルのなかでも上位に位置する優れた作品であることは確かであり、VR酔いしづらい工夫や、視線トラッキングにアダプティブトリガー、ハプティックフィードバックといった『PSVR2』ならではの機能が生み出す没入感など、「2023年にPlayStationブランドから送り出される最新VRゲーム」としての期待に応える仕上がりにはなっていると言えるだろう。

 本作の最大の魅力は、なんといっても、あの『Horizon』の世界に入れるということに他ならない。プレイ開始直後から、美しい自然の風景と、格好良くも恐ろしい機械たちが織りなす壮大な光景に圧倒されることだろう。遠くを歩く「トールネック」のあまりの巨大さ、危険を察知した「ウォッチャー」の怖さなど、画面を通して感じていた“あの感覚”を本能でもって味わえるというのはまさしくVRならではの体験であり、従来のゲーム機やPCの遊び方では実現できないものだ。

 また、『Horizon』シリーズの醍醐味でもある「怒涛の攻撃を回避しながら、相手の弱点を狙い、パーツを剥がしていくダイナミックな機械との戦闘」という魅力についてもVR上で程よく再現されており、身体的にも精神的にも必死になって弓矢を放ち続けるうちに、いつの間にか『Horizon』の主人公である「アーロイ」と自分自身の姿を重ねてしまうことだろう。プレイヤーの動きに応じて自動で視野角を狭めたり、戦闘中の移動を左右に限定するといったVR酔いしづらい工夫も相まって、戦闘のクオリティについては、現行のVRゲームの中でもかなりの上位なのではないかと思える仕上がりとなっている。

 ただ、実は本作において、この戦闘パートは全体の1割にも満たない程度であり、プレイ時間の大半は『The Climb』のような山を登るクライムパートに充てられている。山登りの合間には探索要素も用意されているのだが、基本的には一本道であり、プレイフィールとしては「とにかく登り続け、たまに戦闘に巻き込まれる」という感じになってしまっている。クライムパートも、随所に挿入される演出も相まって楽しいことは確かなのだが、どうしても現実世界では足が地面に着いているために、戦闘パートほどの没入感は感じづらいのは否めない。

 これでもし『Horizon』らしい探索要素や、サブクエストなど本編以外のユニークな楽しみ方があればもっと強くオススメできたのに、と惜しい気持ちになってしまう。とはいえ、優れたグラフィックで作り込まれた雄大でユニークな世界観の中で、VRゲームの様々な魅力をいっぺんに楽しめるという点では、本作はまさにVR入門にうってつけの作品であるのは確かだ。もし『PSVR2』を持っている、あるいは興味があるのであれば是非遊んでみてほしい。

 他のローンチタイトルについては、初代『PSVR』ソフトとの互換性がないという状態ではありつつも、初代でもVR版が用意されていた「バイオハザード」と「グランツーリスモ」が、それぞれ最新作『ヴィレッジ』、『グランツーリスモ 7』のVRモードを用意したり、『スター・ウォーズ:テールズ・フロム・ザ・ギャラクシーズ・エッジ』や『Moss』シリーズといった既存の人気作が名を連ねていたりと、しっかり定番どころを押さえている印象だ。

『バイオハザード ヴィレッジ VRモード』 Gameplay Trailer

 その中でも筆者個人として特にオススメしたいのは、まずは『Kayak VR: Mirage』である。ゲームの内容自体はシンプルで、言ってしまえば「南極大陸やコスタリカなどを舞台にカヤックを漕ぐ」というだけなのだが、『PSVR2』の解像度の高さも相まって、ただただ美しい自然に癒やされながらじっくりとカヤックを満喫できる。なおかつ、パドリング自体はリアル志向であるため、その気になればどこまでも極められるストイックさも魅力だ。まさに「現実から離れ、別の世界でリラックスして過ごす」というVRならではの楽しみを心ゆくまで味わえる良作だ。

『Kayak VR:Mirage』 アナウンストレーラー | PS VR2

 最後にもう一つ、文句なしにオススメしたいのが『Rez : Infinite』だ。サイバー空間を舞台にした、エレクトロニック・ミュージックと演出がシンクロするシューティング・ゲームである同作は、2016年時点で初代『PSVR』に対応しており、同年の「The Game Awards」でも「Best VR Game」を受賞するほどの評価を獲得している。さらに、今回の『PSVR2』版では、本作の魅力でもある音と振動のシンクロがハプティックフィードバックや本体自体の振動によってより美しくダイナミックに、視線トラッキング機能を活かした操作によってさらに没入感を増しており、ただでさえ破格の傑作であるにも関わらず、さらに進化した体験を味わうことができるのだ。言葉では決して表現できない、あの「電子にダイブする感覚」をまだ味わっていないという方は、是非同作を手にとってみてほしい。

『Rez Infinite』 アナウンストレーラー | PS5™ / PS VR2

 結論として、『PlayStation VR2』は、現代のVRデバイスに求められる要件や懸念事項をきっちりとクリアした上で「PlayStationらしい機能」を盛り込み、それでいて本体の価格は抑えめという、現行のVRデバイスの中でも優れたコストパフォーマンスを誇るデバイスとして仕上がっている印象を受けた。一方で、コンテンツ面に関しては、現時点ではVR自体に関心のあるプレイヤーであれば楽しめるであろうラインナップが揃っているとはいえ、シーン全体に大きなブレイクスルーを与えるであろうキラーコンテンツの登場を待ちたいところではある。

 だが、『Half-Life: Alyx』ですら大きな変化をもたらすには至らなかったのに、それ以上のキラーコンテンツなどありえるのだろうか? いや、きっとあるからこそ、再びPlayStationは「VR」を掲げて戻ってきたのだろう。まずは良質な環境で良質な作品を遊びながら、その先にある「本当の可能性」を期待して待ちたい。

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