連載「multi perspective for metaverse」第三回(ゲスト:TREKKIE TRAX)
「メタバースの音楽」が持つ特徴とは? DJ RIO×TREKKIE TRAX(futatsuki&Carpainter)に聞く
毎回「メタバース×〇〇」をテーマに、様々なエンタメ・カルチャーに造詣の深い相手を招きながら、多面的な視点でメタバースに関する理解を深めていくDJ RIO氏の「multi perspective for metaverse」。
第3回の対談相手は、昨年VRChat上でワールドツアー『TREKKIE TRAX 9th Anniversary VRChat WORLD TOUR』を行った音楽レーベル・クリエイター集団であるTREKKIE TRAXのfutatsukiとCarpainter。
今回は「メタバース×音楽」をテーマに、コロナ禍で変化したDJ活動や、VRChatで行ったワールドツアー、バーチャルクラブを見て変わった価値観、メタバース上のクラブを起点に生まれる音楽シーンや、メタバースならではの音楽などについて、存分に語り合ってもらった。(編集部)
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■DJ RIO
2005年、慶應義塾大学環境情報学部在籍時代に、複数のスタートアップの創業に参加。事業売却後に大学を卒業し、4人目の正社員としてグリー株式会社に入社。事業責任者兼エンジニアとして、モバイル版GREE、ソーシャルゲーム、スマートフォン向けGREE等の立ち上げを主導した後、2011年から北米事業の立ち上げ。2013年に日本に帰国し、グリー株式会社 取締役に就任する。2014年にゲームスタジオWright Flyer Studiosを立ち上げ(現WFS)代表取締役に就任。2018年にはWright Flyer Live Entertainment(現REALITY)を立ち上げ代表取締役社長に就任。2021年、REALITYを中心とした「メタバース事業」への参入を主導。
■futatsuki
2012年よりDJ/オーガナイザーとして活動を開始。東京を代表する気鋭音楽レーベル「TREKKIE TRAX」の旗揚げに参加し、現在ではレーベルディレクターとして活躍。
日本のダンスミュージックを世界へ配信することを目標とし様々なアーティストのプロデュースを行っており、同レーベルは世界最大級の音楽レビューサイト「Pitchfork」「EDM.com」「Vice」などに取り上げられるほか、Skrillex, Diplo, Martin Garrix, Major Lazerといった世界的に有名な様々なアーティストからサポートを受けている。また同レーベルのオリジナルメンバーがb2bを行うユニット「TREKKIE TRAX CREW」のメンバーとしても活動しており、2016年にはアメリカツアーを行うほか、ageHa、VISION、WOMBなどの巨大ベニューで様々な外国人アーティストの来日公演のサポートを行っている。オーガナイザーとしては2012年よりインターネットレイブパーティー「MIXXXTURE」を発足。様々なジャンルをミックスしたパーティーはシーンに大きな影響を与えており、現在では自身が所属するレーベル「TREKKIE TRAX」のパーティーを初め、様々なイベントのプロデュースや外国人アーティストのツアーマネジメントを手がけている。
■Carpainter
横浜在住のTaimei Kawaiによるソロプロジェクト。Bass music/Techno musicといったクラブサウンドを軸に制作した個性的な楽曲は国内外問わず高い評価を得ており、これまで自身の主宰するレーベル「TREKKIE TRAX」や「Maltine Records」よりEPをデジタルリリース、2015年にはレコード形態でのEPやCDアルバムをリリースするなど、積極的な制作活動を行っている。ポーター・ロビンソン、tofubeats、初音ミク、東京女子流、カプコンといったメジャーアーティストにRemix提供など行っているほか、人気マンガ家「浅野いにお」がキャラクターデザインを務めた映像作品「WHITE FANTASY」では全編において楽曲を提供。2016年には仮面ライダーエグゼイドの主題歌である、三浦大知の「EXCITE」の作曲・編曲を共同で手掛け、同楽曲はオリコンシングルチャート1位を記録した。その勢いは国内だけにとどまらず、フィンランドの「Top Billin」やイギリスの「L2S Recordings」「Heka Trax」「Activia Benz」などからもリリースを行ない、イギリスの国営ラジオ局「BBC Radio1」や「Rinse.fm」「Sub FM」でも楽曲が日夜プレイされている。また中国や韓国、アメリカでのDJツアーも敢行した。2016年からは自身の楽曲により構成されたLive Setもスタートし、ライブ配信サイト「BOILER ROOM 」での出演などを果たしている。ほかにも、m-floの☆Taku Takahashiが主宰する日本最大のダンスミュージック専門インターネットラジオ局「block.fm」では、レーベルメイトとBass Musicを中心としたプログラム「TREKKIE TRAX RADIO」のパーソナリティも担当しているなど幅広く活動している。
「予想以上に僕たちが普段行ってきたクラブ体験に近しい感覚があった」
――『TREKKIE TRAX 9th Anniversary VRChat WORLD TOUR』が昨年VRChat上で開催されました。この先進的なライブについて、開催までの経緯などをお聞かせください。
futatsuki:僕たちTREKKIE TRAXという音楽レーベル・クリエイター集団は、アーティストとしてトラックメイカーとDJが基本的に所属しています。
普通の音楽レーベルとしてこの10年間で200枚近く様々なアーティストの楽曲をリリースしていますが、普通の音楽レーベルと違う部分としては、みんなDJをするので、音楽レーベル兼「DJ集団」というのが近いですね。音楽レーベルでもありつつ、DJがしたくて仕方ない、自分たちのDJパーティーやイベントをすごい大切にしてる集団だと思っていただければ一番わかりやすいかなと。
これまでTREKKIE TRAXは色々な都内のクラブやライブハウスに海外アーティストを呼んだり、ツアーを組んだりアニバーサリーパーティーを開催したりと、精力的に活動してきました。ですが、コロナが流行った関係で、そもそもDJをする場所すらなくなってしまった。
投げ銭で収益を上げる配信イベントのお話もいただいていたんですが、配信イベントが乱立していたのもあって、結局8周年のパーティーはやらなかったんです。9周年に際していろいろ模索していたときに、コロナのタイミングでVRChatを始めた友人のHirokiさんという方から、「ここのDJシーンがいま、めちゃくちゃ面白くてアツい」というプレゼンを何度も熱心にされたんです。
ーー元々、VRChat自体は知っていたのですか?
futatsuki:はい、ですがVRChatにDJコミュニティがあったのは知らなかったですし、どういう人たちがいてどういうイベント・パーティーがあるのか全く分からない状態でした。各々がVRChatを体験しDJパーティーにも遊びに行ったところ、予想以上に僕たちが普段行ってきたクラブ体験に近しい感覚があったんです。
僕たちが配信イベントの課題としていた「身体性が伴わない故に、コメントがどれだけ流れるかがすべて」といった現場感のなさが、VRChatだと解決されていました。実際のクラブは、別に喋ってなくてもお客さんがめちゃくちゃ踊ってたらいいパーティーだったり、逆に全然踊らなくても友達と話してるだけで楽しかったりと、各々の色々な楽しみ方がありますが、VRChat上ではそれが再現されていて、とても魅力的に映りました。
DJ RIO:素晴らしいですね。僕も同じような考え方を持っています。配信イベントではクラブイベントの要素の数%しか再現できていないのに対して、仮想空間に身体性が伴う。踊りたい人たちはフロアのブースの前にいたり、喋りたい人たちはそういう人たちで集まってたり、思い思いの楽しみ方ができる。
音圧が足りない、腹に響いてこないというような物理的な制約はありますが、今までのオンライン上の取り組みの中でも一番再現性が高いと思ってますね。
futatuski:TREKKIE TRAXはこれまでに、アメリカ、オーストラリアなど何ヶ国かをDJツアーして世界中を回ってきて、その頃に出会っていたDJやアーティストが意外とVRChat上でも活動していました。
SHELTERというアメリカのVRクラブをやってる2ToneDiscoやオーストラリアのLONERのVelatixのように昔から仲が良く、TREKKIE TRAXのパーティーに出てもらったり、現地で共演した知り合いがVR上でクラブをやっていたりして。彼らとも協力できるという話になって、今回はVRChat上での9周年ツアーを実施しました。
――実際に開催していかがでしたか?
futatuski:TREKKIE TRAXの9周年ツアーは先ほどのSHELTERとLONER、そして僕たちがずっとパーティをやってきたclub asiaをVR上に再現し、計3ヶ所で開催しました。
正直、SHELTERとLONERに関しては彼らがずっと開催してきたパーティーに僕たちが参加させてもらっただけだったので、自分たちのパーティーというよりかは、どちらかというとゲストで呼ばれたという感覚でした。それでも海外の人気VRということもあり、かなりワールドも作り込まれており驚きました。
また、club asiaでのパーティーに関しては、僕たちが実際のclub asiaでやってきた自分たちのレーベルのパーティーそのものがVR上で再現されていた感じがしました。
実際の現場でプレイしたときにお客さんがめちゃくちゃになって、何か叫びながら走り回る・モッシュするように、VR上のclub asiaでみんなが叫びながらコントローラーをガチャガチャしながら走り回ったりステージに上がって、自分の気持ちの高ぶりを最大限表現してくれた。そういう熱量がすごい伝わってきたんで、その瞬間はめちゃくちゃ感動しましたね。
DJ RIO:客層は普段と違う人たちや新規の人たちが多かったですか?
futatuski:我々のリスナーでVRChatをやってる人たちってあんまりいないと思うんですよ。
もちろん配信で見てくれた人もいると思うんですけど、やっぱりVRChatは参入ハードルが高いのと、僕たちのリスナーのペルソナと一致してる部分があんまりないかなと思います。
DJ RIO:わかります。音楽ジャンルに表れてますよね。
futatuski:僕たちもVRChatで流行っているアニソンのような音楽も大好きですが、リリースしてるものはダンスミュージックなので、「現場にいたお客さんがVRにもいるじゃん」みたいな感覚より「VR上のお客さんは全員新規のお客さん」みたいなイメージですかね。
DJ RIO:逆に既存のリスナーさんではない新しいお客さんが来てるのに、そのリアルな現場でやってることと同じことが起きるっていうのはすごいですね。
Carpainter:だから「ネットで配信した」というよりは、「全く新しい土地のシーンの人たちが喜んでくれた」って感覚が大きいです。
DJ RIO:こちら側からも一人称視点でちゃんと目の前にお客さんも見えますからね。コロナ以降、緊急避難措置としてオンライン上でいろいろなバーチャルイベントが行われますけど、これは一時的なものなのか、今後も継続してやっていくことになるのか、どのように思いますか?
Carpainter:コロナ禍が収束したとしても続いていくんじゃないかなと思います。メタバース上でしか表現できないことがあるのはもちろん、いまメタバース上にある音楽シーン、クラブシーンはメタバースという土地にあるシーンです。
メタバース上にコミュニティがあって、そこに行かないと体験できない音楽シーンもできている。コロナ禍が終わったからといって全員現実に戻るようなことはないんじゃないかなと感じます。
futatuski:僕たちの入り方としては、現実の代わりをメタバースに求めていたんですよ。ただ、僕とCarpainterはツアーを終えて半年ぐらいめちゃくちゃVRChatで遊んで、「これは現実の代わりじゃない」とよく話しています。
例えば東京には東京のクラブシーンがあって、大阪には大阪の、名古屋には名古屋の、アメリカにはアメリカのシーンがある。それぞれの土地に紐づいた音楽シーンやそこにいるアーティストたちが間違いなくいるんですよ。
そこの雰囲気や、コミュニティごとに作っている音楽のジャンルが場所によってすごく変わるんです。VRChatもそういう町やコミュニティというか、一つの大きなくくりとして、平行してるけど別の音楽シーンみたいなイメージがすごい強い。もちろんお互い影響は間違いなくあると思うんですけど、現実がどうなってもVRはVRのシーンが続くと思いますね。
DJ RIO:まったく同意見です。別に現実世界の代替品ではないですからね。代替品だと思うと、足りないところがすぐ目についちゃうけれど、別のシーン、コミュニティとして存在しているから、そこと親和性が高いものは今後もやり続けるだろうし、そうではないものは別に無理に行かなくていいのかなというふうに思ってますね。