『プロセカ』は愛され続けるコンテンツへと進化していく キャラとキャストの相乗効果を感じた2周年イベントを見て

 「みんなの想い、あの子たちにも届いたみたいだよ。なんだか私も一緒に歌いたくなっちゃった。ありがとうって想い、みんなに届くように歌うね(初音ミク)」

 9月24日、立川ステージガーデンにて開催された「プロジェクトセカイ 2nd Anniversary 感謝祭」の昼公演。この感謝祭は、セガとColorful Paletteが共同開発したAndroid/iOS用ゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」(プロジェクトセカイ)が9月30日にリリース2周年を迎えることを記念したイベント。この日は特別に、ゲームの中の少年少女の声を担当する20名のうち14名のキャスト陣が登場し、朗読劇、2周年トークショー、ミニライブが展開された。

 バーチャルシンガー・初音ミクの声が降った後のアンコールのステージに奇跡的に現れたのは、初音ミク。小倉唯(花里みのり役)と秋奈(小豆沢こはね役)と初音ミクが呼吸を合わせてアンコール1曲目「ワーワーワールド」(作詞:Mitchie M、作曲:Giga & Mitchie M)を歌唱。喜びを抑えきれない様子を身振り手振りで元気いっぱいに伝える初音ミクは、この日ラストの曲となった2周年記念ソング「Journey」(作詞・作曲:DECO*27)でもキャスト陣と踊り、一人ひとりがこの日の感想を伝える場面でも、ディスプレイから笑顔のままキャスト陣の背中を見守っていた。

 そんななかで、印象深かったのが、客席のみならず、キャストも初音ミクに話しかけては、初音ミクとの共演に興奮していたこと。リアルのセカイでは、初音ミクと少年少女を演じるキャストが交わる機会はそうそうない。キャスト陣も私たちと同じ初音ミクのファンなのだ。これは中の人が出演するリアルライブでしか味わえない新たな感覚だった。だからこそ、2周年トークショーのなかで、天馬司役の廣瀬大介が「僕らも、ストーリーの先を知らないからね。更新されるたびに新しい一面を知ることができる。みなさんと同じ気持ちでキャラクターを追っているので、ぜひ見守っていただけたらなと思います」と話していたのも印象的だった。ここでは、キャスト陣とファンが力を合わせることで全員でプロセカを応援したい。そんな気持ちが加速した。

 この日の始まりを告げた朗読劇では、用意されたオリジナルの台本を読むキャスト陣の姿があった。ユニットを横断した生の声。アドリブのセリフも入るとキャスト陣の緊張が解け、会場の熱気は高まりを見せた。何度も披露してきたかのように驚くほどに呼吸の合った掛け合い。また、朗読劇の後に続いたトークイベントでは、裏話として、コロナ禍でのコミュニケーション不足を危惧したスタッフがプロセカの収録スタジオに自由帳を置いたことからキャストやスタッフによる連絡網が始まり、さらにはプロセカの曲を書き下ろした作家もその自由帳にコメントを書いてくれるようになったとの話が浮上した。それを「ユニットの垣根を超えたコメントが増えた」と話す東雲彰人役の今井文也。朗読劇の息の合った演技に加え、キャスト同士が幼馴染かのように自然なコミュニケーションを取れていたのは、日頃のスタッフによる配慮を含め、それぞれが些細なコミュニケーションを取り続けていたことによるものが大きかったといえるだろう。

 好きな楽曲を話し合っては、ストーリー内のお気に入りの場面を話し合うシーンもあり、伊東健人が自身の演じる青柳冬弥の大事な一歩を親目線で語っていたのが、記憶に残っている。このシーンからは伊東健人のみならず、キャスト陣がプロセカの少年少女を家族のような存在として想っていることが伝わった。ミニライブの演出における振付は、細かなキャスト陣の意思も反映されているという。傍から見ればゲーム内の少年少女のステージを最高のものにしようと努力するのは、そこに愛があるから。プロセカはすでにこのキャスト陣なくしては成り立たない。この日聴くことができた丸みを帯びた歌声をはじめとしたキャスト陣の表現力の高さは、練習の成果ももちろんあると思うが、それ以上にプロセカの少年少女への愛情が彼らの中で常に育まれていることの証といえる。

 公演内容としては最後になるミニライブも、ゲーム内の少年少女と同様にユニットごとにカラーが出ていて、期待を優に超えるパフォーマンスとなった。小倉唯、吉岡茉祐(桐谷遥役)、本泉莉奈(日野森雫役)の所属するMORE MORE JUMP!は、コール&レスポンスで盛り上がるポップな紹介曲「アイドル新鋭隊」(作詞:作曲:Mitchie M)、ゆったりとした時の流れを感じる「アイノマテリアル」(作詞・作曲:Junky)を歌う。フューチャーベースに加え、重低音のエッジが効いたEDMサウンド「RAD DOGS」(作詞:q*Left、作曲:八王子P)、空を切るようにポジティブな未来を描く「Flyer!」(作詞・作曲:Chinozo)を披露したのは、秋奈、鷲見友美ジェナ(白石杏役)、今井文也(東雲彰人役)、伊東健人の所属するVivid BAD SQUAD。

 ステッキを使った演出がハイライトの「potatoになっていく」(作詞・作曲:Neru)、急ぎ足のメロディーが流れる「トンデモワンダーズ」(作詞・作曲:sasakure.UK)を歌う廣瀬大介(天馬司役)、木野日菜(鳳えむ役)、Machico(草薙 寧々役)、土岐隼一(神代類役)の所属するワンダーランズ×ショウタイム。3ユニットのパフォーマンスから、細かな手足の動作までゲームの中の少年少女を意識したと思わせる演技力の高さを見ることができた。「アイノマテリアル」を歌い終えた後に「モモジャンと同じ景色を見ているなって」と本泉莉奈による言葉もあったように、彼らの後ろにあるディスプレイに映る3DMVのなかのバーチャルな少年少女の振付とステージ上のリアルなキャスト陣の振付が重なったときが、とくにエモーショナルだった。

 普段は表に出てこないキャスト陣にも、たくさん感謝をする機会が与えられたそんな1日だったと思う。ストーリーが紡がれるほどに少年少女が成長し、リアルなキャスト陣の表現力もより人間らしさを帯びる。そしてまた、プロセカに愛着を持つ人が新たに増えていく。そんな相乗効果が生まれるなかで、プロセカはこれからも愛され続けるはずだ。

■セットリスト
1 アイドル新鋭隊 作詞:作曲:Mitchie M 小倉唯、吉岡茉祐、本泉莉奈 
2 アイノマテリアル 作詞・作曲:Junky 小倉唯、吉岡茉祐、本泉莉奈 
- MC  MORE MORE JUMP! 
3 RAD DOGS 作詞:q*Left、作曲:八王子P 秋奈、鷲見友美ジェナ、今井文也、伊東健人 
4 Flyer! 作詞・作曲:Chinozo 秋奈、鷲見友美ジェナ、今井文也、伊東健人 
5 potatoになっていく 作詞・作曲:Neru 廣瀬大介、木野日菜、Machico、土岐隼一 
6 トンデモワンダーズ 作詞・作曲:sasakure.UK 廣瀬大介、木野日菜、Machico、土岐隼一 
7 どりーみんチュチュ 作詞・作曲:emon(Tes.) 小倉唯、吉岡茉祐、本泉莉奈 
8 オルターエゴ 作詞・作曲:Misumi 秋奈、鷲見友美ジェナ、今井文也、伊東健人 
- MC  25時、ナイトコードで。 
9 神のまにまに 作詞・作曲:れるりり 廣瀬大介、木野日菜、Machico、土岐隼一 

アンコール
10 ワーワーワールド 作詞:Mitchie M、作曲:Giga & Mitchie M 小倉唯、秋奈&初音ミク 
11 Journey 作詞・作曲:DECO*27 オールキャスト&初音ミク

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