お絵かきAI『Stable Diffusion』による「AIの民主化」の衝撃と課題

 しかし一方で、画像生成AIの成立とその制作物に関わる権利、具体的には“著作権の運用”には課題が残る。Stable Diffusionはその学習に「LAION-5B」という研究用の大容量データセットを利用している。これは200TBを超える画像とテキストによる巨大なデータベースだが、ここにはインターネットをクロールして収集された膨大な”著作物”が含まれている。つまりStable Diffusionのやっていることは、長い歴史の中で人が制作した写真や絵、画像といった膨大な制作物をテクノロジーによって模倣すること、だとも言える。

 技術の歴史は模倣の歴史である。特にコンピューティングの世界は前述のオープンソースの文化に象徴されるような「技術を独占せず、世界に解放して共生する」という価値観を支持しながら発展してきた。近年話題になっている脱・中央集権をテーマとしたWeb3のムーブメントもこの延長線上で捉えることができるが、こうした価値観はしばしば著作権を活用したビジネスモデルと対立する。Stable Diffusionで制作した画像を現行法でどのように解釈するべきなのかは、法律家の見解を聞いてみたいところだ。

 たとえば前述の「ゴッホ風の絵」のように、著作権保護期間の終了した作家の名前で画像を生成することは直ちに問題にはならないだろうが、存命の画家やアーティストの名前を使って画像を生成することは、著作権を侵害している危険性もある。また、そうした画像を「自身の著作物だ」と語って販売するような行為については、個人的にはモラルに欠けた行為だと感じる。

 こうした技術が芸術やエンターテインメントの世界で活用されることに大きく期待しつつ、クリエイターやアーティストの権利が守られることを願う。お絵かきAIで「ooさん風の絵」を作るのは楽しい体験だが、著作権保護期間が終了していない作家の名前を入力するさいには、出力画像の利用は個人的な範囲にとどめておくのが良いだろう。

「Midjourney」などのAIはクリエイターの仕事を奪うのか? 国立情報学研究所教授に聞いてみた

ここ最近、SNSでは「AIはむしろクリエイティブ系の仕事を奪う」という議論が活発に行われている。実際、画像生成AI「Midjou…

関連記事