ふたたび輝くValensiaの美旋律――『Air Twister』を彩る、絢爛たるシンフォニック・ポップ

 ――そして、2022年の『Air Twister』へと至る。ゲーム公式サイトでは「New music and newly recorded versions of Valensia's Greatest Hits」とうたわれているように、Valensiaの代表曲の新録/リメイクと本作のために書かれた新曲が収録され、鈴木の希望により既発曲の歌詞のほとんどはゲームの世界観やストーリーに近いイメージで書き直されている。

 ゲーム中で使用された楽曲を完全網羅した『Air Twister オリジナルサウンドトラック』は8月19日に先行デジタル配信され、9月21日に2枚組CDで発売の運びとなった。Valensiaの音楽性の精髄が詰め込まれた本作のリリース元は、かつて所属していた〈ユニバーサル・ミュージック〉。実に23年ぶりに「古巣」へ戻る形となったことも感慨深い。

 DISC 1はヴォーカル曲を中心に収録されている。ゲームのメインテーマであり、ゲーム中のさまざまな箇所で断片的に流れる「SYMPHONY OF THE SWANS」は、Valensiaの魅力が盛り込まれた象徴的な新曲にして、QUEEN「Bohemian Rhapsody」の様式美を踏襲した絢爛豪華なロック・オペラ。

 これでもかと畳みかける多重コーラス、複雑に入り組んだ展開やアレンジを難なくこなす手腕は流石の一言だ。続く「WORLD'S GONE CRAZY」も新曲にあたり、Valensiaにとっては久々ともいえるKate Bush的なシンフォニック・バラード。包み込むような甘やかなハイトーンで虚無と絶望感を湛えた詞を歌いあげており、コントラストが際立つ。

 「AIR TWISTER」は『Gaia III・Aglaea・Legacy』収録曲「The Cabinet Of Curiosities」の新録。オリジナル版の詞は生々しくシリアスなものだったが、こちらの詞はゲームの印象をコミカルに伝えるイントロダクション的な内容になっている。「Maia」は、タイトルからも一目瞭然なように「Gaia」の正統進化形といえる8分超えの大曲。

 三拍子の曲調に、オーケストレーションと荘厳なコーラスワークを盛り込み、セルフオマージュをとことんまで突き詰めている。「滅びに瀕した星の住人たち」の視点で綴られた歌詞はゲームの世界観を見事に補完し、「Gaia」のテーマとも響き合っている。

 「Michelle Mambo 2022」「Phantom Of The Opera 2022」は、『Gaia II』収録曲の新録。祝祭的なイメージだったオリジナル版の「Michelle Mambo」と比較すると、2022版は未来的でソリッドなイメージを強めた感がある。歌詞は細かな変更が加えられているが、語感を重視したエキセントリックなイメージに変わりはない。

 たとえばオリジナル版で〈Rubber Pie(ゴムのパイ)〉と歌われた箇所は〈Butterfly(チョウチョ)〉に書き換わっている。「Bohemian Rhapsody」のアレンジ・構成・テーマ性をとことんまで突き詰めてオマージュした「Phantom of The Opera」は、『Gaia II』のハイライトを印象づけた神がかり的な一曲。それゆえに新たに付け加える余地がないともいえ、2022版はアレンジ・歌詞ともにオリジナル版を踏襲し、演奏のみリニューアルしている。

 「Into The Realm of Nature」は『Gaia II』収録曲「Realm of Nature」の大幅なリメイク。楽曲の骨子は「Realm of Nature」だが、中間部で新たなパートが追加され、そこでは日本語と英語混じりの詞が歌われるという、さながらQUEENの「手をとりあって/Teo Torriatte(Let Us Cling Together)」を彷彿させる趣向となっている。

 また、オリジナル版では〈I Wonder Why All The Seas Run Dry(どうして海は干上がるのだろう)〉と歌われる冒頭の詞が、〈I Tell You Why All The Seas Run Dry(教えてあげよう 海がすっかり干上がった理由を)〉に書き換わっており、過去のValensiaへの現在のValensiaからの返歌といった印象も感じさせ、興味深い。

 「Aglaea 2022」は『Gaia III・Aglaea・Legacy』収録曲のリメイク。「Gaia」のイメージに連なる楽曲として2009年に書かれたものの、紆余曲折を経てお蔵入りとなり、最終的に『Gaia』三部作の掉尾を飾る楽曲となった経緯をもつ。オリジナル版のエンディングパートではメロディの逆再生が挿入され、“終焉”にあたり名残を惜しむような印象をもたらしていたが、リメイク版では未来が拓けていくかのようなポジティヴな展開が新たに書き下ろされ、大団円を迎えている。

 ゲーム中で幾度となくイントロを耳にすることとなる「PRINCESS MYSTIQUE」は、『Gaia II』の冒頭を飾った「Mayke & Veronique」のリメイク。疾走感あふれる前半パートと、たゆたうような後半パートで構成された、Valensia流シンフォニック・プログレだ。

 「Blue Rain 2022」は第2作『K.O.S.M.O.S.』収録曲の新録。DISC 1のラストを飾る「Gaia 2022」は記念すべきデビュー曲の新録。ともに初期のValensiaを象徴する楽曲だが、ゲーム中では流れないため、実質的にサントラのボーナストラック的な位置づけといえよう。特に驚かされたのは「Blue Rain 2022」で、オリジナル版のサックスソロがギターソロに置き換わり、さらに尺が2分近く長くなったことで、これでもかと泣きのギターを響かせる余韻たっぷりの仕上がりとなっている。Valensiaがギタリストとしても名手であることを改めて知らしめる一曲だ。

 DISC 2はステージ間デモなどで流れるインストゥルメンタルを中心に収録され、「Act of The Silver Squid」を皮切りに、Valensiaのクラシカルな素養を如実にうかがわせる格調高いシンフォニックサウンドを聴かせる。ちなみに、荘厳なコーラスが象徴的に響き渡る「So White The Swan」「The Black Swan」は、Valensiaの初映画監督作『Spo0k』のスコアのリメイク。

 「Requiem Somnia」は、『Gaia II』の最終曲であり、Valensiaが亡き母ジャクリーンへ万感の想いを込めて捧げた「Requieme Pour Jacqueline」のリメイクである。感動的な盛り上がりをみせるヴォーカル入りの「How The World Was Won」「We Have Come Home」は、エンディングの余韻に浸らせてくれる慈愛に満ちあふれたバラードだ。

 繰り返しになるが、Valensiaの音楽性の精髄を知らしめる格好のサントラである。至福のシンフォニック・ポップを心ゆくまで堪能していただきたい。

【Air Twister 公式サイト】
https://www.ysnet.games/jp/air-twister

【Valensia 公式サイト】
https://www.valensiaofficial.com/

※1:正式タイトルは『Valensia '98 Musical Blue Paraphernalian Dreams Of Earth's Eventide Whiter Future & Darker Present Soundspheres From New Diamond Age Symphonian Artworks To Yesterday's Westernworld Rockcraft Under The Raging Nineties' Silver Promise Of The Happy Hundreds On The Break Of The New Millenium's Hazy Misty Dawn』

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