特集:テックとアイドルのシナジー(Vol.2)
BTSをキャラクター、ウェブトゥーン、NFTで次々IP展開 韓国HYBEに聞く「ファン体験の拡張」とは
韓国から生まれ、世界で活躍するボーイズグループ・BTS。彼らをはじめグローバルスターを多数輩出するBIGHIT MUSICを傘下に置くエンターテイメントライフスタイルプラットフォーム企業として注目を集めるのがHYBEだ。韓国、アメリカ、日本の本社で9つのレーベル、IPやコンテンツなど7つの事業部、グローバルファンプラットフォームの「Weverse」を展開し、傘下にはBTSのほかTOMORROW X TOGETHER、ENHYPEN、SEVENTEEN、LE SSERAFIMら人気アーティストを多数抱える。
HYBEはアーティストのプロデュースだけでなく、IP(知的財産)・コンテンツ事業の手腕も高く評価されている。世界中のファンに届けられるよう、テクノロジーやデジタルツールでIPを拡張し、音楽活動だけでない幅広い活動を可能にしているのだ。アーティストとIP・コンテンツ事業について、HYBEに話を聞いた。(臼井杏奈)
BT21、TinyTANはどのように生まれた?
HYBEが手がける代表的なキャラクターが、BTSに関連したBT21とTinyTANだ。BT21は2017年にIPX(旧LINE FRIENDS)とのコラボレーションで誕生したキャラクターで、BTSメンバーたちがルックスや名前、性格などのキャラクター構成に直接参加して誕生した。
一方、HYBEが企画・開発したTinyTANは「BTSの第二の自我が発現した」というコンセプト。キャラクター自身は“BTSの第二の自我”であることを知らないままアーティストBTSのファンとして、前向きな影響力を発揮するという面白い設定だ。YouTubeで公開されたTinyTAN初のアニメーションは、約7,500万再生回数を記録し、シリーズ3編ともに6,500万再生回数を突破した(2022年4月5日時点)。
2020年8月のキャラクターローンチと同時にP&Gの柔軟剤「ダウニー(Downy)」の広告モデルを務め、現在はフィギュアや玩具類ブランド、フェイスブックメッセンジャー、メタバースプラットフォーム「ZEPETO」など多様なブランドとコラボする。日本では今年、バンダイ、セガ、タカラトミーアーツの3社を通じて約300種を超えるライセンス製品の発売を控えているという。
これまで最も反響があったのはYouTubeで公開されたTinyTANのアニメシリーズで、「第1弾の動画では、公開から24時間で800万回の再生回数を記録しました。この動画を通してTinyTANに対するファンの方々の愛情が形成され、その支持をもとにキャラクター拡張事業も活発に展開することができたと考えています」(HYBE担当者)。
またHYBEの担当者は「キャラクターはアーティストの影響力とファン経験を拡大するIP拡張コンテンツ」だと語る。IPはアーティストの活動時期と関係なく、それ自体が独自の魅力を持ち、活動を広げていくことができるのだ。
「ファン体験を拡張するコンテンツ」とは何か
HYBEの担当者によると、ファンは日常のいたるところでアーティスト関連のコンテンツを楽しみたいと考えているという。たとえば日本では「紅茶花伝」のCMにTinyTANが起用され、日常的にキャラクターに接する機会が増えた。
「日本市場はキャラクターや2Dアイドルなど、実在の人物ではない“仮想のIP”を活用した拡張産業が活性化していますが、BTSのようなグローバルな影響力を持つ実在のアーティストのキャラクター拡張事業を展開するケースは多くないので、ファンの多様なニーズをすべて満たしているTinyTANはより成功を収められているようです」(HYBE担当者)
アーティストやファンのアイデアを加える、というのもHYBEの特徴だ。たとえばSEVENTEENは、グッズに過去コンテンツのストーリーを引用。HYBEの自社バラエティーコンテンツ「Going SEVENTEEN」内でメンバーが機転を利かせて演奏し、ファンの間で話題になった韓国の伝統楽器・ソゴを公式グッズとして展開。コロナ禍で歓声を上げられない代わりに応援ツールとして使えるように、ファンミーティングに合わせてリリースし、大きな話題となった。
[2022 CARAT LAND] Sogo (Small Drum)
HYBEはゲーム領域でもコンテンツを展開している。モバイルリズムゲーム『Rhythm Hive』はHYBE傘下アーティストの楽曲をベースに、さまざまな形態のゲームプレイ、アーティストの肖像を活用したコレクションブック、アーティストのボイスパックが追加された購読商品「ファンプラス(FAN Plus)」などのコンテンツを提供する。
「最近ではアーティストの肖像を活用した新要素、“アーティスト別ダイアリー機能”を追加しました。ユーザーはダイアリーの表紙や中の台紙、バインダーを選択し、保有するコンセプトフォトやパフォーマンスカード、アーティスト肖像を活用したステッカーでカスタマイズできます」(HYBE担当者)
同時に、ダイアリーの共有や他ユーザーのダイアリーへの“いいね”、スクリーンショットモードの撮影でアクセス履歴を残すといったSNS機能を加え、ユーザー同士の交流を促す。
さらに6月にはアーティストIP基盤の新しいゲーム「BTS Island:インザソム」がサービス開始となった。このゲームは開発段階からアーティストが参加し、多様なアイデアが反映されている。先行予約受付では3日で100万人を突破、正式リリース後にはわずか3日でデイリーユーザー数(DAU)が200万人を超え、グローバルユーザーたちから爆発的な人気を得ている。
このように展開するアーティスト間接参加型のさまざまな事業は、「安定した収益構造により、アーティストは最も重要な音楽や舞台に集中でき、ファンはより豊かな体験を得られるようになります」(HYBE担当者)といい循環を生んでいる。