知性と面白さが同居するコンテンツを作る“難しさ”とは? 気鋭の音声番組『ゆる言語学ラジオ』に聞く

『ゆる言語学ラジオ』に聞く、コンテンツを作る“難しさ”

 コロナ禍の影響もあり、ここ数年でPodcastやインターネットラジオ、音声SNSなど“音声”を軸としたサービスが増加し、ユーザー数を増やしている。そんな広がりを見せ始めた音声メディアや音声SNSについて、有識者に未来を予想し考察してもらう連載企画「声とテクノロジーで変革する“メディアの未来”」。

 「ゆる言語学ラジオ」は2021年3月にYouTubeチャンネルとして開設され、わずか1年ほどでチャンネル登録者数が14万人を超えた。

 「ゆるく楽しく言語の話をする」というコンセプトのもと、堀元見と水野太貴の絶妙な掛け合いによって“エンタメ”まで仕立て上げる。

 独特の世界観や魅力が支持され、ニッポン放送主催のPodcastアワード『第3回 JAPAN PODCAST AWARDS』ではベストナレッジ賞とリスナーズチョイスの2部門を受賞し、

 その存在を大きく知らしめた。

 ゆる言語学ラジオのプロデューサーとして、コンテンツ企画から戦略を考える堀元見に、ポッドキャストの可能性や音声コンテンツの未来について語ってもらった。(古田島大介)

出会いのきっかけは「ご飯をおごってくれる方はいませんか」というつぶやき

 ゆる言語学ラジオを運営する堀元見と水野太貴との出会いは、堀元のとあるTwitterでのつぶやきから始まった。

 「誰か今日のご飯をおごってくれる方はいませんか」

 そんな何気なしのツイートに反応したのが水野だった。

 堀元がブログやnoteで書いていた記事を、水野は以前から読んでいたのだ。

堀元見

 「水野は僕が『ご飯おごってくれる方はDMしてほしい』というツイートする機会を伺っていたみたいで。実際に会って話してみると、お互いよく喋るしハイコンテクストな会話ができるし。話題に対し、的確に切り込んでくる性格は僕とすごく相性が合ったんですよ。初対面にも関わらず、話していくうちに自然と意気投合していきましたね」

 堀元のふとしたツイートが、水野を引き寄せたのだ。

 そこから構想が膨らんでいった企画がゆる言語学ラジオだった。

 「水野と出会ったのが2020年末で、そこから『ポッドキャストアワードを獲ろう』とラジオの枠組みを決めていきました。お互いの共通点として二人とも言葉にうるさく、文章に厳しいんですよ。だからこそ、お互いが掛け合うことで知的好奇心をくすぐるようなものが、一番の盛り上がりポイントになるのではと考えていました。そこをラジオで発信すれば絶対面白くなると思っていましたね」

知的で面白くおかしく喋る独自性の高さが人気の秘訣

 こうして2021年1月にポッドキャスト番組『ゆる言語学ラジオ』を開始。

 同年3月にはYouTubeチャンネルを開設し、本格的に活動をスタートすることに。

 「ゆるく楽しく言語の話をするラジオ」というコンセプトのもと、言語オタクの水野と作家の堀元が繰り広げる“ありそうでなかった”コンテンツは多くの視聴者に刺さり、一躍人気を博すようになっていく。

 気づけば、わずか1年で目標に掲げていた『JAPAN PODCAST AWARDS』を受賞し、さらにはYouTubeチャンネルの登録者数も14万人を誇るまで成長を遂げた。

 一体なぜ、これほどのスピードで駆け上がることができたのか。

 堀元は「既存の芸人や有識者によるラジオは、面白く喋るか、知見を開設するかのどちらかがメインになっていて、知的にかつふざけて喋れる人が今までいなかったから」と説明する。

 「僕たちにしかできない、知的で面白おかしく喋るラジオのコンテンツを見出せたことで、多くのファンの方に注目いただくきっかけになったと感じています。また、テレビ番組では瞬間の面白さが求められて、ローコンテクストな笑いが受け入れられる一方、ポッドキャストやYouTubeといった尺が長く取れる番組は、テレビでは絶対にできない深い話や意味のある話を、時間をかけて喋ることができる。ゆる言語学ラジオに集まってくるリスナーは、ハイコンテクストな状態でコミュニケーションが成り立つ教養や知識を持っていることが多く、受け入れやすかったのも要因になっています」

 また、「言語」を駆使した新たなエンタメコンテンツの領域を切り開いたことも、ファンを増やす大きな要因になっているという。

 「学際的でとっつきにくさのある言語のネタは、視聴者が具体的にイメージしにくいと再生数は伸びないんです。身近な問いであればあるほど興味関心を惹き、もっと深く知りたいと思うわけです。『「象は鼻が長い」の主語は象?鼻?』や『「鬼」と「改心した鬼」は数え方が違う』といったコンテンツはその最たる例であり、反響もすごくよかった。ただ大事にしているのは、水野が素直に面白いと思ったのを題材にすることです。そういう意味では『再生数』よりも『面白いか面白くないか』を念頭に置きながらコンテンツを作ってきたと思いますね」

あらゆるコンテンツは時間が経つにつれて先鋭化していく

 良質なファンコミュニティを形成する上では、“内輪ノリ”の一部だけが盛り上がるコンテンツを作っても、参加するのに敷居が高くなってしまうだろう。

 一方で、ファンに支持されるコンテンツを作ろうと意識するあまり、ポピュリズム(大衆迎合)に走ってしまえば今度は純度が低くなってしまう。

 コアでニッチな層を狙いつつも、ゆる言語学ラジオらしさや純度の高いコンテンツを追求し、フラットな視点を意識し続けてきたからこそ、その魅力に共感するファンが多く集うようになったのではないだろうか。

 「ハイコンテクストな面白さを求めている狭い層を狙ったコンテンツを作っているので、人の目を気にせず、自分が面白いと思うものだけをクリエイトしている人と気が合うんです。例えば、漫画家の施川ユウキ先生やSF作家の柞刈湯葉先生が出す作品はすごく参考にさせていただいています。“狭いあるあるネタ”を、知的な笑い話として語られるか。いかに知識や教養を使いながら、面白おかしくできるかを常に心がけています」

 音声コンテンツが台頭し、さまざまなジャンルのラジオやPodcastが登場してきたなか、今後はどのような変遷を辿っていくのだろうか。

 堀元は「あらゆるコンテンツは時間が経つにつれて先鋭化していく」と話す。

 「これからは、中途半端なものは駆逐される時代になると思います。なんとなくファンに受け入れられるように作ったとしても、受け入れられずに廃れていくでしょう。明確なターゲットや主旨を持ち、振り切っている番組がコアなファンを獲得し、長く続いていくと考えています。世の中のエンタメコンテンツは、なぜか物知りでない人に寄せがちになっていて、ローコンテクスト化している。先鋭化させずに分かりきった解説を長々と続けるコンテンツを見ると、僕は具合が悪くなってしまうんですよ(笑)。そうならないように、ゆる言語学ラジオでは知的レベルを統一し、僕たちと近い層のファンが気持ちよく聞けるように意識していますね」

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