eスポーツで礼儀作法は身に付く? 「eスポーツ部」顧問の先生に話を聞いた

eスポーツで礼儀作法は身に付く? 「eスポーツ部」顧問の先生に話を聞いた

大会はペナルティを課すべき

――eスポーツから礼儀作法を学べるようにするために、必要なことは何でしすか?

柴原:まず小中学校からの情報リテラシーやモラルに関する教育の徹底が挙げられます。また、アンガーマネージメントやメンタルヘルスといった自分自身の感情だけでなく、他者の感情にも配慮できるような教育が実施されることが望ましい。しかし、多忙を極める教育現場は多いため、なかなか時間を割くことが難しいのが現状です。

練習風景

――学校現場だけでは限界がありますね。

柴原:はい。eスポーツの大会数は増えていますが、主催者の方々にはただ大会を開催するだけではなく、選手は全員参加がの講習会を行い、先述したような礼儀やマナー、メンタルヘルスに関して学べる場を提供してほしいです。加えて、マナー違反などの言動について、大会ではしっかりペナルティを科す必要があります。

「小中学生が憧れるプレイヤーになろう」

――そもそも、選手はゲーム(試合)に対して、どのような心構えで臨むべきですか?

柴原:最高のパフォーマンスが発揮できるよう、心と身体の準備を行うことは大前提です。ただ、礼儀やマナーという点では、生徒に「常に第三者から見られている」「小中学生が憧れるプレイヤーになろう」「チームメイトは友人である」「対戦相手へのリスペクト」「自分が始めた時(弱い時期)に対戦して印象が良かった相手になる」ということは伝えています。

――ただ単にゲームを教えるだけではなく、指導者は教えることが多いですね。

柴原:そうですね。大会の意義や経緯を理解させたり、現実世界を充実化してもらうために各生徒の役割や居場所を作ったりなど、多岐に渡りますね。

第三者の視点から仲裁する

――柴原さんは実際にどのような指導をされていますか?

柴原:「生徒1人ひとりがそれぞれの場所で輝けるようにプロデュースする」という意識を持って指導しており、とにかく「結果ではなく取り組んだ過程を評価する」ということは重視しています。また、ゲームもお酒と一緒で「ゲームが悪い行いを誘発しているではなく、ゲームを通じて本人の本性が出ている」と考えています。そのことを踏まえ、マナー違反や暴言など、良くない素の部分が出た場合には注意や指導をしています。

大会の様子

――技術に関する指導は?

柴原:個人スキルの場合、コーチや自分より上手な人からアドバイスをもらったり、動画で自己学習するように促しています。チーム戦術の場合、講習会に参加したりプロから指導を仰いだりなど、様々な情報や意見を吸収した後、最終的にはチームで考えて実行する、というように自主性を持って取り組ませています。

――選手間のトラブルが予想されるため、チームに対する指導は大変そうな……。

柴原:自分の意見を一方的に伝えるのではなく、キチンと相手の話を聞いて、双方が納得できるようなコミュニケーションを取るように指導しています。また、意見に食い違いが見られる場合、第三者の視点から仲裁するように伝えていますので、あまりトラブルに発展することはありません。

ゲームがキッカケになり成長した生徒も

――これまで生徒がeスポーツを通して成長を感じた瞬間、エピソードなどありますか?

柴原:同好会発足当時、学校に足がなかなか向かない生徒に「学校に来るように」と連絡しても良い反応はなかったのですが、「一緒にゲームしよう!」と伝えると登校する機会が増えたことは嬉しかったです。

 また、中学時代に登校機会が少なかったものの、eスポーツと出会い、良いネット友達に出会い、様々なアドバイスをもらった結果、プレイでも有名になって自信を持ち、高校入学を機に欠席がほぼなくなった生徒もいます。現実世界でも一緒に日本一を目指す友人ができ、遅れていた勉強も短期間で克服し、学年上位の成績を残すようになりました。

――eスポーツが健全な成長のキッカケになる機会は多いのですね。

柴原:はい。親の引っ越しを機に登校できなくなり、親の希望で「日本に行って自分を変えてほしい」と理由から入学した中国の留学生もいました。当初、本人は気持ちが乗らず、日本語も分からず、全てにおいてやる気を無くしていました。ただ、中国にいた時にオンラインゲームにハマっており、そのことがキッカケでクラスメイトからゲームに誘われ、一緒に日本一を目指すことになりました。その後、本来の明るく優しい性格に戻り、一生懸命日本語の勉強をするようになり、日本の大学に進学しました。

生徒の数だけエピソードはある

――ゲームが言葉の壁を超える、というのは微笑ましいエピソードですね。

柴原:中学時代に引きこもり、家族に反発ばかりしていたのですが、eスポーツに取り組むようになって学校生活が充実して、精神的に余裕が生まれた生徒もいました。その生徒は家の手伝いや弟の面倒を積極的に行い、さらには親のため料理をするようになり、人間として大きな成長を見せました。

 また、県内の別の高校入学後、起立性調節障害が激しくなり通えなくなり、本校に転校してチームメイトと寮生活を始めることで起立性調節障害克服した生徒もいます。こういった話しは決して珍しいものではなく、生徒の数だけエピソードはあります。

――最後にeスポーツはどのように発展してほしいですか?

柴原:未だに「ゲームをすると頭が悪くなる」という俗説が広がっていますが、「平均より長時間ゲームをプレイしている子どもは知能が高くなる」という研究結果があります。もちろん、ゲーム障害のリスクも意識すべきです。

 しかし、先ほど話したようにゲームをキッカケに前を向けるようになった生徒は少なくありません。「ゲーム=悪」というイメージを変わっていけばと思います。そのためにも、野球やサッカーのように、スポーツ少年団やクラブチーム、企業スポーツのように広がり、eスポーツが社会に定着してほしいですね。

参考:
https://npb.jp/rookie/2022/
https://gigazine.net/news/20220513-video-games-boost-children-intelligence/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる