『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』を文化人類学者が分析 人間の未来を考えるトークイベント「Cinema未来館」レポート
1995年に公開され、今なお私たちの未来に示唆を与えてくれる映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』。この映画で人間の未来を考えるトークイベントが、8月11日、日本科学未来館で開催された。
映画を鑑賞した後、研究者を招いてトークセッションを通して考えを深めることを主旨とする「Cinema未来館」の3回目となる本セッションは、同館開催中の展示会「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?(8月31日まで開催)」に合わせて企画された。ロボットとの関係性を通して、変わりゆく人間の「からだ」「こころ」「いのち」に目を向け、「人間とはなにか?」を問いかけるこの展示会に合わせて、同様の問いかけを投げかけた『GHOST IN THE SHELL』でのトークセッションを開催することにしたそうだ。
ゲストスピーカーは、テクノロジーの人類学を研究テーマにしている文化人類学者の久保明教氏。ファシリテーターは同館所属の科学コミュニケーター宮田龍氏が務め、熱のあるトークが展開された。
トークは同作の上映後に行われた。宮田氏は参加者に、本作が公開された27年前の年齢をアンケートした結果、最も多い回答は10歳未満、まだ生まれていなかったという人もかなり多かった。
今回のトークテーマは、「テクノロジーによって"わたし"は何者になるのか?」というもの。それに沿って久保氏は作品内の描写と現代社会を対比させるトークを展開した。
久保氏は、同作について「仮想と現実がはっきり分かれている世界」だと指摘した。例えば、犯罪者が逃走するルートを電脳空間で示す緑色のフレームが特徴的なシミューレ―ション空間と、猥雑な雑踏シーンが対比的で、当時はそんなアナログなものと未来のハイテクなものを結びつける快感があったのではないか久保氏は語る。
翻って、2022年の現代社会はかつて仮想空間だったものが現実化、あるいは公共化していると久保氏は語る。2000年代前半くらいまでは、インターネットはアングラな「便所の落書き」空間であったが、SNSの台頭で現実と地続きになり、公共空間化して現実との区別がなくなってきていると指摘した結果、ネットで起こる炎上も社会的に無視できなくなっているのが昨今の変化だといえる。
その他、ゴミの回収業者が偽の記憶を植えつけられ操られているエピソードがあるが、公開当時なら起こりえないことなので衝撃的だったはずだが、今ではそこまで衝撃的なものにならないのではないかと久保氏は話す。
偽の記憶で妻と娘がいると信じる回収業者は、真実を受けてショックを受けるが、現代社会では本当の人格なのか虚像の人格なのかはどちらでもいい状態になってきており、そして、虚像から抜けて現実に帰るというのは2000年代までなら物語としてあり得たが、今は異世界転生ものに代表されるように、現実に戻るかどうかは問われない物語が台頭していると指摘した。