URU × T.Kura 対談 日米を拠点に活動するクリエイターの制作論と機材に迫る

URU × T.Kura対談

T.Kuraの機材&プラグインやその活用法を紹介

Giant Swing Studio東京の最初のころ(写真=本人提供)

――時代に合わせてある程度形は変えつつも、ご自身の中で自分らしさみたいなものもあると思うんです。最近の自分の中での音作りの流行や、こういう音作りが多いなと思うポイントってありますか?

T.Kura:音楽とかファッションとか食べ物もそうなんですけど、10年とかもっと短いスパンで流行が周るじゃないですか。自分は30年くらいやってるから、最初は90’sの時代でキャリアがスタートして。だから昔の感覚で作ったものを今の音に置き換えるようなことも増えてきました。いまだと、たとえば曲も短いじゃないですか。昔の曲って5分とか平気であったから、90'sで流行った感じで作ったあとに、いらないところはばっさり削ぎ落しちゃうみたいなことはしていますね。

――URUさんはどうですか?

URU:同じような感じで、やっぱり昔からずっとやってるので、世の中が一周まわってファンクっぽいものとか80’sエレクトロみたいなのを求められるときは、あえて昔の感覚で作ったりもします。自分はベースの入れ方やタイミングとかゲートの長さに結構こだわるんですけど、そこをずっとこだわるのは変わらないところですね。

――ベースの塩梅も時代によって変化がありますか?

URU:ベースに関しては時代性は無視してずっと自分のスタイルを通しているかもしれないです。もちろんEDMっぽかったらサイドチェインをかけたりはするけど、ベースはあんまり変わらないかな。

――そうなんですね。あとはスタジオの機材についてもお伺いできればと思います。URUさんが気になったものはありますか?

URU:スピーカーはメインで使われているのはなんですか?

T.Kura:ATC『SCM45A PRO』ですね。元々Focalのものを使ってたんですけど、もうちょっとローがクリアに出るものを使いたくて。数年前からこれとサブウーファーの組み合わせで使ってます。もうひとつがamphion 『Two18 & BaseOne25』なんですけど、元々は10Mを使ってたんです。さすがに年代が経ってきちゃったのでなにか他にないかなと思っていたら、amphionが10Mに近いというか、ピークがちゃんと見えるようなスピーカーだと知って。作る曲が低音重視の曲が多いので、サブウーファーもセットで入れる形で使ってます。

ATC『SCM45A PRO』(左)とamphion 『Two18 & BaseOne25』(右)

URU:アウトボードも見ていいですか?

T.Kura:アウトボードはボーカルを録るときしか使わないので多くはないですけど。ボーカルはNeveに入れて、ユニバーサルオーディオの『1176 Blue』に入れてます。ユニバーサルオーディオのはビンテージのやつで、アトランタの大きいスタジオがクローズしたときに数台あった中で一番状態のいいやつを売ってもらい、それを修理しつつ使っています。あとはProtoolsのインターフェース。AVIDのやつですね。これはめちゃくちゃクリアです。

T.Kuraのアウトボード

URU:マイクは何を使っているんですか?

T.Kura:マイクはボーカル用が多くて、一番よく使うのはMANLEYですね。ゴールドとかもあるんですけど、自分がやってる音楽の中で一番コシがでるのは『Reference Cardioid』なので、こっちをよく使っています。あとはよくあるBRAUNERの『VM1』。この音が好きな人には使います。あとはあんまり使わないですけど、安定のSONY『C-800G』。あとはビンテージのちゃんとした音も使いたいなと思って、TELEFUNKENの『ELA M』もあります。

URU:TELEFUNKENのマイクでも、結構ボーカルを録ってますか?

MANLEY『Reference Cardioid』(中央右)、BRAUNER『VM1』(左)、SONY『C-800G』(右)、TELEFUNKEN『ELA M』(上)

T.Kura:一時期これですごい録ってたんですけど、やっぱりビンテージ色が出ちゃうんです。いまってボーカルミックスするときにハイを上げていくじゃないですか。そのときに良い感じに上がるんですけど、現代のマイクとはハイの感じが違うので、処理が変わってきちゃうんですよね。

URU:なるほど。音楽のジャンルが見えるマイクのラインナップですね。

T.Kura:そうですね。あんまりいろんなジャンルをやってないせいもあって、ボーカルに特化したセレクトになっています。

URU:プラグインはどんなものを使ってるんですか?

T.Kura:みんな使ってるものは普通に使っていて。例えばいまの音楽っていらない帯域をひたすら切りまくるじゃないですか。だからEQのFabfilterで下切るとか。それをやった上でCradleの『God Particle』をトータルでよく使いますね。

『God Particle』

URU:『God Particle』はどんなコンプなんですか?

T.Kura:これはトータルコンプなんですけど、リミッターみたいなもので。これのいいところとして、レイテンシーが結構抑えられているというのがあって。例えばボーカリストはレイテンシーがあったら歌えないので一回外すことになるじゃないですか。でもこれは挿しててもそんなに何も言われないんですよね。あとコンプのカーブがよくて。トータル用なんですけどいろんなところに使えちゃうんですよ。

URU:じゃあ、結構最近のをマストで使ってる感じですか?

T.Kura:そうですね。いろんなものを組み合わせるより、「いいじゃんこれで」ってなりやすいので。あとはオートEQの『GULLFOSS』ですかね。AIでいろんな楽器の位相をある程度整えてくれるっていう。あとLRの広がりも変わるんですよ。これはあんまり深くかけると癖がでてきちゃうので、うっすらかけてます。

Soundtheory『GULLFOSS』

URU:じゃあ、これはデフォルトで挿しただけでAIが判断してくれるってこと?

T.Kura:そうです。ミックスエンジニアの人で使ってる人多いと思います。お手軽ミックスのときはこれ入れて、そのあと『God Particle』を入れて、音圧上げてバキってなるようにっていうのは結構楽だからやってますね。結局複数にわたって、コンプを入れてEQ入れてコーラス入れてってやるよりは、1個で「はい、いい感じ」みたいなのを使いがちになるじゃないですか。昔はプラグインもWavesでも『C1』とか本当に最初の頃のものしかなかったから、みんな何重にもかけたり組み合わせたりして頑張ってたんですけど、いまは良いプラグインがいっぱいあるから頑張んなくても頑張ったようになるっていう(笑)。

URU:リバーブは何を使ってます?

T.Kura:ボーカルのリバーブは当たり前のラインになっちゃうんだけど、Waves Audio『CLA Epic』とかをよく使います。これはプリセットがめちゃくちゃ良いし、間違いない感じになりやすい。たとえば1曲の中でボーカルにCLAを使ったとしたら、他の楽器も同じCLAの違うプリセットをかけたりするんですよね。

Waves Audio『CLA Epic』

URU:揃えるほうがいい?

T.Kura:揃えたいと思ってるんじゃないんですけど、他のものをいろいろ挿したとしても、結局同じのが一番馴染みがいいなとなりやすくて。

――サンプルを使うときのこだわりや考えていることはありますか?

T.Kura:たとえばそのサンプルがSpliceのやつだとして「Spliceだと分かってもいいじゃん」って思っちゃってる自分もいるんですよ。あれでヒット曲を作るんだったらそれでもいいんじゃない?って。別にわざわざ変えなくても格好良ければいいのかなみたいな。

――ネタをサンプリングする感覚で。

T.Kura:そうそう。自分のプライド的に許せなければもちろん変えるのもありですけど、変えて格好悪くなるんだったらそのままでいいのかなって。昔から……たとえばKORGのTRITONとかは、プリセットをそのまま使ってワールドワイドにヒットした曲とかあったじゃないですか。それと同じだと思うんですよ。

――たしかにその考え方はすごく面白いですね。

T.Kura:そう。今年の初めくらいに三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのELLYくんのアルバムを手掛けさせてもらったんですけど、彼のDJをやっているNAKKIDくんとも結構一緒にセッションしていて、1日に3曲分のトラックを作ったりしたこともありました。ほかにも何人かと一緒にセッションして思ったことがあって。いまは便利になって、Spliceのようなものを使えば、自分で音を作らなくても、山ほど世の中に溢れているものを引っ張ってきて並べても曲になるような時代。僕らはそれの元を作るのに苦労した時代からやってるだけのような気がしていて、だったらいまの時代に合わせて一定数のこだわりは捨てたほうがいいなと思ったんです。それはいい加減にやるという意味ではなく、あるものから考えてパズルを組み上げていって、昔からのテクニックが必要だったら使うというようにすれば、“いまの時代の音”になるんじゃないかと。

URU:俺はSpliceを使っていないし、まだ頼らないでいいかなと思う派ですね。ネタものみたいな感覚でやるならオシャレだけど、トラックメイカーじゃない子がSpliceの人気順の上から持ってきて使うのはちょっと違うかなと。

T.Kura:それはそうでしょうね。

ーー先ほどT.Kuraさんから「30年くらい活動してきた」いうお話がありました。30年やってきたうえでの思いや、これからの展望はありますか?

T.Kura:自分が30年やれたという実感はあんまりないんですが、感謝はすごくしていて。この年くらいから思い始めたのは、僕って好きなことを仕事にできちゃったので、音楽の仕事をやっている自分が普通の状態なんですよ。なのでこの先も何年やれるかわかりませんが、自分の精神衛生的には音楽を作ることができればすごくいい人生なので、やり続けたいなとは思っています。それはたとえば人のためじゃなくても、自分がやりたいことをやっててもいいと思うし。作ってることでわくわくしたりするのは20代のときからずっと変わらないので、やれるだけやりたいなと。

URU:俺も作ってるときは、未だにわくわくするね。そうじゃなきゃ……というのもあるけど。

T.Kura:そういうところは若いときと変わらないですよね。だから若い人と一緒にセッションしても同じような感覚を共有できたりして。音楽って不思議で、あんまり年齢関係なく一緒にやれたりするからありがたいんです。刺激をもらいたいから一緒にやるようにしてるっていうのもあるし、そういう人と一緒にやりながら、テクニカルな部分とか知識の部分でサポートするというのは機会としてあればやりたいなと思っています。

URU 公式サイト:https://smpj.jp/songwriters/uru/
T.Kura 公式サイト:http://tkura1.com/

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