大きく有利だった試合が「バグ」で仕切り直し……LJL再試合問題から考える“公平なeスポーツ”の難しさ

 あらゆるスポーツは、決められたルールに対して必ず公平にプレイされるべきだと信じられている。

 しかし、現実世界を支配する法というルールに同じく、ゲームのルールは完璧ではない。選手がルールの裏をかいてドーピングしたり、審判がルールを間違えて誤審する時もある。そしてeスポーツーービデオゲームを用いたスポーツにおいては、時としてゲームを動かすプログラムそのものがバグを起こしてゲームを壊してしまうことがある。

 2022年8月5日、『League of Legends』(以下、LoL)の日本公式リーグ「League of Legends Japan League」(以下、LJL)の16日目、第4試合にて、DetonatioN ForcusMe(以下、DFM)とSengoku Gaming(以下、SG)の対戦が行われた。LJLは国内eスポーツシーンにおいても多くの視聴者を集める人気リーグであり、Twitchの同時視聴者数だけでも15000~20000人ほどが集まる。

 さらにこの試合のカードは、リーグ1位のDFM vs リーグ2位のSGのマッチであり、8月24日からLoLの世界大会「Worlds Championship」(以下、Worlds)への出場権と賞金1000万円をかけて予定される「プレイオフ(決勝戦)」の前哨戦として注目を集め、最大同時視聴者数は24000人を超えた。もちろんDFMとSGの両者にとって、この試合は絶対に負けられない重要な一戦となった。

 かくして衆人環視のなか、決戦の火蓋が切られると、あっという間にDFM側が趨勢を占めた。試合開始から2分20秒、DFM・Harp選手の使う「モルガナ」がSG・Vital選手の「アフェリオス」を補足し、キルを奪取。そこからさらに15分57秒経過した時点ではSGが22600ゴールドを獲得したのに対し、DFMは32400ゴールドを獲得。SGが1キルに対し、DFMは9キルを奪うなど、DFMが圧倒的な有利を築いた。

 ここで『LoL』を知らない方に向けて簡単に説明すると、『LoL』は5対5のチームゲームであり、その最大の特徴は、160体以上のチャンピオンと呼ばれるキャラクターから1プレイヤーが1人ずつ選択することである。チャンピオンはそれぞれ役割、性能、個性が全く異なり、さらに敵味方の「相性」まで考慮すると、常に「最強」のチャンピオンは存在しない。かくしてチームの戦略を考え、それに最適なチャンピオンを「ピック」することが重要となるのだが、一方で試合開始前にお互いのチャンピオンを5体まで使用禁止=「バン」することもできる。自分たちの考える最強の構成を「ピック」しながら、同時に相手の構成は「バン」で妨害するという一連の作業、ゲーム用語でいう「ドラフト」が、このゲーム最大の肝となる。

 そしてDFMのドラフトがSGを大きく上回ることで、実際に試合を有利に進めることができた。中でも、DFMのHarp選手が選んだ「モルガナ」はまったくノーマークのチャンピオンで、分析サイト「Games of legends」によれば、今季LJLで一度も使われていない。まさに対SGとして見事な秘策だった。解説のRecruit氏も、モルガナはSG側がピックしたサポート、「アリスター」に対するハードカウンター(対抗馬)だったと分析している。

 かくして「ドラフト」で見事裏をかくことに成功したDFMは、試合の序盤、Harp選手のモルガナと、Steal選手のウーコンを中心にゲームを序盤から動かす。15分57秒までに奪った9キルのうち8キルがモルガナが関与するものだった。

 しかし問題は試合開始から15分57秒の時点に起きた。この時点で突如、試合がポーズ(中断)。その後、試合が再開されたのは、なんと日付の変わった2時間40分後だった。しかも、DFMが圧倒的に優位な状況でありながら、なんと最初から試合をやり直すことが決定された。当然ながらコメントは騒然となり、TwitterなどSNSでも混乱の声が広がる。

 一体何が起きたのか。

バグが原因で再試合に

 LJL運営は後日、以下のように発表している。

・Once選手の使用するポッピーがデスした後に、デスタイマーが発生せずに即時復活をしてしまうバグ(「バグ1」とする)が発生した。
・対処として、Once選手に本来発生すべきであったデスタイマーの時間分をベースで待機していただく対応を選択する。
・その後、試合が再開されたもののポッピーのパッシブが発動しないという別のバグ(「バグ2」とする)が発生した。
・協議の結果、バグ2発生前の「エコー(SG)がキルされた時点」へのクロノブレイクを複数回試みたが、ゲームデータに破損が確認されたため、ゲームのクロノブレイクによる修正は不可能と判断した。
・判定による勝敗決着を検討するも条件を満たさないと判断し、再試合を決定した。

 要約すると、同じ試合に2つもバグが発生してしまったことにより、一度試合を中断したということである。またその際、「判定による勝敗決着」に関しても検討されたが、「”一方のチームの勝利以外の結果となる展開が一切想定できない”状況ではない」と判定し、再試合となったと運営は主張している。

 ただ再試合に際して、ドラフトまで仕切り直す必要があったのか、LJL運営の対処は正しかったのか、といったことはともかく、試合が仕切りなおされてしまった原因は、人間にはどうしようもない「バグ」にある。今回バグの原因は「ポッピー」というチャンピオンと、「へクスフラッシュ」というルーンにあったわけだが、この「バグ」が発生したのは実は今回だけでない。8月5日、韓国のプロリーグ「LCK」におけるDRXとNongshim RedForceの対戦においても、実は似たようなバグが発生していたのである。

https://clips.twitch.tv/CuteThirstyWrenchBibleThump-971qMNYLzPmhRFqq

 このクリップには克明に残されているが、このバグが一度発生すると、死んでしまったキャラクターが本来数十秒待つべきルールのところを、一瞬で復活してしまう。たしかにこれはとんでもないバグだし、LJL運営の発表にもある通り、このバグで復活してしまうと持っていた武器が使えなくなるなどの副作用まで発生するようだ。

 またバグによって試合が中断した例は今回ばかりでない。有名な例は世界大会「Worlds」におけるアメリカ「TSM」と中国「Royal Never Give Up」との再試合だろう。こちらは「オレリオン・ソル」というチャンピオンのスキルが透明になってしまうというバグにより再試合が行われた。幸い、開始1分程度で発見されたので大した問題にならなかったが、各国の代表が集まる世界大会でもバグによる再試合は起こりうるのだ。

TSM vs RNG Bug - Worlds 2016 Group D - Team SoloMid vs Royal Never Give Up

 今回、LJLにおける最も重要な一戦、それもDFMが圧倒的に有利な状況にありながら、バグというビデオゲーム固有の現象により最初から仕切り直されてしまったこの一戦は、まさにeスポーツが抱える固有の課題を浮き彫りにした。特にDFMの選手たちにとってはあまりにも悔しく、納得しがたい再試合であり、またSGの選手にとっても大きな負担となったことは、言うまでもない。

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