『ファイアーエムブレム 風花雪月』はいかにして偉大なストーリーテリングを達成したのか 「無双」発売前に振り返る

『FE風花雪月』は偉大なストーリーテリングを達成

 次は舞台となるフォドラの文化の奥深さと社会問題に着目したい。本作では人々の信仰の対象となる、セイロス聖教会が存在する。その信仰は人々と3つの陣営に秩序をもたらしているが、同時に社会に対する枷にもなっている。たとえば紋章を重視する社会を築いた結果、階級社会が生まれ、紋章を持たない者は家族内でも邪険に扱われたり、貴族は紋章を持つものを養子や家族に迎えることで、家の格を保とうとする、といったように。

 ほかにも、民族に対する差別も存在する。ダスカー地方の民はかつて王国の暗殺事件に関与したとして、忌み嫌われる民族となってしまっており、フォドラという強力な国があるからこそ、外の世界や国を下に見て、差別する風土ができてしまっている。この社会性は現実社会でも重要な差別問題につながっており、単なる絵空事ではないと考えさせられた。

 その社会を変革しようと奮闘するのが、主人公のパートナーとなる級長の目的だ。学級の級長であり、戦争では各陣営のリーダーとなるキャラクターたちには、それぞれの目的と譲れない正義があり、各ルートによって、物語のテーマも変わる。

 金鹿の学級と同盟領を率いるクロードは、飄々とした異国風の少年だ。このルートでは物語の謎の多くが明かされていくルートとなる。クロード自身に流れる他国の血縁の影響もあり、舞台となるフォドラのみならず、広い視野から開かれた世界を模索する形となる。要約すると、フォドラの地にこびりつく過去の因縁を解き明かし、開国を促し、新しい時代を迎えるルートというわけだ。

 黒鷲の学級と帝国領を率いる皇女であり、ヒロインでもあるエーデルガルトは、紋章という血筋や生まれ持った特別な能力、そして宗教が支配する世の中を否定し、変革をもたらすために戦争を開始。作中では多くの人が歪みとして苦しめられている紋章を基にした階級社会、そしてそれを生み出す教会に対して、力での変革を求めていくルートとなり、ともすれば悪役と見えてしまう彼女の思いを知ることができる。

 青獅子の学級と王国を率いるディミトリは、自身が味わった両親の暗殺事件がトラウマとなり、無闇に戦争を引き起こしたエーデルガルトへの復讐のことばかりを考えていく。しかし、彼のルートをプレイすると、社会の変革以上に難しいかもしれない、人間の内部の変化を描いていることが伝わってくる。物語の最後に流れるムービーこそが、彼の本来の姿であり、様々な思いがよぎるのだ。

 クロードは開国による革新を、エーデルガルトは力による革命を、ディミトリは個人の改心による変化を。それぞれ方法が異なるものの、目的は似ていた3人が、協力し合う誰もが幸せになるルートは作中ではなかった。だからこそ、苦しい思いを抱えつつ、プレイヤーは様々な思いを巡らせ、それぞれの正義と行いに心を乱しながらも、応援する名作となりえたのだ。

 そして、6月24日に発売される『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』は、その“もしも”が叶うかもしれない。しかし、その代わりに現在発表されているPVでは、敵キャラクターとして主人公であったベレト・ベレスが敵として対立する可能性を示唆している。今度も一筋縄ではいかないストーリーとなりそうだ。

 明確な悪がいて、それを倒せば世界は平和になる……そんな単純な物語であれば、ここまで多くの人に愛される名作にはならなかった。何度もプレイして、各々のルートをクリアして、会話でキャラクターを知るほどに、敵になり対立する苦しさを知る。プレイヤーとしての自分は誰の正義について行きたいのか、それを考えるきっかけになるかも知れない。この最先端の物語を、いまからでもぜひ味わってほしい。

(c)2019 Nintendo / INTELLIGENT SYSTEMS Co-developed by KOEI TECMO GAMES CO., LTD.

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