芸術顕彰の役割と意義とは? 文化庁『メディア芸術祭』終了によせて

文化庁『メディア芸術祭』終了によせて

時代とともに変容してきたメディア芸術祭を振り返るには

 今後、公式サイトなどもいつ閉鎖されるかわからない。同祭のこれまでの歩みを記憶しておくためのリソースも紹介しておこう。

 筆者たちもゼロ年代を中心に同人ゲームやなろう系小説、フラッシュ動画などのWebコンテンツのアーカイブを作成しているが、失われた記録のサルベージには雑誌やCD-ROMなどのアナログメディアが役立っている(※13)。『メディア芸術祭』も毎年度の目録や関連書籍を刊行しており、それらは古書店やオンラインで今でも入手可能だ。

 メインとなるのは『文化庁メディア芸術祭 受賞作品集』(文化庁メディア芸術祭実行委員会)で、kindleなど向けに第16回から第25回までが無料で公開されている(※こちらも電子書籍版は予告なく削除される可能性がある。※14)。各回400ページほどあり図版も多いが、そのぶんファイルサイズが大きいので注意されたい。

 第1回から第15回については、ダイジェスト版ではあるが『メディア芸術アーカイブス 15 YEARS OF MEDIA ARTS』(古屋蔵人ほか編、ビー・エヌ・エヌ新社、2012年)にまとめられている。こちらは草原真知子(メディアアート)やばるぼら(ネット文化)など、各分野の有識者による2012年時点での総括が掲載されており、ちょうど10年後の現在の状況と読みくらべると環境の変化がわかって面白い。

 『TOKYOメディア芸術オフィシャルガイド「文化庁メディア芸術祭20周年企画展―変える力」ガイドブック』(現代企画室、2016年)は20周年の記念号で、文化庁協力のもと先の『メディア芸術アーカイブス』と同様に過去回の振り返りや、本田翼など著名人へのインタビューを掲載している。作品だけでなく20周年記念の主催・協力イベントについてもまとめられているので(「ガンダムカフェ」や「GAME SPOT21」などの在りし日の姿も)、そうした記録の面でも重要な一冊だ。

 『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム from 1989』(国書刊行会、2015年)は、2015年に国立新美術館で開催されたイベントの図録で、メディア芸術祭と直接のかかわりはないものの、『Wii Sports』のように同祭の受賞作品がとりあげられていたり、さやわかのように両方にかかわる人物がいたりする。こうしたイベントもまた、今後「メディア芸術」にかんするコミュニケーションの場として期待される。上記の図録と本書をあわせて読めば個々の作品の理解が深まるだけでなく、同時期のエンタメ・アニメ作品が官庁主導のメディア芸術祭と“館”主導の本イベントにおいてそれぞれどのように位置づけられていたのかも、より立体的に把握できるだろう。

図3. ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム展にて(2015年、筆者撮影)。

おわりに

 文化庁メディア芸術祭は、メディアアートの上位カテゴリとしての複数形の「メディア芸術」という政策的な括りのなかで、四半世紀のあいだ手探りで発展してきた。設立当初にみられた非伝統的なアートと伝統的なそれとの社会的な評価の差が少なからず埋められた今日、一度その存在意義を問い直そうとする文化庁などの考えもかならずしも理解できないわけではない。

 しかし同祭廃止後の受け皿となる場が適切なのかが不透明な状態で、現場の意見も十分に斟酌しないままなし崩しに消滅させてしまえば、製作者・支援者・鑑賞者を失望させることは避けられない。のみならず、文化庁みずからが政策目標として掲げている「クールジャパン」戦略の推進とも矛盾することになる(※15)。

 折しも16日から26日まで、最後の「祭」がひらかれる。この機会にあらためてメディア芸術祭の意義を考えてみることは、次の一手への有効な準備と思われる。本稿で紹介した書籍なども参考に、ぜひ今一度その軌跡を辿ってみていただきたい。

■メディア芸術祭第25回作品展
日本科学未来館ほか
2022年9月16日(金)- 26日(月)10:00-17:00(20は休館)
入場無料(混雑時は予約者優先)
https://j-mediaarts.jp/festival/?fbclid=IwAR3DaO14cCszwh6cAR8KUjrzuTx_uAwErrmkeLc0I3NO1me0QqT3KJ-S120

〈注釈〉
※1:「令和4年度文化庁メディア芸術祭について」 https://j-mediaarts.jp/news/r4/(2022年8月25日閲覧)
※2:「メディア芸術祭について」 https://j-mediaarts.jp/about/ (2022年8月25日閲覧) 第6回まではアートとエンターテインメントではなく、デジタルアート(ノンインタラクティブ)と同(インタラクティブ)だった。
※3:「文化庁メディア芸術祭高知展「ニューツナガル」」 https://kochi2021.j-mediaarts.jp/ (2022年8月25日閲覧)
※4:文化庁「クールジャパン推進に係る文化庁の主な取組」https://www.cao.go.jp/cool_japan/kaigi/renkeirenraku/4/pdf/siryou4-10.pdf(2022年8月29日閲覧)
※5:内閣府「クールジャパン戦略リンク集」 https://www.cao.go.jp/cool_japan/link/link.html (2022年8月29日閲覧)
※6:読売新聞「「もののけ姫」「バガボンド」も大賞受賞の文化庁メディア芸術祭、第25回で終了」 https://www.yomiuri.co.jp/culture/20220825-OYT1T50183/(2022年8月25日閲覧)
※7:朝日新聞「文化庁メディア芸術祭、終了へ 今年度の作品募集せず「役割終えた」」 https://www.asahi.com/articles/ASQ8S6VTBQ8SUCVL03C.html(2022年8月25日閲覧)
※8:たとえば、ITmedia NEWS「「メディア芸術祭」が25年の歴史に幕 なぜ終了するのか文化庁に聞いた」  https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2208/25/news150.html(2022年8月25日閲覧)。
※9:白井暁彦「メディア芸術祭公募展中止、理由がわからなかったので徹底的に調べてみた。」 https://note.com/o_ob/n/nb83d7e6a2bea(2022年8月29日閲覧)
※10:https://twitter.com/nakazawahideki/status/1562883945166802944(2022年8月29日閲覧)
※11:朝日新聞「文化庁芸術祭贈賞を廃止へ」2022年8月31日。
※12:ARS ELECTRONICA JAPAN 「Cultural Initiatives」 https://ars.electronica.art/japan/jp/initiatives/cultural/(2022年8月31日閲覧)
※13:「「ゼロ世代」WEBコンテンツ保存プロジェクト」(https://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/app/newarc/news/download/17_takenaka_arc_day_2020.pdf)として2019年から継続しており、現在はこの報告時とはやや建てつけが変わっているが、データ数27,000件程度のベータ版DBを近日公開予定。
※14:文化庁メディア芸術祭「受賞作品集」https://catalog.j-mediaarts.jp
※15:朝日の記事では、公募停止の理由として「今後は国際的な発信により力を入れていく局面ではないか」と文化庁の担当者が述べているが、前述のとおり文化庁は少なくとも官邸向けにはメディア芸術祭を対外発信の主要なプラットフォームとして位置づけてきた。

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