ストリーマー業界のパイオニアが説く“数字の意味”とは? プロゲーミングチームDETONATOR代表が考える「プロゲーマーとそのセカンドキャリアの在りかた」
かつてPC向けFPS(ファースト・パーソン・シューティングゲーム)『Alliance of Valiant Arms(アライアンス オブ ヴァリアント アームズ)』における日本最強アマチュアチームとしてその名を轟かせ、いまや国内屈指の規模・実績・知名度を誇るプロゲーミングチームへと発展を遂げたDETONATOR(デトネーター)。
国内外のeスポーツシーンの最前線で活躍する一方、現役引退した選手らを“ストリーマー”――ゲームをプレイしながらライブ配信(ストリーミング)を行う配信者――として多数マネジメントしている点も、チームの大きな特色となっている。
そんなDETONATORの代表として2009年の発足当初から、つねにチームを支え続けてきたのが、江尻勝(えじり まさる)氏だ。プロゲーミングチーム経営者の目線には、現在のプロゲーマーを取り巻く環境や、プロゲーマーのセカンドキャリアの現状はどう映っているのだろうか。(山本雄太郎)
【特集】プロゲーマーになる方法と、そのセカンドキャリアについて
「なぜ、あなたにお金が発生するのか」を伝えていく責務
――はじめに、DETONATOR代表としての現在の活動内容を教えてください。
江尻勝(以下、江尻):DETONATORの運営会社として設立した“株式会社GamingD”の代表取締役を務めつつ、チームの代表として運営全般に携わっています。昨今はゲーミングチームを運営する者が、そのまま経営者になり得る時代になりました。
昔はそれこそ、ゲームのなかでチームを作って、「メンバーみんなで高め合おう、勝とう」……という組織の在りかたでよかったのですが、対外的なチームの見えかたであったり、周囲の環境が変化していくに従って、“プロゲーミングチーム代表”という立場に求められるものも変わってきていると感じています。
――プロゲーミングチームを取り巻く人や環境の変化というと、どのようなものが挙げられますか?
江尻:いまの若い人たちは「ゲーミングチームに入った瞬間から、何もかもが用意されている」という認識なんですね。“何もかも”とは、たとえば一般企業の正社員レベルのお給料であったり、ゲーミングハウス(選手のためのシェアハウス兼練習場)であったり。それらがすべて手に入るものだと。
もちろんその認識が間違っているだとか、「いまの若い人たちはけしからん!」などと言うつもりはありません。我々としてもプロとして選手を雇う以上、間違っても不当に低いお金しか渡さないなんてことはしませんし、できる限り高報酬・好待遇で迎えてあげたいという想いもあります。
ただ、プロゲーマーという肩書きを得た瞬間に高報酬・好待遇が手に入るかといったら、そこはやはり個々人の活動実績やパフォーマンス次第になるわけです。そういった意味では「プロゲーマーは夢のある職業だ」という認識が先行気味で、現場の僕らの認識とギャップが生まれつつあります。
こうした認識が、我々現場の人間が教育する以前から、すでにいまの若い人たちのあいだに広がっていることが僕としては驚きでした。自分も時代に合わせて感覚を変えていかねばならない部分はあるけれど、“お金に対する価値観”については安易に歪めてはならない部分もあるわけです。
だから僕は、チームメンバーたちに対して、「なぜ、あなたにお金が発生するのか」という部分を欠かさず伝えるようにしています。それをきちんと伝えるか否かで、お金に対する意識もまったく違ってくるでしょうから。
――プロとしてのマインドセット教育まで取り組まれているというのは、やはりアマチュアチームを原点としてプロチーム化にいたった経緯を持つ、DETONATORならではの特色なのかなと思います。
江尻:どうなんでしょう(笑)。少なくとも、当時の僕らはそれが当たり前だったというだけなので。誤解を恐れずに言えば、僕らは“プロゲーマー”や“eスポーツ”というワード自体に、これといったこだわりは持っていないんです。なぜならば、“プロ”とは自分たちから名乗るものではなく、周囲の評価によって成り立つものである、という考えかたを根底にしているからです。
DETONATORを“プロゲーミングチーム”として認識していただけるのであれば、それはそれでありがたいことだと思います。とはいえメンバーに対して、「うちに入ったからには、今日から君はプロゲーマーだ」などと言ったことは一度もありません。プロとして認められたいのであれば、プロと認められるに相応しい行動を取ってほしい……僕から伝えたいことはその1点だけです。
立ち上げ当時のメンバーを思い返してみても、“プロゲーマー”という言葉に対して憧れているような人はひとりもいなくて、彼らは純粋に”勝ちたい”から真剣に取り組んでいたわけです。そして、勝った結果としていろいろな肩書きが後からついてきた。それが時代とともに変化し、現在では“プロゲーマー”という職業そのものに憧れる人も増えてきています。
世代が変われば考えかたも変わるのは当然。しかし、僕としてはあくまで「あなたのことを周りがどう見るか」が最大のポイントだと考えています。
自己を表現し続ける“行動力”こそが、プロゲーマーとしての価値に繋がる
――時代の変化とともに現れた“プロゲーマー”に憧れる若者たちに向けて、伝えたいメッセージはありますか?
江尻:メッセージというほどのものではありませんし、あくまで無数にある考えかたのひとつとして捉えてもらえたらと思うのですが……僕からは「SNSだけに頼っているようではプロには向いていないよ」と伝えたいです。
SNSでしか自分の感情を表現できないような人に務まるほど、プロゲーマーの世界は生半可ではありません。プロとして続けていきたいのならば、自分がそのシーンで何をどう表現していくかが大事なのであって、表現し続けることで初めて価値として認められるわけです。最終的にどのような将来を目指すかは人それぞれでいいと思いますが、まずは行動力がなければ何も始まりませんし、長続きもしないと思いますから。
――活動を続けていくことが価値になる。そして、続けていくためには個々の行動力が問われるということですね。
江尻:もっとも、プロゲーマーとして長く活動を続けていけるかどうかには、選手たち個々の努力だけではどうにもならない部分があるのも事実です。近年の事例として真っ先に挙げられるのは、チーター(※1)問題ですね。ゲームタイトルによってはチーターが蔓延しすぎていて、プロとして質の高い練習を継続していくことが物理的に不可能になってしまったケースもあります。
(※1)チーター……コンピューターゲームにおける不正行為やハッキング行為は“チート(cheat)”と呼ばれる。“チーター”とは、チートを行って自身に有利な状況を生み出し、そのゲームの競技性を著しく損なうプレイヤーのことを指す。
そうなると、もうどれほど選手が努力を費やしても心身ともにボロボロになっていくばかりで……。そういった意味では、一概にその人の適性やモチベーション、チーム側のサポートだけでは解決できないような問題で選手寿命が縮まってしまうこともあります。それがプロゲーマーという職業の現状だとも言えます。このことはプロゲーマーを目指そうとする人にも、プロゲーマーを応援するファンの方々にも、事実として知っておいてほしいと思います。
また、もちろんゲーム開発・運営側の責任だけでなく、プロゲーミングチームを運営する我々としても、これからプロゲーマーを目指そうという若い人たちに対して、現状で100パーセント素晴らしいものを提供できているか、と問われると、正直、僕は全然納得していません。「プロチーム入りを目指すのだったら、やはりDETONATORに入りたいよね」とみなさんに思ってもらえるよう、もっともっと魅力的なチーム運営をしていかなければならないと思っています。